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三人の魔女 第7章

 三人の魔女は行く、タンカーに乗って。
「このタンカー、どこに向かってるの?」
 航海三日目、アリスが今更な疑問を提示した。
「え、さぁ? 多分中東のあたりじゃないの? 中、輸送機械とかだったし」
 中とは、船倉の中身のことだ。この無人タンカーは統一政府の指示に従い世界中に物資が行き渡るようにしている。日本に原油を運んでくるタンカーは中東から来ていて、中東に日本で生産された輸送機械を送っている、というのは割と知られた事実だ。
「けど変じゃない? クレーンの配置的にこのタンカー、あそこで積み下ろしされたのよね? けどあそこには原油を受け取れそうな設備はないし、そもそも今見て気付いたけど、原油用の船倉と車両用の船倉は構造が違う。これはどう見ても車両用の船倉よ、どうやって切り替えてるの?」
「言われてみれば謎ね」
「でも、日本に原油が来てるのは間違いないですよね? じゃないと、車とか動きませんし、火力発電も出来ませんし」
「えぇ……」
 アリスの疑問に悩みこむ二人
「単に原油を下ろすのは別のところでやっただけじゃないの? んで、そこでなんらかの方法で車両用に改修して、あの埠頭で車両を積み込んでる」
 しかし、ここでエレナはそこに待ったをかけることにする。
「楽観的な考えねぇ。でも、答えが出ない以上、ひとまずそれで納得するしかないわね」
「さ、アリス。今日も魔法の勉強するわよ」
「はい!」
 魔女狩り達も海の上までは追ってこない。そもそも彼らの1番の脅威がオーグギアによる監視である以上、それらがほとんどないうちの上はとても気楽な空間であった。もしエレナにこの世界を変えていきたいという意志がなければ、このままひたすらタンカーに揺られる生活というのも無しではなかったかもしれない。
 しかし誰かに合わなければ改革を成すことはできない。逆に改めてエレナ達は密かに実感していた。改革を志すということは、自ら人前に出るという事、世界という大きすぎる敵のオーグギアという広すぎる監視範囲に自ら飛び込むという事なのだ、と。
 ともかく、こうして彼女達は幾ばくかの休みの機会を得た。これが今生最後の安らぎの時間となるのか、それともやがて来たる長い安息の時のための僅かな休憩時間となるのか、それはまだ、誰にも分からないこと。

 

「そう言えば、エレナさん、私ふと閃いたんですけど……」
「あら、ジャンヌ、どうしたの?」
 ある夜、妙なガラクタの筒を眺めているエレナにジャンヌが話しかける。
「あ、えと、お邪魔でしたか?」
「いいのよ、失敗したところだから」
「何をしてたんですか?」
 ジャンヌの問いにエレナが持っていた筒を見せる。
「この筒が艦内に落ちててね。多分パイプか何かだと思うんだけど、これで望遠鏡を作れないかと思って。けど、レンズがないのよね」
「望遠鏡……あ、魔法に使う?」
「えぇ。私の魔法には星のエネルギーがいる。そしてそれを魔法として使える形にするには、望遠鏡が不可欠なの。……まぁ私のイメージ力次第ではあるんだろうけど……」
「抽象的なワードな分、望遠鏡っていう道具を使って具体性を保とうとしている、みたいな感じですか?」
「いい例えね。「星」ってだけだと出来ることが多すぎて、逆に何も出来ない。でも、望遠鏡を通して特定の天体を見ながらイメージすれば、そこにフォーカスした魔法を使うことができる」
「抽象的な属性の魔女はなんらかの手段でそのイメージを具体的に固定しなければならない。エレナさんは天体観測。ということはアリスさんは歌?」
「正解。夢は星以上に掴み所がないからね、今のやり方に行き着くまでにだいぶ苦労したみたいよ」
 ジャンヌはその苦労を想像する。自分は能力が勝手に発動してしまいとても困った。魔女狩りに追われ、世界一不幸だとさえ思った。けれど、逆に持っているはずなのに全く使えない、というのはどのような心境だろうか。
「それで、そっちの用事って?」
「え?」
「えっ? って、ジャンヌが何か用事あるって言ったんでしょ?」
「あっ、そうでした。私、これまで壁を作るのと自分の作った壁を操作するのをやってきましたけど……」
「えぇ、かなりいい感じになってきたわよね。後は作れる壁の大きさとか高さとか……」
「あの、それもそうなんですけど、それって、私の作った壁にしか出来ないんでしょうか……?」
 ジャンヌの提案にエレナは一瞬キョトンとして。
「いい発想ね、ジャンヌ! もちろん答えは私には分からないわ。けど、あなたは壁のプロフェッショナル! きっと出来るわ! 明日から早速試してみましょう!」
 力強く起き上がり、ジャンヌの手を握って喜ぶ。
「出来ることが限られている魔法において、発想っていうのはとても大事なの。抽象的な属性なら形にするために、具体的な属性なら出来ることを広げるために。いずれにしても今のやり方以上に何が出来るかを考えるのは、魔女にとって大事なことなのよ」
 それを放棄してしまう魔女ももちろんいるけどね、と笑うエレナ。
「さて、じゃあ明日に備えて寝ましょうか。私は自分の部屋に戻るわ、ジャンヌもそうしなさい」
「はい」

 

「はっくしょん!!」
「あら、風邪? なんとかは風邪引かないって聞くけど嘘なのね」
「なんとかって?」
「なんだったかしら」
 ソーリアが豪快にくしゃみを放ち、プラトが笑う。ソーリアの姿をしているプラトはまるで双子のようだが、その笑い方を見れば彼女がソーリアでないことはすぐに分かる。もちろん、口調でも。
「で、今後どうするのさ」
「そうねぇ、あの3人は中東の方に逃れるみたいだし。私達もヨーロッパの方にでも逃れましょうか。あの子達、改革をしたいらしいから、きっとヨーロッパの方に来ると思うし」
「よーし、じゃあ、よーろっぱに、しゅっぱーつ!」
 
 翌日の朝。周りは霧で真っ白だった。
「今どの辺?」
「スマートフォンの位置情報を切ってますから……」
 アリスが問いかけ、ジャンヌが答える。
「毎朝聞いてるけど、それどう言う答えを期待してるの?」
「いや、エレナ辺りがふと見えた湾岸とかから、割り出せたりしないかと思って」
「こんな霧の中じゃどう考えても無理でしょ。それに流石に中東周りの地形とかは詳しくないわ」
「もうすぐアデン湾に入るところさ」
 白い人影が、そこにいた。平坦なシルエットだが、服装から女性とわかる。スカートを履いた少年という可能性はあるが。
「誰!?」
「ボクはトリアノン。魔女さ、いやー、この航路のタンカーに人が乗ってるのを見るなんて初めてだ。いい加減護衛をつけたってわけかな? まぁいいさ、バーソロミュー、こっちだ」
 灰色の遠い霧の中から、一隻のガレオン船(4,5本の帆柱と1,2列の砲列を持つ大型の船のこと)が姿を現した。そしてその何より、そのガレオン船にはためく海賊旗ジョリー・ロジャーが示すのは……。
「海賊!?」
「いや、2032年にもなってあんなクラシックな海賊いないでしょ。海賊なんて実際には……」
「そ、そんなことより、この無人船、海賊にどう対抗するんでしょう?」
 アリスの発言が終わると同時、まるで空気を読んだかのように、タンカーの側面から小型のドローン無人機が大量に分離する。
「あんなの、ついてたん、です、ね」
「みたいね」
「多分あれのカメラ映像は解析に回るわ。私達は船内へ」
「はい」
 ドローンは4本のプロペラで飛行する所謂クアッドコプターと呼ばれる種類のもので、正面にカメラと、左右に小型の機関砲が搭載されている。それが群れとなって海賊旗はためくガレオン船に向かっていく。
 ガレオン船は尚も前進を続ける。そして、ドローンがガレオン船を囲った直後。
「今だ、エルドリッジ! もう一仕事頼んだ!」
「……ん」
 舵を握る男が叫び、側に控えていた白い服、白い髪、白い肌の、白い少女が頷く。
 白い少女が腕を広げると同時、ドローンは何かを食らったかのように仰け反り、そして火花を散らしながら落ちていく。
「今の、EMP電磁パルス!?」
 船内の窓からその様子を見つめ、驚愕するエレナ。
「よし、邪魔は消えた! 左舷、発射用意!」
 ガレオン船が進路を変える。こちらに腹を見せる形。一見すると諦めたかのように見えるが、当時の船舶の構造を知っていればそうでないことが分かる。当時の船舶は側面に複数列のカノン砲やカルバリン砲(カノン砲より威力は劣るが射程が長い砲のこと)を積んでおり、その火力を最大限に発揮するには、攻撃したい対象を自身の側面にとらえる必要があった。つまり、ガレオン船が進路を変えたのはむしろ。
「ジャンヌ! この壁全体を補強して!」
「えっ、あっ、はい!」
 ジャンヌが腕を前に突き出し、ふんっ、と気合いを入れると、壁が出現する。
「片舷斉射!」
 しかし、ジャンヌの頑張り虚しく、放たれた砲撃がその壁を貫く。その結果待つのは、側面通路にいた3人の海への落下であった。
「いや、私のヘッドホン!!」
 アリスが自身のカバンに手を伸ばすが、カバンは海面に落ちて、そして水中に沈んでいく。

 

「よーし、敵の動きは止まった。グランプリングフックを用意しろ、乗り込むぞ! 目標は情報結晶だ。見逃すな!」
「あー、バーソロミュー、それなんだけどね、この船、復路だよ」
「なに?」
「いや、だからね。この船、復路だから、情報結晶は……」
「ちっ、そうか。まぁ、それでも役にたつもんはあるだろう。どれ、オレも行くかな」
「それにしてもさっき見かけた護衛は全く障害にならなかったな。なんだったんだろ」

 

 その様子を紫のラインで描かれた縦横二つの目のような模様を持った黒い球体が見ていることには、誰も気付かなかった。

 

to be continue...

 

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