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三人の魔女 第16章

日本編のあらすじ(クリックタップで展開)

 ある日、天体観測を楽しんでいた魔女エレナは、重く硬い金属が鉄筋コンクリートに当たって跳ね返るような奇妙な音と悲鳴を聞く。
 困っている人を放っておけなかったエレナは座り込む少女、魔女ジャンヌを助ける。彼女は閉じた瞳の様な意匠のフードを被り、メイスのようなゴツゴツした先端の二又に槍を持つ怪しい男たち「魔女狩り」に追いかけられていた。
 エレナはジャンヌと共に逃走を始めるが、すぐに追い詰められてしまう。そんな二人の前に姿を晒したのは異端審問間のピエール。ピエールは言う。「この世界には魔女と呼ばれる生まれつき魔法と呼ばれる不思議な力を持つ存在がおり、その存在を許してはいけないのだ」、と。
 しかし、実は自らもまた魔女であったエレナはこれに反発。フィルムケースを用いた「星」の魔法とジャンヌの「壁」の魔法を組み合わせ、「魔女狩り」から一時逃れることに成功する。
 そして二人はお互いに名乗り合う。魔女エレナと魔女ジャンヌ。二人の魔女の出会いであった。  しかし魔女狩りは素早く大通りへの道を閉鎖、二人の逃走を阻む。ジャンヌの魔法を攻撃に使い、強引に大通りに突破したエレナは、魔女仲間のアリスからの連絡に気付く。それは魔女狩りの存在を警告するメールだったが、もはや手遅れ。エレナはその旨を謝罪しアリスにメールした。
 メールを受けたアリスはすぐさま自らの安全な生活を捨てることを決意し、万端の準備をして家を飛び出した。
 逃走に疲れたエレナとジャンヌは一時的に壁を作って三時間の休憩をとった。しかし、魔女狩り達に休憩場所を気取られ、再び追い詰められる。そこに助けに現れたのはアリス。アリスは自身の「夢」の魔法で魔女狩りを眠らせ、その場を後にするのだった。
 逃れようと歩く三人。魔女について何も知らないジャンヌはエレナから魔女とは頭に特殊な魔法を使うための受容器を持つ存在で、魔法とは神秘レイヤーと呼ばれる現実世界に重なるもう一つのレイヤーを改変しその影響をこの現実世界に及ぼすものである、と説明する。
 そして魔女には属性があり、その属性に基づいた魔法のみが使える。具体的な属性の魔女は決まった事しか出来ない代わりに使いやすく、抽象的な属性の魔女は様々な事が出来るが使用には工夫がいる、といった違いがある。
 そんな中、アリスもまた、衝撃的な事実を告げる。この世界で誰もが身につけているオーグギア。このオーグギアの観測情報は全て一元に統一政府のもとで管理され、秘密裏に監視社会が実現しているのだ、と。
 そして、エレナは統一政府と戦い、好きなことを好きなように出来る世界を目指すことを決意するのだった。  その決意表明を裏で聞いていた者がいた。「姿」の魔女、プラトだ。プラトはその場を逃れるため魔女狩りに扮して逃れようとするが、その場を「炎」の魔女ソーリアが襲撃してくる。
 魔女狩り狩りの常習犯としてすっかり知られていたソーリアはバッチリ対策されており、窮地に陥る。目の前で魔女が狩られるのを見過ごせないプラトは咄嗟にソーリアを助ける。そして言うのだった。「世界をなんとかしようとしている三人の魔女がいる。魔女狩りを狩りたいなら、彼女達のために戦うのはどうか」、と。
 プラトとソーリアがそんな話を進める中、三人は貨物列車に忍び込んでいた。アリスの父親の会社の貨物に紛れることを企んでいるのだ。
 しかし、早速トラブルは発生した。暗闇に怯えたジャンヌが大きな光り輝く壁を作りその中に隠れてしまったのだ。壁は天井を通り抜けており、明らかに異常な見た目をしていた。  なんとか喧嘩も納め、ようやく睡眠に入ろうと言う時、列車が止まる。  コンテナの中という袋小路で絶体絶命かと思われたが、エレナの魔法とジャンヌの魔法を組み合わせ、密かに脱出することに成功した三人は、しかし、その後の道を失い悩むことになる。
 そこでジャンヌが提案したのは、かつて仲の良かった兄のような警察官を頼れないか、ということだった。頼った相手、鈴木すずき光輝こうきはこれを快諾。脱出に使えそうな船を調べ、教えてくれた。
 しかし光輝にピエールの魔の手が迫る。プラトが彼に変身し大暴れしてしまったため、裏切りの嫌疑がかけられてしまったのだ。光輝はジャンヌの身を案じ、自らも埠頭に急ぐのだった。  またしても自身の臆病さが原因で迷惑をかけたジャンヌはエレナから魔法の制御について学ぶ。それはほんの少しの成功体験へと繋がり、彼女の自信へと繋がっていく。
 ようやく埠頭にたどり着いた三人だったが、光輝の携帯から情報を仕入れていた魔女狩りは軍用装甲パワードスーツコマンドギアと攻撃垂直離着陸機ティルトローター機を投入してきた。
 絶体絶命の三人だったが、助けに現れた光輝とソーリアそしてプラトにより三人は無事タンカーに乗る事が出来たのだった。  タンカーに乗った三人。しばらく安全で平和な船の旅が続くが、突如トリアノン、エルドリッジ、バーソロミューと呼ばれる魔女達が操る海賊船の襲撃を受ける。彼らは「情報結晶」と呼ばれるものを求めてタンカーを攻撃してきたらしい。
 砲弾の直撃を受け、海に落下する三人の魔女。その行先は……?

中東編のあらすじ(クリックタップで展開)

 海岸に流れ着いたエレナは突如としてビームを撃つ目玉のような模様の球体の攻撃を受ける。合流してきたジャンヌとの協力によりなんとか倒すことに成功する。
 その後アリスとも合流することに成功。アリスは大事なヘッドホンを無くしたことに衝撃を受け、探し続けていたらしい。
 天体の配置から現在位置をソマリアのボサソだと特定したエレナはナイル川を北上しカイロに向かうことを提案する。  その頃プラトとソーリアは中国でシベリア鉄道に乗ろうとしていた。プラトはそこにある動いていないはずの油田が何かに電力を消費していることを訝しむが、電車の到着を受けて調査を諦め、移動を優先する。
 そしてそんな二人の様子をりんごを齧りながら眺める何者かが一人。
 視点は三人の魔女に戻り、一週間後。不可解な事にアリスの消耗が異常に早い。
 原因が睡眠不足にあるのは明らかだ。三人はリフレッシュのためビジネスホテルに宿泊することを決める。
 しかし翌日の朝、海岸でエレナを襲撃してきた黒い目玉が襲撃してきた。黒い目玉は魔女を狙うわけではなくただ暴れ回っているだけの様子だ。三人は魔女狩りに目をつけられることを恐れ、混乱する町を背に歩き出すのだった。
 しかしその後もアリスの様子は変わらなかった。アリスは頑なに眠ろうとしない。  不思議に思う一行に再び黒い目玉が襲撃してくる。寝落ちしたアリスを背負いながら逃げる一行だったが、目覚めたアリスが突然暴れ出す。そしてあろうことかエレナとジャンヌに魔法を使い、一人どこかに逃げ出したのだった。
 そこに運悪く現れる魔女狩り達。追われる二人を魔女を息子に持つ父・オラルドが庇ってくれた。
 一方その頃、ヨーロッパに到着したプラトとソーリアもまた、謎の理由で仲違い。それぞれ別の道を歩きだしたのだった。  アリスが一人飛び出した理由が分からないエレナにジャンヌは自らの推測を告げる。謎の黒い目玉、アリスが「砲台」と呼んだそれは、アリスが眠ってしまうことで魔法の制御を失ってしまい生じた産物ではないか、と。その理由は魔法の制御に使っていたヘッドホンを無くしたからではないか、と。
 そしてジャンヌはアリスは中央アフリカ共和国のラウッウィーニ商会の施設に隠れているのではないか、と推測。二人はそちらへ向かう事にした。
 一方、プラトは自らの好奇心に突き動かされ、フランスの原子力発電所を調査していた。ところがそこに現れたのはソーリアと見知らぬ似非侍のような魔女。プラトは二人の攻撃に対処しきれず、退散するのだった。
 中央アフリカ共和国に向かう二人はそこで魔女の共同体と出会う。共同体の力を借りた二人は魔法を組みわせて車を作り、一気に中央アフリカ共和国に向かうのだった。
 一方、ソーリアはプラトが変身した矢を放つ謎の魔女に追われていた。そこに助けに現れたのは魔女アイザック。彼は魔女同士の会合があると言い、ソーリアを誘う。  アリスがいると目される町、ビラウに辿り着いた二人だったが、そこは既に魔女狩りに包囲されていた。
 アリスは魔女狩りに追い詰められ、死を覚悟していたが、そこに彼女と縁のある御使い・《神の命令》サリエルが姿を表す。二人は最後の抵抗を始めるが、やがてそれも終わろうとしていた。
 そこに車に乗って助けに現れたのはエレナとジャンヌの二人。エレナはヘッドホンをアリスに手渡し謝罪。ここに三人の魔女は再集結したのだった。
 一方、御使いの出現という緊急事態に、新たな異端審問官が動員されようとしていた。  元リチャード騎士団筆頭騎士・メドラウド二世が三人の魔女を追い詰める。サリエルは自身を囮とすることで、三人を逃がそうとするが、メドラウド二世はそれを許さない。
 しかし、エレナとアリスの「魔女狩りは正義なのか」という問いかけにメドラウド二世の剣は揺らぐ。結局その場は見逃してもらうことが出来たのだった。
 その頃、囮となっていたサリエルは凡百の魔女狩りを殲滅し、優秀な部下二人も殺そうとしていた。そこに現れたのは白い粒子を操る黒髪長髪の女性。彼女は人間離れした身体能力で化け物と化したサリエルを撃破した。

エジプト編・前回までのあらすじ(クリックタップで展開)

 サハラ砂漠に入った三人は、そこでプレッパーと呼ばれる反統一政府の人々と知り合う。
 ところが、彼らの中にも意識の差があり、三人の居場所が魔女狩りに知られてしまう。急いで逃げようとする一行の前に現れるのはサリエルを下した黒髪長髪の女性だった。

「助太刀、参上でござる」
 金髪をポニーテールにまとめ、和服風の洋服を着て、腰に空っぽの鞘を二つ下げた少女が三人に向けて振り返り、ふっと笑う。
「魔女……?」
「然り。拙者は……「切断」の魔女、ムサシでござる」
 ムサシと名乗る魔女が笑う。
「増援とは驚きましたが、狩られる魔女が増えるだけの話です」
 二又の槍を持つ黒髪長髪の女性が努めて冷静に言う。視線はバイザーで見えないが、口元は一文字に結ばれている。
「拙者をそう簡単に倒せると思われては、困るでござるな!」
 ムサシが駆ける。
 右手を空っぽの鞘に添え、そして、刀を抜くような動作を取る。
「せいっ」
「!」
 何も握っていない右腕をまるで刀を振るうかのように振るう。
 一見すれば意味不明の攻撃、それを黒髪長髪の女性は槍の柄で受け止める動作を取る。
「切断力を刀の形にして、振るっているのですね。その魔女名から考えれば、本当なら完全に虚空を切断することも可能でしょうに、効率の悪いことを」
「そっちも、できるでござるよ、千風刃せんぷうじん!」
「!」
 ムサシが空手となっている左手を黒髪長髪の女性に向ける。
 黒髪長髪の女性はそれに脅威を感じ、咄嗟に後ろに飛び退く。直後、ギリギリ先程まで射た場所に残っていた槍の先端が四方八方から弾かれる。
「その名の通り、特定の場所を千回斬る技、というわけですか」
「さすが百戦錬磨の神秘根絶執行員でござるな、危機管理能力は侮れんでござる」
 そう言いながら、ムサシはさらに一歩踏み込み、不可視の刀を振るう。
 刀と槍を打ち合わせること五度。千風刃を警戒してか、最初のような鍔迫り合いにはならず、ぶつかって引いてを繰り返す。その光景を見たものは誰もがムサシが押している。と思うだろう。明らかに黒髪長髪の女性が退き続けている。
「なるほど、あなたの刀は見切りました」
 横一文字に振るわれる不可視の刀、それを黒髪長髪の女性はこれまでのように槍で受け止めるのではなく、半歩下がって回避し、槍を一気にムサシに突き立てる。
「なっ!」
 咄嗟に左手を腰にやり、刀を引き抜く動作をして、その槍を受け止めるムサシ。
「なるほど、もう一太刀ありましたか」
「せ、拙者に二の太刀を抜かせるとは、さ、流石でござるな」
 流石に冷や汗を流すムサシ。後一瞬刀を抜くのが遅れていたら、ムサシの腹は槍によって貫通していたことだろう。
 ――い、今のはどういうことでござる? 此奴、こちらの一の太刀切断範囲ぎりぎりを狙って避けたように見えたでござる。
「私もかつては刀を使っていました。何度も受け止める場所を変えて攻撃を受け止めればおおよそのサイズは分かります。刃長は81センチほど、全長は117センチ程度といったところですか? なるほど、武蔵の和泉守藤原兼重いずみのかみふじわらかねしげを模しているのですね」
 ムサシの驚愕に対し、黒髪長髪の女性は努めて冷静に説明する。
「ほ、ほう。流石でござるな……」
 一方のムサシも自らの不可視の武器の形状を完全に分析され、冷や汗を流しつつも、ポーカーフェイスで応じる。
「えぇ、何度も和泉守藤原兼重とは打ち合ったことがありますので、とすると、二の太刀とやらは無銘金重むめいかねしげでしょうか?」
「そ、それは打ち合ってみれば分かることでござろうな」
 ムサシのポーカーフェイスが崩れかけている。図星なのだ。
「確かに。では、次の一撃で終わらせるとしましょう」
 黒髪長髪の女性が一気に踏み込んでくる。
 鋭く突き出される二又の槍をムサシは二の太刀で受け止める。
 直後、黒髪長髪の女性の蹴りがムサシに向けて放たれ、ムサシは咄嗟に後方に下がる。
 だが、黒髪長髪の女性はこれを許さず蹴り出した足で一歩踏み込んで、さらに槍を突き出す。
「くっ、二の太刀にのたち小太刀こだち麗挫悪レーザー突きづき!」
 ムサシは飛んでくる追撃を半身逸らしで回避しようと試み、左肩にその槍の一撃を受けつつ、左手に持つ二の太刀を黒髪長髪の女性に向けて一気に突き出す。
 レーザーのごとく鋭い突きが黒髪長髪の女性の顔面に向けて放たれ、それが黒髪長髪の女性の頭を完全に吹き飛ばす――はずだった。
「まったく、窮鼠猫を噛むとはこのことですか」
 黒髪長髪の女性の顔面寸前まで迫ったムサシの鋭い突きは黒髪長髪の女性のバイザーを吹き飛ばし、その鮮やかな茶色の瞳を明らかにしたが、そこまで。
 黒髪長髪の女性の左手がムサシの二の太刀をがっしりと掴んでいた。
 当然掴んでいるそれは「切断力」そのもの。黒髪長髪の女性の左手は赤く血で染まっていたが、黒髪長髪の女性がそれで表情を歪めることはない。
「なるほど。どうやら、ただトゥクルの槍だけで応じるには限界がある相手のようです。私も本気を出すとしましょう」
 右手で持っていたトゥクルの槍をその場に投棄すると、血で赤く染まっていた黒髪長髪の女性の左手が白い粒子で明るく輝き始める。
「なっ、なんでござるか!?」
 危険を感じたムサシは二の太刀を放棄し、後方に大きく飛び下がる。
「この力、魔女の魔法にはあまり有効ではないのですが……」
 黒髪長髪の女性の左手から溢れる白い粒子が少しずつ形を取っていく。それは刀の形に見えた。
「刀……?」
「えぇ、せっかくなので当時私が使っていた形を模してみました。懐かしい、これが私の一ツ太刀ひとつのたちです」
 黒髪長髪の女性が地面を蹴って、一気にムサシに接近する。
「早い!?」
 咄嗟にムサシが一の太刀でこれを受け止める。
 見れば、黒髪長髪の女性の全身を白い粒子が纏っている。この粒子の正体は分からないが、これが黒髪長髪の女性の身体能力を大幅に向上させているだろうことは想像できた。
「そ、それは、神秘ではござらぬのか?」
 鍔迫り合いながら、ムサシが問いかける。
「えぇ、神秘ですよ。私という人間が生まれた時から持たされている神秘。間違った考えに囚われた陰陽師達とある武家が生んだ誤り驕った力です」
 黒髪長髪の女性の言葉には怒りがほの見えた。
「で、では、神秘を根絶するということはお主の命も危ういと言うことでござるぞ?」
その通りですよ。完全に神秘を根絶した時、神秘たる私の命も終わる。そんなことはもう17年も前に決めたことです」
 バイザーのない黒髪長髪の女性の表情から感じられるのは、その言葉が嘘ではない、ということだ。もうとっくの昔に覚悟は決まっている様子。
「千風刃!」
「ふっ」
 黒髪長髪の女性が大きく跳躍し、空中に飛び上がる。
「なっ」
 それどころか、空中で姿勢を変え、真上からムサシに襲いかかる。
「っ!」
 とっさにムサシは一の太刀で体を庇うが、上空から落下しつつ放たれる黒髪長髪の女性の一撃は鋭く、一の太刀は弾かれてムサシの手元を離れる。
「直接切断するのではなく、武器の形にしたのは失敗でしたね!」
 黒髪長髪の女性がムサシの後方に着地し、刀を斜めに向けた平正眼の構えを取りながら、ムサシに向き直り、そして。
「無明剣、三段突き!」
 鋭い必殺の一撃が放たれる。それは一度の踏み込みと同時に黒髪長髪の女性の視線のに見えるムサシの頭、喉、鳩尾を順に突く。
 が、しかし。
「消えた?」
 三段突きを受けたはずのムサシは直後、黒髪長髪の女性の視界からその姿を消した。
 慌てて、三人の魔女がいた場所を振り返る。と、そこには三人の魔女も黒髪長髪の女性の視界にいない。
「逃げられた……?」
 しかしいつ? 一の太刀を弾き返した時点ではまだあの場にはムサシがいたはず。ならば、自分が着地して振り返り三段突きを構えてから放つまでの30秒にも満たない僅かな間に幻影とムサシを取り替えたというのか。
「ホワイトインパクト」
 黒髪長髪の女性が白い粒子で構成された刀を左手に持ち替え、ぐっと左腕を握ると、刀が砕けると同時にまるで爆発したかのように白い光のドームが何度も急速に広がっていく。
「少なくとも魔法以外の神秘によるものではない、か」
 周囲を見渡すが魔女はいない。
「もう一人魔女がいたとは、私としたことが迂闊でしたね。まぁ、私の担当はそもそも魔女狩りではないのですから、仕方ない部分もあると思いますが。私はたまたま近かったから寄っただけ、後は現地の魔女狩りに任せましょう」
 そう言いながら、黒髪長髪の女性は乗ってきたティルトジェット機に飛び乗る。
 ティルトジェット機は推力偏向ノズルを稼働させ、どこかへと飛び去っていった。
「いやぁ、間一髪だったわね、ムサシ」
 ティルトジェット機が飛び去っていったのを見て、楽しそうに微笑む青い瞳に金髪ボブカットの少女。
「うむ、流石に死んだかと思ったでござる」
 その言葉に地面に伏せていたムサシが起き上がりながら答える。
「え、えーっと、な、なんであの人は私達を見逃したんですか?」
「恐らく、見逃したんじゃないわ。幻覚か何かを見せる魔法を使って私達全員の姿を隠した、そんなところじゃないの?」
「正解よ。私の魔女名はアビゲイル。「不信」の魔女よ、よろしくね、エレナさん」
 勝ち気な様子のアビゲイルはエレナに対してそう名乗った。
「私の名前を知ってるの?」
「えぇ、あなただけじゃなく、そっちの二人の名前も知ってるわ。ジャンヌさんにアリスさんよね?」
「……誰から聞いたの?」
 露骨に警戒するアリス。魔女同士と言えど気は抜けない。そう態度に現れている。
「あら、邪険にされてるわね。私達、魔女を集めてみんなで隠れ住んでるの。たまたま見かけたからあなた達もどうかな、って助けに参上だけなんだけど」
「質問に答えてないわね」
 アビゲイルの言葉に警戒を緩めないアリス。
「うーん。まぁそんなに難しいことじゃないわよ。私達の集落に魔女名を当てられる魔女がいるの。それだけのことよ」
「それは嘘よね。アリスは魔女名じゃない。私達も少し前に知ったところだけどね。つまりあなたは私達の話を聞いて、名前を分析しただけね。つまりあなたは先程私達を助けに現れる以前に私達の会話を聞く機会があった、違うかしら?」
「あら、手札を隠そうとしたのが裏目に出たわね……」
 アビゲイルの言葉に今度はエレナが反応する。アビゲイルは流石に表情を歪めた。
「いいわ、ごめんなさい。不必要に主導権イニシアチブを取ろうとしてたのが間違ってたわ。そちらのアリスさん同様、私達も必ずしもあなた達を信用して良いのかまだ悩んでるんだって理解してもらえると嬉しいわ」
「で、そのお互い不信がってる私達はこれからどうなるのかしら?」
 アリスは警戒を緩めない。
「私としては私達の集落に案内したいわ。そして可能なら私達の一員になって欲しい」
「ならとっとと、私達のことをどこでどうして知ったのか話すべきじゃない?」
 ニッコリと微笑むアビゲイルにアリスは依然厳しい視線を向ける。
「手厳しいわね。えぇ、いいわ、話すわよ。あなた達、日本のコンテナ埠頭でタンカーに乗ったんですって?」
「え、えぇ、そうよ」
 アビゲイルの問いかけに一瞬答えるか逡巡してから、エレナが答える。
「その時、火を使う魔女に助けられなかった?」
「あぁ、なんか突然飛んできて飛行機を撃墜しましたよね……」
 思い出したように語るジャンヌ。
「えぇ、彼女、ソーリアちゃんって言うんだけど、あなた達が逃走生活を開始した頃にそばにいたんだって、それでこっそり影から支援してくれてたらしいわよ」
「そうだったの……」
「えぇ、で、私達は彼女とたまたま出会ってね、それであなた達の話を聞いて助けに来たわけ」
 今度こそ納得でしょう? と微笑むアビゲイル。
「どう思う、エレナ?」
 決めかねたアリスがエレナに声をかける。
「んー、少なくとも私達がかつて火を使う魔女、アビゲイルの言葉を信じるならソーリアって子に助けられたのは確かだわ。可能なら、そのお礼は言いたいわね。言葉は原初の魔法だもの。お礼も欠かせちゃいけないわ」
「じゃあ、行くんですか?」
 エレナの見解にジャンヌが問いかける。今回の一件で魔女狩りに場所が割れている。速く逃げたほうが良いので、ジャンヌとしては可能な限り早く結論を出してほしかった。
「そうね。どのみちこの場に留まるのは危険だし、当初の目的だった図書館にも行けそうにない。となると、まずは彼女達の集落を目指してみるのは手だわ」
 そこに定住するかは別の問題だけどね、とエレナ。
「話は纏まったみたいね。じゃあ、行きましょう。私達の定住地、キュレネへ!」
 アビゲイルは意気揚々と歩き出し、ムサシがそれに続く。そしてそこに三人の魔女も続いた。

 

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