三人の魔女 第11章「不和の魔法」
ある日、天体観測を楽しんでいた魔女エレナは、重く硬い金属が鉄筋コンクリートに当たって跳ね返るような奇妙な音と悲鳴を聞く。
困っている人を放っておけなかったエレナは座り込む少女、魔女ジャンヌを助ける。彼女は閉じた瞳の様な意匠のフードを被り、メイスのようなゴツゴツした先端の二又に槍を持つ怪しい男たち「魔女狩り」に追いかけられていた。
エレナはジャンヌと共に逃走を始めるが、すぐに追い詰められてしまう。そんな二人の前に姿を晒したのは異端審問間のピエール。ピエールは言う。「この世界には魔女と呼ばれる生まれつき魔法と呼ばれる不思議な力を持つ存在がおり、その存在を許してはいけないのだ」、と。
しかし、実は自らもまた魔女であったエレナはこれに反発。フィルムケースを用いた「星」の魔法とジャンヌの「壁」の魔法を組み合わせ、「魔女狩り」から一時逃れることに成功する。
そして二人はお互いに名乗り合う。魔女エレナと魔女ジャンヌ。二人の魔女の出会いであった。
しかし魔女狩りは素早く大通りへの道を閉鎖、二人の逃走を阻む。ジャンヌの魔法を攻撃に使い、強引に大通りに突破したエレナは、魔女仲間のアリスからの連絡に気付く。それは魔女狩りの存在を警告するメールだったが、もはや手遅れ。エレナはその旨を謝罪しアリスにメールした。
メールを受けたアリスはすぐさま自らの安全な生活を捨てることを決意し、万端の準備をして家を飛び出した。
逃走に疲れたエレナとジャンヌは一時的に壁を作って三時間の休憩をとった。しかし、魔女狩り達に休憩場所を気取られ、再び追い詰められる。そこに助けに現れたのはアリス。アリスは自身の「夢」の魔法で魔女狩りを眠らせ、その場を後にするのだった。
逃れようと歩く三人。魔女について何も知らないジャンヌはエレナから魔女とは頭に特殊な魔法を使うための受容器を持つ存在で、魔法とは神秘レイヤーと呼ばれる現実世界に重なるもう一つのレイヤーを改変しその影響をこの現実世界に及ぼすものである、と説明する。
そして魔女には属性があり、その属性に基づいた魔法のみが使える。具体的な属性の魔女は決まった事しか出来ない代わりに使いやすく、抽象的な属性の魔女は様々な事が出来るが使用には工夫がいる、といった違いがある。
そんな中、アリスもまた、衝撃的な事実を告げる。この世界で誰もが身につけているオーグギア。このオーグギアの観測情報は全て一元に統一政府のもとで管理され、秘密裏に監視社会が実現しているのだ、と。
そして、エレナは統一政府と戦い、好きなことを好きなように出来る世界を目指すことを決意するのだった。
その決意表明を裏で聞いていた者がいた。「姿」の魔女、プラトだ。プラトはその場を逃れるため魔女狩りに扮して逃れようとするが、その場を「炎」の魔女ソーリアが襲撃してくる。
魔女狩り狩りの常習犯としてすっかり知られていたソーリアはバッチリ対策されており、窮地に陥る。目の前で魔女が狩られるのを見過ごせないプラトは咄嗟にソーリアを助ける。そして言うのだった。「世界をなんとかしようとしている三人の魔女がいる。魔女狩りを狩りたいなら、彼女達のために戦うのはどうか」、と。
プラトとソーリアがそんな話を進める中、三人は貨物列車に忍び込んでいた。アリスの父親の会社の貨物に紛れることを企んでいるのだ。
しかし、早速トラブルは発生した。暗闇に怯えたジャンヌが大きな光り輝く壁を作りその中に隠れてしまったのだ。壁は天井を通り抜けており、明らかに異常な見た目をしていた。
なんとか喧嘩も納め、ようやく睡眠に入ろうと言う時、列車が止まる。
コンテナの中という袋小路で絶体絶命かと思われたが、エレナの魔法とジャンヌの魔法を組み合わせ、密かに脱出することに成功した三人は、しかし、その後の道を失い悩むことになる。
そこでジャンヌが提案したのは、かつて仲の良かった兄のような警察官を頼れないか、ということだった。頼った相手、
しかし光輝にピエールの魔の手が迫る。プラトが彼に変身し大暴れしてしまったため、裏切りの嫌疑がかけられてしまったのだ。光輝はジャンヌの身を案じ、自らも埠頭に急ぐのだった。
またしても自身の臆病さが原因で迷惑をかけたジャンヌはエレナから魔法の制御について学ぶ。それはほんの少しの成功体験へと繋がり、彼女の自信へと繋がっていく。
ようやく埠頭にたどり着いた三人だったが、光輝の携帯から情報を仕入れていた魔女狩りは
絶体絶命の三人だったが、助けに現れた光輝とソーリアそしてプラトにより三人は無事タンカーに乗る事が出来たのだった。
タンカーに乗った三人。しばらく安全で平和な船の旅が続くが、突如トリアノン、エルドリッジ、バーソロミューと呼ばれる魔女達が操る海賊船の襲撃を受ける。彼らは「情報結晶」と呼ばれるものを求めてタンカーを攻撃してきたらしい。
砲弾の直撃を受け、海に落下する三人の魔女。その行先は……?
海岸に流れ着いたエレナは突如としてビームを撃つ目玉のような模様の球体の攻撃を受ける。合流してきたジャンヌとの協力によりなんとか倒すことに成功する。
その後アリスとも合流することに成功。アリスは大事なヘッドホンを無くしたことに衝撃を受け、探し続けていたらしい。
天体の配置から現在位置をソマリアのボサソだと特定したエレナはナイル川を北上しカイロに向かうことを提案する。
その頃プラトとソーリアは中国でシベリア鉄道に乗ろうとしていた。プラトはそこにある動いていないはずの油田が何かに電力を消費していることを訝しむが、電車の到着を受けて調査を諦め、移動を優先する。
そしてそんな二人の様子をりんごを齧りながら眺める何者かが一人。
視点は三人の魔女に戻り、一週間後。不可解な事にアリスの消耗が異常に早い。
原因が睡眠不足にあるのは明らかだ。三人はリフレッシュのためビジネスホテルに宿泊することを決める。
しかし翌日の朝、海岸でエレナを襲撃してきた黒い目玉が襲撃してきた。黒い目玉は魔女を狙うわけではなくただ暴れ回っているだけの様子だ。三人は魔女狩りに目をつけられることを恐れ、混乱する町を背に歩き出すのだった。
しかしその後もアリスの様子は変わらなかった。アリスは頑なに眠ろうとしない。
不思議に思う一行に再び黒い目玉が襲撃してくる。寝落ちしたアリスを背負いながら逃げる一行だったが、目覚めたアリスが突然暴れ出す。そしてあろうことかエレナとジャンヌに魔法を使い、一人どこかに逃げ出したのだった。
そこに運悪く現れる魔女狩り達。追われる二人を魔女を息子に持つ父・オラルドが庇ってくれた。
一方その頃、ヨーロッパに到着したプラトとソーリアもまた、謎の理由で仲違い。それぞれ別の道を歩きだしたのだった。
「それでは、お世話になりました」
「あぁ。二人とも、気をつけるんだよ」
目の前の初老の男、オラルド・ステイトの家に厄介になって数日。魔女狩りの捜索範囲は拡大していき、結果的にこのあたりは比較的手薄となった。
もう数週間もすれば魔女狩りも通常警備に戻るはずだったが、アリスを放置し続けることを良しとしなかったエレナの提案もあり、ギリギリを狙った結果が今のタイミングだった。
「いい人でしたね」
「そうね。アリスという先例があったとはいえ、魔女に好意的な魔女の親族がいるっていうのは良い情報だわ」
深夜、人の往来の無い町の中で二人が会話をしながら歩き始める。
久しぶりの安心できる睡眠は二人の気力を大きく回復させ、まだ魔女狩りの捜索範囲内であり、警戒しながらの会話であるにも関わらず、二人の会話はどこか明るい。
「アリスさんの家はアリスさんが魔女だって知っていたんですか?」
「えぇ。……ジャンヌはラウッウィーニ商会という企業を知ってる?」
エレナは少し悩んでから、ジャンヌに尋ねる。
「そりゃもちろん。主に輸入品店なんかをやってる大きな商社ですよね? 堺商会と並ぶ大企業って」
「そ。その社長、カッリスト・ラウッウィーニが、アリスのお父さんよ」
「え、そ、そうなんですか? いいところのお嬢さんみたいだなぁ、と思ってましたけど、本当にいいところのお嬢さんだったんですね……」
「そうね」
ジャンヌの感心しきりの言葉に苦笑する。
「それでね、ラウッウィーニ商会は魔女狩りとも繋がりがあるんだって。だから、アリスが魔法に目覚めた時もすぐそれに気づいたし、魔女狩りの行動の情報なんかも的確に入手して、アリスが魔女だってバレないようにしてきたの」
「なるほど。私と出会った日に、エレナさんに外に出ないほうがいい、とメールを送ってきてたのはそういうことだったんですね」
「ってことになるわね。ま、私達が魔女狩りに追われる身になったことでその生活を投げ出させちゃったけど」
――私達じゃはなくて、エレナさんが、なんだろうな
静かにジャンヌは思う。
合流したその時、アリスはジャンヌを足手まといだといった。最初からアリスが救いたいのはエレナだけなのだ。エレナは個々人で解決するべきことと考えているのか、一切言及してこないが、ジャンヌは最初からそう知っていた。
――アリスさんにとってエレナさんは恵まれた安全な生活を放り投げても守りたいほど大切な人なんだ
ジャンヌにはそうまでして思ってくれる人はいない。逆に同じように思う人もいない。そうまでして守りたい人がいるアリスと、そこまで慕われているエレナの関係、少し羨ましいと思った。
「けど、ならなんでアリスさんは……」
「ん? 人間、結局、手の届くところに困っている人がいたら、放ってはおけないのよ。オラルドさんがそうだったみたいにね」
エレナはジャンヌの呟きを生活を投げ出して助けに来た事を疑問に思っていると解釈したらしい。
「いえ、そうじゃなくて、そんな思いまでして助けた私達をなんで投げ出したのかなって」
ジャンヌは「本気で気付いてないのか、マジか」という本音を飲み込み訂正する。
――エレナさんは人間がみんな、良い心、みたいなものを持ってると信じてるんだな
ジャンヌにとってそれは眩しくもあり、同時に、どこか危なかしくもあった。
「多分だけど、私達を危険にさらさないため、でしょうね」
「私達を?」
「えぇ。あの子、あの目玉を見て「砲台」って呼んだわ。アリスはあれがなにか知ってるのよ」
「「砲台」……」
確かにビームは撃つし、そこまで違和感のある名称ではない。とはいえ、あれをみてすぐにその言葉が出てくるというのは確かに不自然感が拭えない。
「じゃあ、あの「砲台」? はアリスさんを狙ってる、そういうことですか?」
「えぇ。おそらくそういうことでしょうね」
エレナが頷く。
「さて、と。問題はどうやってアリスを探すか、よね」
「出来れば夜中のうちに見つけたいですよね」
「そうね。この辺は捜索範囲。日が昇って人の往来が増えるとまずいわ」
目撃されたすぐそばなので当然だが、この周辺一帯のオーグギアにはエレナとジャンヌの情報が送信されている。人に目撃されれば、それを捉えたオーグギアにより自動通報されるだろう。深夜に家を出ることを決めたのもそこに起因する。
「普通ならさっさと捜索範囲から出たいですけど……」
「えぇ。アリスを見つけないと行けない。アリスが事情を察して捜索範囲から逃げていてくれるといいんだけど……」
困ったことに、別れたきりアリスの動向は不明だ。どうやってアリスを見つけるか、それを考えなければいけない。
「えっと、アリスさんはあの目玉の発生と関係してるんですよね? なら、あの目玉の目撃情報とかが魔女狩りの間で出てたりしないですかね? その内容を盗み聞きしたりとか……」
「いえ、傍受は無理ね。オーグギアの通信方法である量子通信っていうのは、
「え、えーっと……」
「まぁ、要はスマホの電波みたいに通信してる何かが飛んでるわけじゃなくて、端末で情報を送信すると、それが即送信先の端末に届くのよ。これを傍受しようと思ったら、相手が使ってる端末をそのままコピーしないと無理よ」
「はぁ……。ともかく無理なのはわかりました」
会話が終わり、沈黙が流れる。
「とりあえず、当初の予定だったタナ湖に向かってみましょう。はぐれた時は各自で当初の目的地に向かい道中か目的地で合流、基本よ。アリスも今頃反省して、合流してきてるはずよ」
エレナが自信満々に言い切る。
(そうかな……。自分の安全を捨てて人を助けた人が、そんな反省するような短絡的な行動を取るかな)
ジャンヌはアリスに良い感情を持ってはいなかったが、エレナが考えるほど単純な話とは思えなかったのだ。言うなれば、そう。
(エレナさんは、ちょっと人間の感情については疎いのかも)
良く言えば、理想論者とでもいうのか。
(そう、例えば魔法の制御方法の話が出た時、アリスさんは不安そうに自分の手提げかばんを見ていた。多分、アリスさんの魔法の制御方法があのかばんに入っていて、アリスさんはそれに不安を感じている。けど、エレナさんはそれに全く気付いている風ではなかった。エレナさんの性格からしたら、「なに、まだ制御法に不安でもあるの?」ってお節介を焼くはずだから)
「……ってそうか。だからアリスさんは離れたのか」
あの手提げかばんに何が入っていたか、それはいつも寝るために装着していたヘッドホンだ。
連想するようにジャンヌの頭に複数の情報が浮かび上がる。
確か、エレナは以前に言っていた。「夢の魔女だから、夢は常人とは違うのかもしれない」。
そして、アリスは「あの目玉のことを「砲台」と呼んだ」。つまり、「アリスはあの目玉のことを知っている」。
(言わなきゃ)
「ェレナさん、やっぱりタナ湖行きはやめましょう」
「ず、随分、声が上ずってるわね。レナさんって聞こえたわ……。どうしたの?」
「エレナさんも気付いてるんでしょう? あの「砲台」はアリスさんが生み出したものです。だから、それをどうにか出来るようにならない限り、私達に合流なんてしません。きっと……」
「え、えっと。どういうこと、ジャンヌ。あの「砲台」はアリスが生み出したもの、って?」
「え、だって、アリスさんの能力の制御方法に気付いたんですよね? だから、そのヘッドホンをもらったんですよね?」
「制御方法? いえ、これは仲直りのプレゼントにしようと……」
なんて勘違い。そしてなんて偶然。思わず、ジャンヌはがっくりとうなだれた。こうなったら、一から全部説明するしか無い。ジャンヌは覚悟を決めて口を開く。
「アリスさんはヘッドホンで魔法を制御してたんです。いや、厳密にはちょっと違う。多分ですが、夢の魔女であるアリスさんは、夢を見ている間、その夢を無意識で具現化してしまうんです。それを防ぐために夢の内容を暴走の危険が少ない夢にするためにヘッドホンで制御していたんだと思います。だから、タンカーでヘッドホンをなくして以来、アリスさんは眠らなくなった。眠ったら夢が、「砲台」が具現化してしまうから」
「そう、それよ。中東に入ってからこっち、アリスの寝ている姿には違和感があったのよ。ヘッドホンが無いなと思って。だから安眠できないのかと」
だからプレゼントしようと思った、ということなのか。と、納得しつつ、偶然それがキーアイテムだったエレナの幸運に感謝する。
「で、アリスさんは、先日、ついに「砲台」を目の当たりにしてしまった。エレナさんにビームを撃ってるのを見てしまった。……つまり、自身の能力がエレナさんの脅威となってしまうことを目の当たりにしてしまった。だから、アリスさんはエレナさんを巻き込まないように、私達の元を去ったんです。そんなアリスさんが自分から合流してくるとは思えません」
「な、なるほど……。あれはアリス自身の能力だったのね……」
言えた……。達成感というか乗り切った感というか、そういった不思議な感覚で崩れ落ちるジャンヌ。
「だ、大丈夫? けど、そうすると最初の疑問に戻ってくるわ」
「へ、まだ何か不足がありました?」
「いえ、そうじゃなくて。つまり、アリスはどこに行ったのか、よ」
「あ、それについても考えがあります。ちょっと携帯を貸してください」
「えぇ。いいわよ」
エレナがジャンヌに携帯を渡す。
「私の考えが間違ってなければ……やっぱり」
エレナが画面を覗き込む。それはアフリカのラウッウィーニ商会の施設一覧だった。
「あった」
中央アフリカ共和国。危険物保管倉庫。それは2013年のポジゼ政権崩壊に伴う中央政府の衰退と武装組織の抗争を売り込むチャンスと見て展開したラウッウィーニ商会の武器庫であった。2016年の紛争解決以来、今となってはほぼ使われていない倉庫である。
「なるほど。アリスならラウッウィーニ商会の施設に入れる。この危険物保管庫は
二人は頷きあって、移動を始める。
そんな二人はそれぞれ異なる疑問を感じていた。
(そういえば、中央アフリカ共和国の紛争の収束も2016年なのね。ソマリアの紛争と同じ。そして2016年といえば、私やアリス、そしてジャンヌに加えて、あのオラルドさんの息子さんも生きていれば今年で16歳、つまり2016年に生まれている。これは……偶然の一致、かしら?)
(あれ? カッリストさんの娘の名前……アリス? たまたま魔女名と本名が同じだった? そんな事あるのかな……?)
◆ ◆ ◆
一方その頃、ヨーロッパにて。
「ソーリア、どうして……」
プラトは突然のソーリアの裏切りを信じられずにいた。
「まぁいいわ。そのうち後悔して泣きついてくるでしょう」
一方で、ソーリアの子どもっぽいいたずらが過激化しすぎて引きどころを失ったんだろう、とも考えていた。
それはどちらかというと、今の状況は所詮一時的なものに過ぎないと信じたいという気持ち、言うなれば正常化バイアスに近いものだった。
「やるべきことに集中しましょう」
目の前の特殊な形をした四基の煙突を見据える。
ここはドイツのベルルから10km程度の位置にある、フランス共和国のモゼル県カットノン。モーゼル川の西に位置するその施設は、カットノン原子力発電所。フランスに74基存在する原子炉のうち四基を要する原子力発電所である。
プラトにとっては生まれて次の年の事ゆえによくは知らないが、平和活動家達が警備の不備をアピールするために敷地に侵入し屋上で花火を打ち上げたという事件のあった原子力発電所でもある。
「
発電所の入り口から一台の車が出ていく。
「ちょうどいいわね」
車ごと発電所を出た男の姿を模倣する。
車を操り、原子力発電所の入り口に戻る。
「あれ? 今ついさっき出たところだろ、お前」
当然のように警備に見咎められる。
「実はロッカーに忘れ物をしてしまって……」
「お前、またかよ。気をつけろよ」
都合のいい設定に思わずほくそ笑みながら、プラトは堂々と発電所の中に入っていく。
入りさえすればあとは同じこと。
必要な権限を持った人間と入れ替われば、こちらの勝ちだ。
原子炉の制御室に入る。
「……誰もいない?」
いや、一人だけいる。ポニーテールに髪をまとめ、腰に空っぽの鞘を二つ下げた女性。
「なるほど、ひと目見た相手は周りの小道具すらまとめて模倣できる『姿』の魔法。興味深く拝見したでござる」
「ご、ござる?」
どう考えても西洋人な金髪の女性がそんな日本語をしゃべるとは流石に想定を超えていた。
「あなた、魔女ね? ……この状況はどういう事?」
「知れたことでござるよ。私達にタレコミがあったというだけの話でござる。ほら、いま後ろに立っているでござるよ」
目の前の魔女に警戒しつつ振り返ったプラトの視界に写ったのは……。
「そ、ソーリア?」
「ご、ごめんね、プラト。プラトを差し出せば、仲間にして、食事にも逃げ場にも困らなくしてくれるって言うから、ボク……」
ソーリアが腕をこちらに向ける。腕の先で炎が揺らめく。
「っ!」
とっさにサイドステップで回避すると、先程までプラトが立っていた場所に炎が炸裂する。
「どういうこと、ソーリア?」
「ボクは逃げ回る生活は嫌なんだよ。ごめん、プラト」
相変わらず炎の軌道は単純、回避そのものは難しくないが……。
「拙者の存在を忘れてもらっては困るでござるな」
似非侍魔女がエア素振りを行う、と思った瞬間、エア素振りが命中したであろう服の裾に切れ目が入る。
「不可視の剣……!」
「そらそら、そんな甘い回避じゃ首が切断されてしまうでござるよ!」
相手の間合いがわからない以上、大きく後ろに下がるしか無い。
「くっ……」
しかし、部屋という有限の空間にいる以上、バックステップには限界がある。
「そら、せめて一撃でカイシャクして差し上げるでござる。
プラトはとっさにおおきく左へ飛ぶ。
似非侍魔女の強烈な一撃が唸りを上げながら先程までプラトがいた場所を貫き、壁を破壊する。外から空気が流れ込んでくる。
「チャンス!」
プラトは自身の姿をソーリアに変化させ、ソーリアと似非侍魔女に強烈な炎を投げつける。
「ふん、そんなもの目くらましにしかならないでござる!」
似非侍魔女は炎を不可視の刀で切払う。ソーリアは大きく回避する。
――最初から目くらましが目的よ!
プラトはまた別の魔女の姿に変化し、背中にロウの翼を出現させて、似非侍魔女が破壊した壁から外へ飛び出す。
「くっ、逃したでござるか……」
悔しそうに似非侍魔女がつぶやく声が聞こえた。
「ソーリア……。まさか敵になるなんて……。けど、あの原子力発電所はおかしい。あそこ以外に制御が出来る空間がないのに、制御室が空っぽだなんて……普通じゃないわ……」
次こそは真実を掴んで見せる、そう誓いながら、プラトはその場を離れた。
to be continue...
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「三人の魔女 第11章」の大したことのないあとがきを
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