三人の魔女 第20章「不信の魔法」
ある日、天体観測を楽しんでいた魔女エレナは、重く硬い金属が鉄筋コンクリートに当たって跳ね返るような奇妙な音と悲鳴を聞く。
困っている人を放っておけなかったエレナは座り込む少女、魔女ジャンヌを助ける。彼女は閉じた瞳の様な意匠のフードを被り、メイスのようなゴツゴツした先端の二又に槍を持つ怪しい男たち「魔女狩り」に追いかけられていた。
エレナはジャンヌと共に逃走を始めるが、すぐに追い詰められてしまう。そんな二人の前に姿を晒したのは異端審問間のピエール。ピエールは言う。「この世界には魔女と呼ばれる生まれつき魔法と呼ばれる不思議な力を持つ存在がおり、その存在を許してはいけないのだ」、と。
しかし、実は自らもまた魔女であったエレナはこれに反発。フィルムケースを用いた「星」の魔法とジャンヌの「壁」の魔法を組み合わせ、「魔女狩り」から一時逃れることに成功する。
そして二人はお互いに名乗り合う。魔女エレナと魔女ジャンヌ。二人の魔女の出会いであった。
しかし魔女狩りは素早く大通りへの道を閉鎖、二人の逃走を阻む。ジャンヌの魔法を攻撃に使い、強引に大通りに突破したエレナは、魔女仲間のアリスからの連絡に気付く。それは魔女狩りの存在を警告するメールだったが、もはや手遅れ。エレナはその旨を謝罪しアリスにメールした。
メールを受けたアリスはすぐさま自らの安全な生活を捨てることを決意し、万端の準備をして家を飛び出した。
逃走に疲れたエレナとジャンヌは一時的に壁を作って三時間の休憩をとった。しかし、魔女狩り達に休憩場所を気取られ、再び追い詰められる。そこに助けに現れたのはアリス。アリスは自身の「夢」の魔法で魔女狩りを眠らせ、その場を後にするのだった。
逃れようと歩く三人。魔女について何も知らないジャンヌはエレナから魔女とは頭に特殊な魔法を使うための受容器を持つ存在で、魔法とは神秘レイヤーと呼ばれる現実世界に重なるもう一つのレイヤーを改変しその影響をこの現実世界に及ぼすものである、と説明する。
そして魔女には属性があり、その属性に基づいた魔法のみが使える。具体的な属性の魔女は決まった事しか出来ない代わりに使いやすく、抽象的な属性の魔女は様々な事が出来るが使用には工夫がいる、といった違いがある。
そんな中、アリスもまた、衝撃的な事実を告げる。この世界で誰もが身につけているオーグギア。このオーグギアの観測情報は全て一元に統一政府のもとで管理され、秘密裏に監視社会が実現しているのだ、と。
そして、エレナは統一政府と戦い、好きなことを好きなように出来る世界を目指すことを決意するのだった。
その決意表明を裏で聞いていた者がいた。「姿」の魔女、プラトだ。プラトはその場を逃れるため魔女狩りに扮して逃れようとするが、その場を「炎」の魔女ソーリアが襲撃してくる。
魔女狩り狩りの常習犯としてすっかり知られていたソーリアはバッチリ対策されており、窮地に陥る。目の前で魔女が狩られるのを見過ごせないプラトは咄嗟にソーリアを助ける。そして言うのだった。「世界をなんとかしようとしている三人の魔女がいる。魔女狩りを狩りたいなら、彼女達のために戦うのはどうか」、と。
プラトとソーリアがそんな話を進める中、三人は貨物列車に忍び込んでいた。アリスの父親の会社の貨物に紛れることを企んでいるのだ。
しかし、早速トラブルは発生した。暗闇に怯えたジャンヌが大きな光り輝く壁を作りその中に隠れてしまったのだ。壁は天井を通り抜けており、明らかに異常な見た目をしていた。
なんとか喧嘩も納め、ようやく睡眠に入ろうと言う時、列車が止まる。
コンテナの中という袋小路で絶体絶命かと思われたが、エレナの魔法とジャンヌの魔法を組み合わせ、密かに脱出することに成功した三人は、しかし、その後の道を失い悩むことになる。
そこでジャンヌが提案したのは、かつて仲の良かった兄のような警察官を頼れないか、ということだった。頼った相手、
しかし光輝にピエールの魔の手が迫る。プラトが彼に変身し大暴れしてしまったため、裏切りの嫌疑がかけられてしまったのだ。光輝はジャンヌの身を案じ、自らも埠頭に急ぐのだった。
またしても自身の臆病さが原因で迷惑をかけたジャンヌはエレナから魔法の制御について学ぶ。それはほんの少しの成功体験へと繋がり、彼女の自信へと繋がっていく。
ようやく埠頭にたどり着いた三人だったが、光輝の携帯から情報を仕入れていた魔女狩りは
絶体絶命の三人だったが、助けに現れた光輝とソーリアそしてプラトにより三人は無事タンカーに乗る事が出来たのだった。
タンカーに乗った三人。しばらく安全で平和な船の旅が続くが、突如トリアノン、エルドリッジ、バーソロミューと呼ばれる魔女達が操る海賊船の襲撃を受ける。彼らは「情報結晶」と呼ばれるものを求めてタンカーを攻撃してきたらしい。
砲弾の直撃を受け、海に落下する三人の魔女。その行先は……?
海岸に流れ着いたエレナは突如としてビームを撃つ目玉のような模様の球体の攻撃を受ける。合流してきたジャンヌとの協力によりなんとか倒すことに成功する。
その後アリスとも合流することに成功。アリスは大事なヘッドホンを無くしたことに衝撃を受け、探し続けていたらしい。
天体の配置から現在位置をソマリアのボサソだと特定したエレナはナイル川を北上しカイロに向かうことを提案する。
その頃プラトとソーリアは中国でシベリア鉄道に乗ろうとしていた。プラトはそこにある動いていないはずの油田が何かに電力を消費していることを訝しむが、電車の到着を受けて調査を諦め、移動を優先する。
そしてそんな二人の様子をりんごを齧りながら眺める何者かが一人。
視点は三人の魔女に戻り、一週間後。不可解な事にアリスの消耗が異常に早い。
原因が睡眠不足にあるのは明らかだ。三人はリフレッシュのためビジネスホテルに宿泊することを決める。
しかし翌日の朝、海岸でエレナを襲撃してきた黒い目玉が襲撃してきた。黒い目玉は魔女を狙うわけではなくただ暴れ回っているだけの様子だ。三人は魔女狩りに目をつけられることを恐れ、混乱する町を背に歩き出すのだった。
しかしその後もアリスの様子は変わらなかった。アリスは頑なに眠ろうとしない。
不思議に思う一行に再び黒い目玉が襲撃してくる。寝落ちしたアリスを背負いながら逃げる一行だったが、目覚めたアリスが突然暴れ出す。そしてあろうことかエレナとジャンヌに魔法を使い、一人どこかに逃げ出したのだった。
そこに運悪く現れる魔女狩り達。追われる二人を魔女を息子に持つ父・オラルドが庇ってくれた。
一方その頃、ヨーロッパに到着したプラトとソーリアもまた、謎の理由で仲違い。それぞれ別の道を歩きだしたのだった。
アリスが一人飛び出した理由が分からないエレナにジャンヌは自らの推測を告げる。謎の黒い目玉、アリスが「砲台」と呼んだそれは、アリスが眠ってしまうことで魔法の制御を失ってしまい生じた産物ではないか、と。その理由は魔法の制御に使っていたヘッドホンを無くしたからではないか、と。
そしてジャンヌはアリスは中央アフリカ共和国のラウッウィーニ商会の施設に隠れているのではないか、と推測。二人はそちらへ向かう事にした。
一方、プラトは自らの好奇心に突き動かされ、フランスの原子力発電所を調査していた。ところがそこに現れたのはソーリアと見知らぬ似非侍のような魔女。プラトは二人の攻撃に対処しきれず、退散するのだった。
中央アフリカ共和国に向かう二人はそこで魔女の共同体と出会う。共同体の力を借りた二人は魔法を組みわせて車を作り、一気に中央アフリカ共和国に向かうのだった。
一方、ソーリアはプラトが変身した矢を放つ謎の魔女に追われていた。そこに助けに現れたのは魔女アイザック。彼は魔女同士の会合があると言い、ソーリアを誘う。
アリスがいると目される町、ビラウに辿り着いた二人だったが、そこは既に魔女狩りに包囲されていた。
アリスは魔女狩りに追い詰められ、死を覚悟していたが、そこに彼女と縁のある御使い・
そこに車に乗って助けに現れたのはエレナとジャンヌの二人。エレナはヘッドホンをアリスに手渡し謝罪。ここに三人の魔女は再集結したのだった。
一方、御使いの出現という緊急事態に、新たな異端審問官が動員されようとしていた。
元リチャード騎士団筆頭騎士・メドラウド二世が三人の魔女を追い詰める。サリエルは自身を囮とすることで、三人を逃がそうとするが、メドラウド二世はそれを許さない。
しかし、エレナとアリスの「魔女狩りは正義なのか」という問いかけにメドラウド二世の剣は揺らぐ。結局その場は見逃してもらうことが出来たのだった。
その頃、囮となっていたサリエルは凡百の魔女狩りを殲滅し、優秀な部下二人も殺そうとしていた。そこに現れたのは白い粒子を操る黒髪長髪の女性。彼女は人間離れした身体能力で化け物と化したサリエルを撃破した。
サハラ砂漠に入った三人は、そこでプレッパーと呼ばれる反統一政府の人々と知り合う。
ところが、彼らの中にも意識の差があり、三人の居場所が魔女狩りに知られてしまう。急いで逃げようとする一行の前に現れるのはサリエルを下した黒髪長髪の女性だった。
そこに助けに現れたのは不可視の剣を操る魔女ムサシ。
戦闘力の高いムサシの攻撃に黒髪長髪の女性は少しの間苦戦するが、すぐに形勢は黒髪長髪の女性に有利な形に逆転する。
しかし、黒髪長髪の女性必殺の三段突きを前に、魔女達が黒髪長髪の女性の視界から消える。
もうひとりの助けに現れた魔女アビゲイルの力だった。
魔女アビゲイルは三人のことを知っており、定住地を持っているから来るようにと促す。
アビゲイルに案内された一行は「空間」の魔女エウクレイデスことユークリッドの作り出した「ユークリッド空間」を通り、彼らの定住地へと向かう。
その頃、三人の魔女からの言葉に疑念を抱き、神秘根絶委員会の資料室に忍び込んだメドラウド二世はついに、魔女狩りが神秘を例外なく刈り取る組織であると知る。
そこに現れたアンジェ・キサラギと交戦するメドラウド二世は事前に協力を取り付けておいた二人の協力者、妖精使い・フェアと超越者・英国の魔女の協力を得て、脱出に成功する。
その戦いが終わった頃、ついに一行はユークリッド空間抜け、アビゲイル達の定住地「キュレネ」へとたどり着いた。
そこはドーム上のユークリッド空間で隔絶された安全地帯、丘の上に築かれた見事な都市だった。
「キュレネ」に到着し、一晩を暖かいシャワーとフカフカのベッドでゆっくり休んだ三人は、充実した朝ごはんを食べ、久しぶりに素晴らしい一日の始まりを味わった。
しかし、少しずつ「キュレネ」への疑問を覚えるエレナ、アビゲイルを信用出来ないアリス、「キュレネ」に居住を望むジャンヌ、と三人の思想にはずれが生じ始めていた。
三人はそんな状態のまま、かつて自分たちを助けてくれた魔女の片割れ、ソーリアと再開する。
しかし、三人はそれぞれ自身の思惑に従って行動した結果、衝突を始めたように見え始め。三人の思惑はすれ違いを続けるように見える。
そして、その夜。
アリスが昼ごはんを食べた食事処に忍び込む。そこでアリスの視界に映ったのは、それを妨害せんと立ち塞がるジャンヌの姿であった。
「そう、言いたい事は分かったわ。でも、断らせてもらうわね!」
アリスは拳を握り、ジャンヌがいると見える場所に向かって駆け出す。
「きゃあ!」
アリスの視界の中のジャンヌは怯えた風な表情をして、背後の壁に穴を開け、壁の向こうへと消え、再び壁が復活する。
しかし、アリスは速度を緩めなかった。
「アリスさん、いきなり何するんですか、気に入らないからって拳を握って突撃してくるなんて」
非難するようなジャンヌの声がアリスの耳に入ってくる。
「ふん」
アリスはその言葉を鼻で笑い、速度を緩めず目の前に見える壁に向けて突撃する。
「な、何を考えてるんですか!?」
「その言葉が出ることが答えでしょ」
アリスは目の前に見える壁をすり抜けて、壁の向こう側に飛び出す。
「なっ……」
壁の向こう側で驚愕の顔を浮かべるジャンヌ。少なくともアリスにはそう見える。
「もういいでしょ、アビゲイル。姿を現しなさい」
「な、何を言ってるんですか、アビゲイルさんは関係ないでしょう」
アリスの耳にジャンヌの言葉が届く。
「それがあなたの不信の魔法ってわけ? 壁をすり抜けた時点で、さっきの壁が私にだけ見えてる幻覚だってネタは割れてるのよ。大人しく正体を現しなさい」
「……驚いたわ。まさか私の魔法を初見で見破ってくるなんて」
アリスに見えていたジャンヌの姿がかき消え、アビゲイルの姿が顕になる。
「壁に向かって突進し続けている事実に驚愕している時点で壁が存在しないのは明らかでしょ」
そう、ジャンヌや壁が見えていたのはアリスにだけ。だから、アビゲイルはアリスが速度を緩めないことを見て、そして架空のジャンヌにそのリアクションをさせることが出来た。
ここまでの地の文でも、あくまでアリスに見えている、聞こえている、という形で表現しているのが、振り返れば分かるだろう。地の文は嘘をつけないので、どうしてもこのような表現になるのだ。
「それ以前から壁が偽物だと確信していたようだけど?」
「ま、あのアンジェ・キサラギの様子と属性を聞いた時から、ずっと警戒していたからね」
「警戒していた? その程度で私の不信の魔法を見抜いたっていうの?」
その言葉にアビゲイルは驚愕する。そんな人間をこれまで見たことがなかったのだ。
「簡単な話よ。エレナはね、理想郷のことをギリシャ神話に由来する理想郷の名前、アルカディアと呼ぶの。それに、最近のジャンヌはね、二人きりの時、私のことをアリスと呼び捨てにするのよ」
「そんな……、不信の魔法は相手の認識を元に像を結ぶのよ、あなたが見て聞いた言葉はあなたの認識する彼女らのそれと一致するはず」
「でしょうね、でなければ、不信なんて名前じゃないでしょうし。だから、ね。それを警戒して、私は仲間と会う時、敢えてそれらの事を忘れて振る舞ったの」
「まさか……
アビゲイルがアリスの説明に思わず驚愕し、歯噛みする。
「えぇ、だから、私にあなたの魔法は効かない。さぁ、いろいろ答えてもらうわよ。そうね、例えば……、プラトとソーリアを分断したのは、あなたね? ソーリアの言うプラトの豹変、全てあなたの魔法だとすれば説明がつくわ」
「あらら、あなたには敵わないわね、アリスさん。けど、質問会はそれまでよ」
虚空から突如としてムサシとウィリアムが出現し、アビゲイルの左右に布陣する。
ムサシは即座に腰の鞘から太刀を抜く動作を取り、ウィリアムは腰に下げたアサルトライフルを構える。
「あなたを消せば、残り二人には伝わらない。大丈夫よ、二人の中で、あなたは生き続けるから」
「そう、少なくともその計算、一人分は削らなきゃね」
アリスがちらりと後方に視線をやる。
直後、ウィリアムが引き金を引く。
直後、アリスの目前で見慣れたレンガの壁が盛り上がり、その銃弾を防ぐ。
「アリス、大丈夫ですか?」
ジャンヌがアリスのそばに駆け寄る。
「えぇ、大丈夫よ」
「魔女ジャンヌ!? まさか、いつの間に」
壁の向こうからアビゲイルが驚愕する声がする。
「ここに来る前に、伝えておいたのよ」
「伝えた? 訪ねてたのは知っているけど、雑談しかしていなかったはずよ」
「エレナと二人で考えた暗号をね、砂漠を進んでるうちにジャンヌにも伝えてたの」
「はい、アリスさんから暗号を受け取った私は、それに従ってこっそりとここまで隠れてきたんです」
アビゲイルの問いにアリスが答え、ジャンヌが頷く。
「なるほど、それはやられたわ。けど、どうせここは突破出来ないでしょう!」
「
ムサシの技が炸裂し、壁が崩れる。
壁が崩れた先にいる二人に、ウィリアムが銃口を向ける、が。
「ソーリア・ファイア!」
引き金が引かれるより早く、アリスとジャンヌの背後から火炎が飛び、ムサシとウィリアムに迫る。
二人はそれぞれの手段で防御するが。
「今よ」
その隙を逃さず、三人は速やかにアビゲイル達の脇を抜けて走り去っていく。
「よくもボクを騙したな、『キュレネ』め、許さないぞ!」
そんなソーリアの捨て台詞を残して。
「まさか、ソーリアまで連れてきていたなんて。そうか、あの質問は、最初からソーリアに真実を聞かせるつもりで……」
アビゲイルはすぐに事実を理解した。つまりこういうことだ。事前にジャンヌとソーリアをこの建物の中にジャンヌの魔法で偽の壁を作ることで隠れさせ、そして、ソーリアとプラトを離間した秘密を自身に語らせる。
単純で与し易いソーリアはすっかり「キュレネ」を信用していたから、監視の目を緩めていたのが災いした、と。
やるじゃない、とアビゲイルは悔しそうに奥歯を噛み締める。
「この不信の魔女を手玉に取るなんてね。けれど、ここは私の街よ、そう簡単には逃さないわ」
「直ちに追跡部隊を指揮します」
アビゲイルの宣言を聞き、ウィリアムが頷き、建物を出ていく。
「拙者は直接追跡を開始するでござる」
「待って、追跡はウィリアム麾下の部隊に任せればいいわ。あなたは私と共に政庁へ」
必ず、奴らはエレナと合流を目指すわ、と告げる。
「承知でござる。では、行きましょうぞ」
「えぇ」
視点は移って「キュレネ」の街中を駆ける三人の魔女。
「これからどうするんですか?」
「決まってるでしょ、政庁に戻って二人でエレナに真実を告げて、この街を出るわ。ここは私達のいるべき場所じゃない」
ジャンヌの問いにアリスが答える。
「ボクも付き合うよ。プラトを見つけて、プラトに謝らなきゃ」
「なら、目指す先はヨーロッパね」
ソーリアの頼もしい言葉にアリスは微笑んだ。
「そこまでです」
十字路の真正面から行く手を遮るように、白いフードを被った集団が姿を現す。白いフードに付けられた目を見開いたアイコンが、魔女狩り達が付けている目を閉じたアイコンの黒いフードと対照的だ。
「全ては『キュレネ』の安全のために。
白いフードの集団が、一斉に拳銃らしき何かを三人に向ける。
「ジャンヌ!」
「はい!」
ジャンヌが魔法を発動し、十字路のうち、敵が接近してくる道を壁で塞ぎ、丁字路へと変更する。
しかし、白いフードの集団がさらに次の道の先から現れる。
「逃しません」
一斉に拳銃らしき何かが三人に向けられる。
「ソーリア・ファイアー!」
ソーリアが手のひらの先から炎の球を発射し、白いフードの集団を牽制する。
白いフードの集団はそれに怯みながらも、しかし、拳銃の引き金を引く。
拳銃らしき何かに取り付けられた宝石らしき何かが煌めき、直後、弾丸が発射される。
「危ない!」
ジャンヌが咄嗟に正面に壁を生成する。
「こっちへ!」
そのままジャンヌが二人に対し、近くの小道へと誘導する。
「あれも魔法結晶製か」
走りながらアリスが呟く。
「魔法結晶?」
「説明は後よ。追ってを阻む壁を背後に作って」
「あ、はい」
ジャンヌがさらに魔法を使用し、追手を阻むための壁を背後に生成する。
「でも、どうするんですか、このままだと政庁とは反対方向ですよ」
「そこよね」
ジャンヌの問いかけにアリスが返答する。
「奴らの狙いは私達だから、このまま政庁には戻れない。おそらく待ち伏せをされてるでしょうからね」
「なら、どうするの?」
ソーリアの問いにアリスが答える。
「この街を抜けるわよ」
それはつまり。
「街の中で戦闘するんですか!?」
ジャンヌが驚愕するのも無理はない。ここは魔女の街だ。迂闊に戦えば、どのような被害が出るか分からない。
「なに、街の中を突っ切って出るだけよ。何も心配はいらないわ」
だが、アリスは不敵に笑うのだった。
一方、視点をエレナに向けよう。
時刻は真夜中。当然寝ていたエレナは部屋の中を伺う何者かの気配を感じて目を覚ました。
(何かしら、この嫌な感じ。まるで魔女狩りに狙われているときのような……)
これまでずっと魔女狩りからの逃走生活を送ってきたエレナである。そういった気配には敏感になっており、その尖った神経は僅か数日に満たない時間経過程度では鈍りはしなかった。
(アリスもジャンヌもここを信用してる。ここは安全な街のはずだけど)
そうは考えつつも、明らかに感じた気配により芽生えた警戒心は簡単には消えてくれない。
エレナは起き上がる。
仮眠のつもりで布団に入ってそのまま寝落ちていたので、普段着のままだったのが幸いし、そのままドアを開ける。
「! エレナ様、ご無事でしたか」
扉の前で待機していたのは2人の白いフードの男。魔女狩りによく似ているが、フードのアイコンが瞳を閉じたアイコンではなく開いたアイコンになっているのが特徴だ。
「あなたたちは?」
「この『キュレネ』の治安維持部隊、『魔女隊』です」
「『魔女隊』……」
ここまでの話を統合すると、『キュレネ』は法治国家的な定住地であることが分かる。ゆえに、治安維持部隊がいることに違和感は一切ない。
それにしてもそんな魔女狩りみたいな見た目でなくてもいいのではないか、と思うが、その辺はアビゲイルの趣味なので自分が口を挟むことではないだろう、とエレナは特に口には出さない。
「アリスとジャンヌは?」
「それが、部屋にいらっしゃらないようでして……」
「探しに行かないと!」
「それは我々が致しますから、エレナ様はお部屋で」
慌ててエレナが廊下に駆け出そうとするのを、『魔女隊』の男が道を塞ぐ形で立ち塞がる。
「どうして? 何かあったの?」
「それは……」
『魔女隊』の二人が顔を見合わせる。
直後、激しい破壊の音と振動が伝わってくる。
「!」
エレナは二人が顔を見合わせた隙を見逃さず、二人の側面を抜け、政庁の外へと向かう。
「あ、待ちなさい!」
慌てて、『魔女隊』が追いかける。
エレナが外に出ると、そこから見えたのはたちのぼる炎だった。そして、煙の中から姿を現し、その巨大な腕を地面に叩きつける巨人の姿。
「あれは! アリスの魔法だわ! 行かなきゃ!」
「待ってください! あそこは危険です、事態の収拾は我々にお任せを」
追いついてきた『魔女隊』の男に腕を掴まれる。
「駄目よ。私の仲間があそこにいるのよ、助けに行くに決まっているでしょう」
「その大切な仲間は、私達の街に加わると約束してくれたのよ。あなたはまだでしょう? それでも仲間と言えるの?」
「それは……」
そこにアビゲイルとムサシが駆けつけてきて、そんな言葉を投げかける。
ジャンヌは仕方がないとしても、アリスまでもがこの街に居着くと言うのはエレナにとって少なからずショックだった。
エレナの理想は人目を憚らず魔法を使える生活が出来る様になること。そして、アリスはその共感者であるはずだった。
読者はご存知の通り、これはアビゲイルの魔法によって植え付けられた不信であり、実際のアリスはエレナの理想のためにこそ戦っているのだが、エレナはそうとは気付けない。
エレナにとって、ジャンヌとアリスは自分の理想と違う道を歩き始めた存在。確かに、仲間、などと言っていい関係かはエレナにとっても分からなかった。
迷い、立ち止まったエレナにアビゲイルは頷く。
「あなたはまだ街に残る決意をしてないんでしょう? なら、部屋に戻ってゆっくり考えなさい。二人のことはこっちが対処するわ」
視点は戻ってアリス達。
「いたぞ!」
アリス達は街角から飛び出し、大通りに出る。
当然すぐさま、白いフードの集団――『魔女隊』の事だがアリス達は知らない――の目に留まり、集まってくる。
「とまれ!」
拳銃に似た道具が向けられる。
「させません!」
道具の引き金が引かれると、ジャンヌが壁を生成するのは同時だった。見慣れたレンガの壁が地面から迫り出し、放たれる何かを防ぐ。
「同じ手は何度も食わん!」
だが、その手は白いフードの集団も何度も見せられてきた。
対策するのは当然とばかりに、何人かの白いフードの魔女が壁を両断する。
その手に握られているのは、結晶の取り付けられた刀の柄だけの道具。
「チッ、今度はムサシの魔法結晶か。ジャンヌ、ソーリア、作戦通りにいくわよ」
「はい、アリス!」
「分かったよ」
ジャンヌが咄嗟にアリスを呼び捨てにしつつ、今度は木製の壁を出現させる。
「ソーリアー・ファイアー!!」
そしてその木製の壁にソーリアの魔法が衝突し、派手に炎上を始める。
「炎の壁程度!」
刀の柄だけの道具を持った白いフードの数名が炎の壁を切断し、アリス達に接近する。
「
アリスが歌う。
アリスの歌声に呼応し、煙がとぐろを巻き始める。
「させん!」
「こっちもアリスには触れさせません!」
「ソーリア・スプレッド!!」
刀の柄だけの道具を持った白いフードの数名がアリスに肉薄する。
「
対抗し、ソーリアが炎の算段を放つ。白いフードの数名はこれを左右に散って回避し、左右から挟撃せんとアリスに迫る。
「
対してジャンヌが壁を展開する。それはすぐさま切断されるが、切断しながら前進できない以上、僅かに足止めは出来ている。
「
足止めしたところにすかさず、ソーリアの魔法による炎が飛び、足止めする。
白いフードの数名の持つ刀の柄だけの道具は、無色透明の刀身部分を当てさえすれば、おおよそほとんどのものを「切断」することが出来るが、高速で飛翔する小さな炎、まして足元を狙われれば、簡単には当てることが出来ない。
「
そして、アリスの歌が完成する。
煙の中に出現するは周囲の煉瓦詰みの建物を大幅に超える大きさを誇る異形の巨人。
それが無造作に巨腕を振り下ろすと、ずしん、という音を立てて、地面が陥没する。
エレナが政庁内で聞いた音と振動はこの時のものである。
「な、なんと……」
白いフードの数名がその陥没の深さに思わず驚愕する。
その隙に、三人の魔女はそのままその場所から離脱しようと逃げ始める。
「ま、待て」
「あら、ジャバウォックを放っておいていいの? そいつは、そこで暴れ回って、街を破壊するでしょうね」
「くっ、卑劣な……!」
アリスの言葉に表情を歪める白いフードの数名。
これは賭けだ。
アリスとて実際にはこの「キュレネ」を破壊するつもりはない。
厳密にはアリス個人としてはこんな街、いくら破壊しても構わないのだが、きっとエレナは全てを知った上で、この街の破壊を望まないだろう。
この街はこの街で、人々の立派な避難地なのだ。
ここまでの動きを見るに『魔女隊』の数はおそらくそんなに多くはない。もっと多いなら最初からどんどん先回りして包囲すればいいだけのことだからだ。
故に、ジャバウォックが街を破壊するかもしれない、と思わせれば、彼らはジャバウォックにかかりきりになり、アリス達は大幅に逃げられる目が高まる。
だが、もし、『魔女隊』がアリス達を優先したら、その時はエレナには申し訳ないが、ジャバウォックで街を破壊する他ない。
だから、アリスとしては、地面を破壊した程度の示威行為で脅威を感じて欲しかった。
果たして、賭けの結果は……。
「チッ、先に大きな街の脅威を排除する」
白いフードの数名がアリス達に背中を向け、刀の柄だけの道具を構える。
その間に、アリス達は政庁に向けて駆け出す。
こうして、アリス達は政庁前の広場にたどり着く。
「驚いたわ、アリス。あんな隠し球を持っているなんてね」
そこで出迎えたのはアビゲイル、そしてそばに控えるムサシだった。
「っ。あなた達、街の騒ぎが目に入ってないの?」
「見えてるわよ。けど、あれらの対処はウィリアムと『魔女隊』に任せた。私達はあなた達を捕える」
ムサシが右手で空っぽの鞘から刀を抜くような動作を取り、不可視の刀で正眼の構えを取る。
「ど、どうするんですか?」
ジャンヌが思わず不安を覚えて尋ねる。
「ここに来てノープランよ。ジャバウォックを倒すのに最も適しているのはムサシ。そのムサシをまさか温存してくるとは思わなかったわ」
「話は終わりでござるか?」
正眼の構えに構えたまま、ムサシが地面を蹴って、アリスに迫る。
「アリス!」
咄嗟に、ジャンヌが壁を生成するが、即座に不可視の刀により切断される。
「ソーリア・スプレッド!!」
ソーリアによる炎の散弾が飛び、直進するムサシを飲み込まんとする。
「千風刃!」
だが、それを千の風の如き刃が一つ残らず切断する。
『魔女隊』の武器はあくまで柄から伸びた不可視の刀身を使う必要があったため炎の散弾が有効であったが、視線に入れた一定範囲内のものを即座に切断出来る「切断」の魔女たるムサシには通じない。
「ふんっ!」
アリスに肉薄したムサシが不可視の刀を振り上げる。
「いやぁぁぁぁぁぁ、アリス!!」
ジャンヌが思わず悲鳴に似た絶叫をあげる。
触れたもの、その一切を切断可能な「切断」の魔女たるムサシ。その切断力そのものたる刀がアリスに向けて振り下ろされる。
ジャンヌの壁も、ソーリアの炎も、間に合わない。
ただ、その切断力がアリスの胴体を切断する。
「
はずだった。
ムサシの不可視の刀と、アリスの間に、土星の輪っかのようなものが割り込んでくる。
あらゆるものを遠心力で吹き飛ばす魔法とあらゆる物を切断する魔法、その二つが衝突し、事象が矛盾を起こして、時空さえ歪めて、拮抗する。
「なっ、エレナ!?」
「エレナ!?」
「エレナさん!?」
その場にいた全員が驚愕する。
アリスとムサシの間に立っていたのは、エレナだった。
「これはどういうことかしら、エレナ。あなたは部屋で大人しくしているように伝えたはずなのだけど」
「ごめんなさいね、アビゲイル。やっぱり、かつての仲間がピンチっぽいとなったら、見捨てられなかったわ。まして、あなた達がアリス達を攻撃しているとなれば、ね」
アビゲイルは想定外の事態に思わず、歯噛みする。
真正面から敵対し、排除しようとしているとなると、今更、自身の魔法で状況をコントロールすることは難しい。
「リーダー、まずい。あの時空の軋みが、私の空間を歪めている。このままでは断ち切られるぞ」
そこにどこからともなくユークリッドが現れ、アビゲイルに報告する。
二つの魔法の衝突という事象が、時空を歪め、ユークリッド空間に覆われた安全地帯である「キュレネ」を脅かしているのだ。
「ムサシ」
「はっ」
ムサシはアビゲイルの言葉に反応し、刀を一度消滅させ、アビゲイルの側まで一気に後方跳躍する。
「驚かされたわ。あなた方三人の絆とやらは、よっぽど強いのね。けれど、だからこそ、排除させてもらうわ」
「排除!? どういうことですか?」
思わぬ言葉にジャンヌが驚く。
「ジャンヌ、エレナ、よく聞いて。こいつら、魔女狩りと繋がっているのよ」
思わぬ言葉にエレナ側の魔女達が一斉に息を呑む。
「あら、そこまで気付いていたの」
「そうじゃなきゃ、ソーリアとプラトを引き裂く理由が思いつかなかったのよ」
アビゲイルの言葉にアリスが肩をすくめる。
「否定は、しないのね?」
そして、エレナが問い返す。
「えぇ。私は『キュレネ』を。魔女達の最後の希望の地を守るためならなんでもするわ。それが本来敵である存在と繋がることであってもね」
「魔女狩りに協力する代わりに、『キュレネ』を見逃してもらう。そういうこと?」
「そうよ。彼らが求めているのは魔女の魔法結晶と自分達の権威だけ。だから、私達はこの地で神秘根絶委員会に気付かれない程度に魔法を制限して暮らしつつ、この地の異端審問官に魔法結晶を提供して、『キュレネ』を黙認してもらう」
エレナの問いかけに、アビゲイルが頷く。
「だから、ね。魔法を自由に使いたい、なんて我儘と理想を振りかざすあなた達には、その理想を諦めてもらうか、魔女狩りに差し出される贄になってもらうしかないのよ!」
アビゲイルの言葉に合わせて、ムサシが再び不可視の刀を抜刀する。
「我儘なんかじゃないわ。魔女が魔女として、いいえ、人が人の持つ個性を最大限発揮できる世界。それこそが正しい世界よ。そうじゃない世界なんて、間違ってるわ」
「そう、なら決裂ね。ムサシ!」
「はっ」
ムサシがエレナに向けて肉薄する。
エレナは再びその不可視の刀を受け止めるべく、フィルムケースに手をかけるが、直後、エレナ側の魔女達にはムサシが三人に分裂して見えるようになる。
三人のムサシはそれぞれエレナ、アリス、ジャンヌを狙っているように見える。
そう、アビゲイルの魔法によりムサシの本当の狙いが分からなくなってしまったのだ。
「なるほど、私はこれまでこの魔法で惑わされていたのね」
エレナはその魔法を見て、ようやく自分の置かれていた事態を理解する。
「ソーリア・スプレッド!!」
ソーリアの炎が飛ぶ。だが、三体全員を捉えたその散弾はその全てが切断されて終わって見える。
おそらく実際にはそのうち幾つかは切断されずに通過しているはずなのだが、エレナ達にはその区別がつかない。
「
だが、エレナは迷わず、アリスとムサシの間に割り込んだ。
「なっ、なぜ!?」
「賭けだったけど、うまくいったみたいね。アビゲイル、あなたはちょっと素直すぎるみたい。理屈は知らないけど、一度でもあなたの魔法を打ち破ったアリスが恐ろしいんでしょう?」
「ぐっ……」
二つの魔法がぶつかり合い、再び時空が軋みをあげる。
「この攻防を続けてたら、大事な『キュレネ』は壊れちゃうわよ。私とて、それは望むところじゃない。大人しく私たちを見逃すべきじゃない?」
「一度受け止めたくらいで何を!」
ムサシが再び後方に飛び下がる。
「今よ、ソーリア。炎の剣をイメージして飛びかかって」
「わかった!」
エレナの号令に、ソーリアが素早く反応する。自分では細かいことを思考出来ないと自覚のあるソーリアはプラトの指示に疑問を浮かべるより早く、とにかく素早く従う事を心掛けてきた。それが今、エレナの号令に従うのにも生きたのだ。
ソーリアの右腕に炎の剣が出現し、そのままムサシに飛びかかる。
ムサシは素早く不可視の剣を抜刀し受け止めるが。
先程のように切断で打ち消せない。魔法と魔法がぶつかり合い、時空が軋みをあげる。
「なぜでござるか!?」
「さっきまでソーリアの魔法を切断出来たのは、炎を出現させて飛ばした後はただの現象だったから。でも、今の炎はソーリアの魔法が持続的に発動している状態。その炎の剣は魔法そのもの。だから、あなたの魔法と拮抗出来る」
これも賭けだった。ソーリアが連続的に魔法を使用し続けられる保証はなかったし、炎の剣、というイメージソースのみでそれを伝えられる確証もなかった。
また、ソーリアが指示に疑問を感じ、立ち止まってしまえば、ムサシに再攻撃の機会を与え、今度こそ攻撃の対象が分からない連携攻撃が飛んできた事だろう。
アリスのジャバウォック呼び出しから始まる賭けの連続。ギリギリの綱渡りは、今ここにエレナ達の勝利として、結実しようとしていた。
「分かったわ。どうやらこの勝負、私達の負けね」
アビゲイルが嘆息する。
「いいわ。あなた達をこの『キュレネ』から追放する」
そう言って、アビゲイルが取り出すのは陶器のかけら。そこにエレナ、アリス、ジャンヌ、ソーリアの名前が刻まれる。
「この陶器のかけらに名前を刻まれた人間は、私の許可なしには『キュレネ』に立ち入ることは許されない」
「
「否定はしないわ」
アビゲイルがそう言いながら、マジックフォンを操作する。
「行き先はヨーロッパよね? 対岸への船を手配したわ。私達の気が変わらないうちに行きなさい」
そう言って、アビゲイルは四人の間を通り抜ける。
「いくわよ、ムサシ。あの巨人を止めるわ」
「はっ」
ムサシが不可知の剣を消滅させ、炎の剣を半身で避けてから、アビゲイルに付き従う。
「あ、待て」
「いいのよソーリア。交渉は終わったわ」
「なら急ぎましょう。ジャバウォックを倒した途端、気が変わったとばかりに『魔女隊』を差し向けられたりしたらたまらないわ」
四人は急いで港に向かう。
「やぁ、ソーリア君。もう街を出てしまうなんて悲しいね」
「アイザック」
港で待っていたのはソーリアにとっては見覚えのある「慣性」の魔女、アイザックだった。
「君も知ってたの? ボクを追ってたのが、プラトじゃないって」
「もちろんだとも。君はいもしない敵に追われて僕に出会ったのさ」
ソーリアが思わず拳を握る。
「ソーリア、落ち着いて、今はプラトとの合流を急がないと。ひとりぼっちのプラトがどうなってるか分からないわよ」
「そうだった」
そのソーリアをエレナが嗜める。
そうして、四人を乗せた船が、アイザックの魔法により、地中海に進み始める。
目指す先は対岸。ギリシアと呼ばれる国へ。
「私、決めたわ」
船の上で、エレナが呟く。
「何を?」
アリスが興味深げに問いかける。
「私、『キュレネ』に匹敵する魔女の避難地を作るわ。魔女が自分たちの個性を最大限に発揮できる街を。そのために私たちはまずは組織を結成しましょう」
「組織?」
ジャンヌが不思議そうに問いかける。
「えぇ。私達四人。私達の
エレナは高らかに宣言する。
「おー!」
嬉しそうにソーリアが声を上げる。
「ね、ね、プラトもそこに入れるよね?」
「もちろんよ、『魔女連合』は来る人を拒まないわ」
「やったー!」
「あの……」
そこにジャンヌがおずおずと口を挟む。
「エレナ、ジャンヌが何か言いたそうにしてるわ」
「あら、ジャンヌ、どうしたの?」
アリスのフォローを受けて、エレナがジャンヌの様子に気付く。
「アリスさんは本名でしたよね。これから四人でやっていくなら、本名を交換しませんか?」
「いいわね、それ!」
ジャンヌの提案に、エレナが頷く。
「じゃあ、あの。私、
ジャンヌが言い出しっぺだから、とばかりにおずおずと名乗る。
「はいはーい! ボク、
ソーリアが嬉しそうに話に乗ってくる。
「私は、
エレナもまた、嬉しそうに三人を見回しながら名乗る。
「最後は私ね。ソーリア以外は知ってると思うけど。アリス・フローリアヌス・ラウッウィーニよ」
四人は互いに名乗り合い、お互いに笑いあった。
「よーし、改めて、『魔女連合』結成よ!」
「おー!」「えぇ」「はい!」
三人の魔女はついに目的を見つけ、組織を作った。
この組織がどう拡大していくのか。これからはそういう物語となっていくだろう。
『三人の魔女』第一部 End
To Be continued to 『三人の魔女』第二部
「三人の魔女 第20章」の大したことのないあとがきを
こちらで楽しむ(有料)ことができます。
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