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Vanishing Point Re: Birth 第2章

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前回までのあらすじ(クリックタップで展開)

日翔の筋萎縮性側索硬化症ALSが進行し、構音障害が発生。
武陽都ぶようとに越したばかりの三人は医者を呼ぶが、呼ばれてきたのは上町府うえまちふのアライアンスに所属しているはずの八谷やたに なぎさ
もう辞めた方がいいと説得する渚だが、日翔はそれでも辞めたくない、と言い張る。
そんな「グリム・リーパー」に武陽都のアライアンスは補充要員を送ると言う。
補充要員として寄こされたのは秋葉原あきはばら 千歳ちとせ
何故か千歳が気になる辰弥たつや鏡介きょうすけは「一目惚れでもしたか?」と声をかける。
顔合わせののち、試験的に依頼を受ける「グリム・リーパー」
そこで千歳は実力を遺憾なく発揮し、チームメンバーとして受け入れることが決定する。
そんな折、辰弥たちの目にALS治療薬開発成功のニュースが飛び込んできた。

 

ALS治療薬開発のニュースを知った辰弥と鏡介は治療薬を手に入れるために日翔には秘密裏に動くことを決意する。

 

鏡介が治験の枠を確保するために動き出す。しかし、鏡介の伝手ではそれは叶わず、独占販売権入手に一番近い「サイバボーン・テクノロジー」か「榎田えのきだ製薬」に取り入ることを考える。

 

「サイバボーン・テクノロジー」か「榎田製薬」か。
辰弥と鏡介が話し合った結果、より可能性が高そうな「サイバボーン・テクノロジー」に取り入ることを決意する。

 

 
 

 

 真奈美のGNSに着信が入る。
 発信者は――黒騎士シュバルツ・リッター
 あら、と彼女は呟きつつも回線を開いた。
(貴方が連絡してくるなんて、珍しいわね。水城みずき君)
 鏡介から連絡が来るということはよほどの何かがあったということだろう。
 視界に鏡介の顔が映り込む。
《ああ、真奈美さん、久しぶり》
(久しぶりね、水城君。何かあったの?)
 鏡介が自分から真奈美に連絡したのは以前、辰弥がトクヨンに拘束されたときが最後である。その後、真奈美から連絡することはあったがそれでも軽く近況を話す程度だったしその頻度も高くない。
 だから鏡介からの連絡はよほどの緊急事態である、と判断できるだろう。
 鏡介がああ、と頷く。
《あんたもCEO付きの重役なら情報は入っているはずだ。生命遺伝子研究所がALSの治療薬を開発したというニュース、聞いているよな?》
(ええ、『サイバボーン・テクノロジー』も専売権を得るために動いているわ。『榎田製薬』が今のところの最大の障害みたいだけど)
 おいおい、そんな内部事情をペラペラ話して大丈夫か、と思う鏡介だが真奈美としても鏡介が秘匿回線で繋いできていることくらいは把握している。盗聴の可能性はないと信じているのと、彼に対して大きな信頼を寄せている、ということだろう。
(……で、このニュースを持ち出してきたということは――『グリム・リーパー』も治験に興味があるの?)
《興味がないと言えば嘘になるな――治験の席を一つ、確保したい》
 単刀直入に鏡介が言う。
 なるほど、と真奈美は頷いた。
(誰かがALSに?)
《ああ、日翔が実はALSで……もう長くない。だから、今回の新薬に頼るしかない》
天辻あまつじ君、ALSだったの!?!? あれで、あの動き? 嘘でしょ!?!?
 思わず声に出しかけて真奈美が言葉を飲み込む。
 真奈美は「グリム・リーパー」の事情など全く知らない。鏡介が探し求めている自分の息子、正義まさあきであることすら気付いていない。
 そんな状態だから日翔がALSだと聞かされたのも驚きだった。
 同時に、仲間を助けたい一心で自分に声をかけてきた鏡介に「ああ、この子も優しいのね」と思う。
 しかし、いくらCEO付きの重役である真奈美であっても治験に日翔を割り込ませる提案ができるほどの権限は持ち合わせていなかった。
 確かに現時点でプロモーションのための治験に誰を選抜するかの会議は行われている。候補は複数いて、そこに「サイバボーン・テクノロジー」と無関係の日翔を割り込ませるのは難しいだろう。
 一瞬沈黙した真奈美に、鏡介が「分かっている」と返してくる。
《あんたに、治験のリストに日翔を割り込ませろとは言わない。いや、言いたいが無償タダでやれとは言わない。ただ、頼みがある》
(頼みとは?)
 鏡介としても最初からただで割り込ませろと言うつもりはなかった。
 等価交換が当たり前の世の中、命を買うなら命を売るくらいのことはする必要がある。
《『グリム・リーパー』に『サイバボーン・テクノロジー』の仕事を受注させてほしい》
(……『サイバボーン・テクノロジー』には独自の戦力があるのよ? わざわざ外注することがあると?)
 ああ、と鏡介が頷く。
《いくら独自戦力があったとしても『サイバボーン・テクノロジー』が動いたという証拠を掴まれたくない裏の案件もあるはずだ。そういう仕事を、受注したい》
(それで実績を積んで、見返りとして治験の権利をもらいたい、と)
 再び鏡介が頷く。
《CEO付きの重役であるあんたならそういった仕事の手配もやっているはずだ。だから、それを『グリム・リーパー』に回してもらいたい》
 鏡介の言葉に真奈美はため息を吐いた。
 確かに、自分は重役でありながら社内に潜む企業スパイのあぶり出しや鏡介の言う通りCEOや専務の指示を受けて裏の案件を手配することも行っている。それゆえ命を狙われたのがあの時の依頼である。
 それを思い出し、「グリム・リーパー」の実力は本物だと思った真奈美は分かったわ、と頷いた。
(CEOに声をかけてみるわ。それでCEOが興味を持ったならそちらに依頼は回るはず。ところで……引っ越したって言ってたわよね? 武陽都だったかしら?)
《ああ、今は武陽都のアライアンスに所属している》
(分かった、依頼を出すときは『グリム・リーパー』指定で出すようにするわ。でもあまり期待しないで)
《できればいい返事が欲しいものだがな……》
 そう言い、鏡介が通話を切る。
 視界から消えた通話ウィンドウから視線を外し、真奈美はクスリと笑った。
「……私に頼って来るとは、可愛いところあるじゃない」
 もう十年以上も昔に捨てた息子が生きていれば鏡介くらいの歳だろう。いや、水城君が正義だったらいいのにと思いつつ真奈美は視界に映るウィンドウを操作した。

 

◆◇◆  ◆◇◆

 

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