Vanishing Point Re: Birth 第2章
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日翔の
もう辞めた方がいいと説得する渚だが、日翔はそれでも辞めたくない、と言い張る。
そんな「グリム・リーパー」に武陽都のアライアンスは補充要員を送ると言う。
補充要員として寄こされたのは
何故か千歳が気になる
顔合わせののち、試験的に依頼を受ける「グリム・リーパー」
そこで千歳は実力を遺憾なく発揮し、チームメンバーとして受け入れることが決定する。
そんな折、辰弥たちの目にALS治療薬開発成功のニュースが飛び込んできた。
ALS治療薬開発のニュースを知った辰弥と鏡介は治療薬を手に入れるために日翔には秘密裏に動くことを決意する。
鏡介が治験の枠を確保するために動き出す。しかし、鏡介の伝手ではそれは叶わず、独占販売権入手に一番近い「サイバボーン・テクノロジー」か「
「サイバボーン・テクノロジー」か「榎田製薬」か。
辰弥と鏡介が話し合った結果、より可能性が高そうな「サイバボーン・テクノロジー」に取り入ることを決意する。
「サイバボーン・テクノロジー」CEOの付きの重役、
治験の枠の確保のために依頼を受けたいという鏡介に、真奈美は話をしてみる、と答える。
「『グリム・リーパー』指定で依頼が入っています」
そう、声をかけてきたのは武陽都アライアンスの連絡員だった。
玄関先で鏡介がデータチップを受け取り、リビングに戻る。
「日翔、辰弥、依頼が入った。まず確認してくる」
そう言いながら鏡介が自室に戻り、PCのスロットにデータチップを差し込む。
ロードしたデータの中に動画ファイルがあったため再生する。
映し出されたのは「サイバボーン・テクノロジー」のCEOでも真奈美でもない、神経質そうな男。
せわしなさそうに手を揉みながら男が口を開く。
『これは「サイバボーン・テクノロジー」から「グリム・リーパー」諸君に向けての依頼です。全く、たかだかCEO付きの重役の一人を守ったからといって仕事を寄越せとは強欲にも程がある』
そんなことを言いながら男はまず自己紹介する。
『私は「サイバボーン・テクノロジー」医薬品販路担当部門の専務を務めるジェームズ・アンダーソンと申します。本来ならアライアンスの野良犬ごときに、しかも名指しで依頼を出すことなどあり得ないのですがね……ありがたく思ってください』
そう、慇懃無礼な様子で話すジェームズ。
『まあいいでしょう、「グリム・リーパー」の諸君。今回は試験的に一つ依頼を出させていただきます。これを完遂したならその後も諸君名指しで依頼してもいいでしょう。まぁ、治験の権利を得たいのであれば頑張ることです』
俺たちを下に見やがって、と苛立った鏡介だが実際自分たちの方が立場は下。下手に怒らせて治験の話を反故にされたくない。
『最終的に「サイバボーン・テクノロジー」が独占販売の権利を得た暁にはそちらの要求通り、諸君の仲間を治験のリストに追加してあげましょう。今の状況を鑑みるに、第一回の治験までには独占販売の権利は確定しているでしょうし』
真奈美はどこまで話したのか。しかし、こちらの状況を把握しているのなら話は早い。
ただの口約束でこのようなことを言うとも思えない。まず、今回の依頼を完遂して今後につなげることができたなら契約書でも取り交せばいい。
『今回の依頼は「生命遺伝子研究所」の研究主任の暗殺、そして研究データの破棄をしてもらいたい。ただし、それ以外のデータは決して削除しないように』
「生命遺伝子研究所」の研究主任を? と鏡介が呟く。
「生命遺伝子研究所」と言えばALS治療薬を開発した企業であるしその利権を巡って
それなのにその研究主任を排除? どういうことだと考えるが深入りは禁物、と自分に言い聞かせる。
深入りしていいことはない、何も考えず依頼を受けるだけだ、と映像に集中する。
『暗殺ターゲットの詳細は添付の資料を読むこと。まぁ、あまり期待はしていませんが――いい働きをしてくれることを期待していますよ』
そこで映像は途切れ、資料が格納されたフォルダが表示される。
フォルダの中身を確認し、ターゲットと「生命遺伝子研究所」の見取り図を見る。
(……仕事内容としてはそこまで難易度は高くないな。まぁ――厄介なものがあるとすれば巡回が武装しているらしい、ということと、当該施設は様々なメガコープの監視下にあることか……)
そんなことを考えながら侵入ルート等の暗殺プランを立てる。
一通り組みあがったところで鏡介は辰弥、日翔、千歳の三人に連絡を入れた。
(依頼が来た。今夜、打ち合わせをする)
《了解》
《おう》
《分かりました》
三人が返答し、それから鏡介は辰弥に個別回線を開く。
(辰弥、)
《何、》
(「サイバボーン」から「グリム・リーパー」指定の依頼だ)
辰弥にだけは報告しておいた方がいいだろう、と鏡介が説明すると辰弥はああ、と頷く。
《意外と早かったね。でも、見込みはあるの?》
(ああ、今回はまだテストみたいなものだがこれをクリアしたら他にも依頼を回す、独占販売権を得ることができれば日翔に治験の席を用意する、と)
鏡介の言葉に、辰弥が安堵の息を吐く。
《鏡介、俺、頑張るから。絶対に、日翔に……》
(ああ、頑張ろう)
鏡介も頷き、通話を閉じる。
――母さん、すまない。
本来なら巻き込むべきではなかったかもしれない。
しかし、日翔を助けるためにはこれしか方法はなかった。
まず、第一段階は通過した。次はこの依頼をクリアして、さらにその次へとつなげること。それには辰弥の力はどうしても必要になる。
――辰弥、お前にも無理をさせるが耐えてくれ。
日翔を助けたいと思うのなら。
そう思いつつ、鏡介は目を閉じた。
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