光舞う地の聖夜に駆けて 第1章
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ぼんやりと緑色の光の筋を認め、そろそろかと期待に胸を膨らませる。
光の筋はやがて大きく広がり、天空から巨大なカーテンとなって降り注ぐ。
オーロラだ、と、
光のカーテンがそよ風に煽られるかのように揺らめき、形を変える。
『うわー、すごい!』
匠海の肩に腰掛けていた冬装束の妖精が立ち上がり、声を上げる。
AIなので本来は不要であるはずなのにいつもの服装ではなく全身モコモコの防寒装備でいるのは匠海も同じく頭にはニット帽、首にはバンダナを巻いた上でのマフラーのぐるぐる巻き、手には分厚い手袋、ズボンの下には厚手の裏起毛アンダーウェア、体も膝丈まであるダウンジャケットという完全な防寒装備でいたからか。
『
興奮した声を上げる妖精に、匠海がああ、と頷く。
「だが、これだけじゃないぞ」
『んー?』
オーロラを観察している匠海に妖精が首を傾げる。
「集まってきたな」
匠海が空の一角を指さすと、光のカーテンはその揺らめきを弱め一本の帯として収束し始めていた。
『もう終わりー? もっと見たいなー』
「気が早いぞ。これからが本番だ」
匠海の言葉に、妖精が再び空を凝視する。
ゆらり、と一本の帯となったオーロラが次の瞬間、大きく揺らめき、そして全天に広がった。
無数の光の帯が地上に向かって降り注ぐ。
『うわぁ……』
突然広がった幻想的な光景に、妖精が言葉を失う。
先程以上に広がり、激しく揺れる光の帯にそこかしこから感嘆の声が上がる。
『何これすごい、タクミ、分かってたの?』
ああ、と匠海が頷く。
「オーロラ爆発だ。一応、調べておいたからな」
そう妖精に説明する匠海は知らず、自分の胸の前で手を握りしめていた。
(
妖精の出自が事故死した匠海の恋人、和美の脳内データを元に生み出されたものとは理解している。
それでも、匠海はこの光景を和美と見たかった、と思った。
妖精と出会うまで、いや、妖精の出自を知るまでは肌身離さず着けていた自分と和美の婚約指輪を通したチェーンは今回の旅で久々に首にかけている。
その指輪がある辺りを握りしめ、匠海はただ言葉もなく天空を踊る光の帯を眺め続けていた。
ここはアメリカ最北の州、アラスカ。
その中でもオーロラベルトの直下にあり、オーロラ観測の地として名高いフェアバンクスに匠海はいた。
彼がフェアバンクスに来ることになった経緯はこうだ。
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