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光舞う地の聖夜に駆けて 第1章

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 匠海がホテルのロビーに戻ると『皇帝』は既に到着しており、コーヒーを飲んで待っていた。
 早朝五時こんな時間にロビーでコーヒーを飲むような人間は他にもいないだろう、目についたのはこの一人だけなので特定していい。
 接触する前にざっと相手を観察する。
 左肩の辺りに女性型アンドロイドサポートAIを連れた金髪碧眼の典型的な白色人種アメリカ人
 見たところ二十代半ばで、何故か自分がスポーツハッカーになった時のことを思い出す。
 あの頃の俺も二十代半ばだったなあ、と感傷に浸りながら匠海はコーヒーを飲む人物に歩み寄った。
「お前か、さっきのは」
 ああ、と答えて相手はコーヒーカップをソーサーに戻し、それから匠海を見て、
 露骨に嫌そうな顔をした。
日本人ジャップがアラスカに来てまでなにハッキングしてんだよ」
「あ、俺国籍アメリカなんで」
 生まれも育ちもロサンゼルスロスだからとどうでもいい情報を開示すると相手は納得していないがそうなのか、と呟く。
「てっきり就労ビザ取って世界樹来てるのかと思ったぜ」
 こいつ、そこまで強くはないがそれなりの白人至上主義者ホワイトプライドだなと判断、本来なら初対面で握手を求めるところだが敢えて手を差し出さない。
「そんなことはどうでもいい、現時点でテロに対抗できるのは俺たちだけだ。情報交換したい」
 匠海がそう言うと、相手は若干嫌そうな顔をしているもののそうだな、と頷く。
「分かった、だが呼び方が分からんと色々とめんどくさい。オレはピーター・ジェイミーソン。スクリーンネームは……『ルキウス』」
 名乗るまでに間があったことが気になったが、というかローマ皇帝皇帝だったのか、というかこいつも『アーサー王伝説』ゆかりかよと思いつつ匠海も名乗る。
「タクミ・ナガセだ。スクリーンネームは『アーサー』」
 『アーサー』の名を聞いた瞬間、相手――ピーターはがたん、と立ち上がり、
「てめえかーーーー!!!! お前のおかげでオレは『ルキウス』なのに『イルミンスールのアーサー』って呼ばれてんだぞ!!!! っていうか勝手にセキュリティパッチ当てやがって、後で整合性チェックするの大変だったんだぞ!!!! 天才だかなんだか知らんが勝手なことすんな!」
 匠海の胸倉を掴みそう叫んだ。
「落ち着け。ってか、お前、イルミンスールにいるのか」
 アメリカに存在する四本の世界樹のうち、二番目に建設された『イルミンスール』。FaceNote社の所有でその膨大なストレージとSNS技術を利用して大規模なバーチャルSNSメタバースを展開している。
 サービス開始時に匠海も何度か声掛けヘッドハンティングされたし何ならセキュリティの具合を知りたくて侵入した挙句に脆弱性を修正するためのセキュリティパッチを組み上げてセッティングしておいたので憶えている。
 匠海に諭され、ピーターが手を離す。
「まさかユグドラシル最強のカウンターハッカーが……こんな日系人のおっさんだったなんて……」
 そう、ブツブツと呟いているところを見るとどうやら彼の幻想を打ち砕いてしまったらしい。
 悪かったな、こんなおっさんでと思いつつも匠海はウィンドウを開きピーターと共有した。
「早速だが話を始めよう。お前はどこまで把握している?」
 ウィンドウを共有されたことでピーターも気持ちを切り替え、手持ちのデータを表示させる。
「分かった。オレが把握しているのは……」
 そう口を開き、ピーターは自分が持つ情報を匠海に話し始めた。

 

to be continued……

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