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光舞う地の聖夜に駆けて 第1章

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前回のあらすじ(クリックタップで展開)

アラスカのフェアバンクスで、匠海は妖精とオーロラを見ていた。

 

アラスカに来たきっかけはとうふ課長に無理やりクリスマス休暇を取らされたから。

 

ツアーの自由時間、ぶらついていた匠海は軍用車両に雪を掛けられる。

 

文句を言おうとハッキングして車両を特定した匠海だったが、その車両は偽物で、基地から何かを持ち出したらしい。

 

持ち出された何かを調べた匠海は、それが核弾頭であることを突き止める。

 

核弾頭を持ち出した車両を止めようと信号機にアクセスする匠海、しかし同じく別の魔術師が信号機にアクセスしていた。

 

 
 

 

 オーグギアの負荷が高すぎる。ハイエンドPCと接続していたとは言え、ブースターなしオーグギアで四基を越えるbotの分割処理は無理があったか。
 ブースター使用前提いつもの癖で動いていたのが裏目に出た。
 エクスカリバーは消えこそしていないものの、最大の持ち味であるデータ改変を行えるほどのリソースが残っていない。
 匠海の首筋に、冷気を纏った剣が突き付けられる。
「魔術師でありながらブースター使ってないとかなめてんのか? 何か小細工しているようだが概ね想定通りだ」
 その言葉に、匠海の喉が鳴る。
「……気付いていたのか」
 匠海がリソースを考えずに多段攻撃を仕掛けてくると見越しての最低限の反撃。
「やれよ。その剣は飾りか? メインの性能を出せずともアバターオレの首を落とすくらいはできるだろう」
 ま、やってもお前の首も落ちるがな、と挑発する皇帝。
 勿論、匠海ができないのを見越しての発言。
 相討ったとしても自分にはデメリットはない、そう宣言しているのだ。
「ったく、『ランバージャック・クリスマス』だかなんだか分からんがお前らの思い通りにはさせない」
「『ランバージャック・クリスマス』?」
 思わず、匠海は聞き返した。
 同時に、考える。
 こいつはトラックを援護するように見えたが――。
 はぁ? と皇帝が声を荒げる。
「何とぼけてんだよ! オレがトラックの妨害しようとしてるのを邪魔しやがって、お前、あいつらの仲間なんだろ!」
「ちょっと待て。俺があいつらの仲間だって?」
 いや違う、断じてそれはない、と匠海が否定する。
 匠海の言葉に皇帝が再び「はぁ?」と声を上げる。
「じゃあなんなんだよ! オレがハッキングしてるの見て止めようとしたホワイトハッカー様ってか?」
「違う、俺もトラックを妨害しようと思っていた。厳密には誘導して運転手を無力化するつもりだった」
 三度「はぁ?」と声を上げる皇帝。
「正気か? どう考えてもお前はテロリストの進路を確保しようとしていただろ」
「それはこっちの台詞だ。ダミーまで用意して」
「は? オレはダミーなんて……」
 そんなやり取りをしていると、妖精から通信が入る。
《タクミ、何やってんの! トラックがコース変えてる!》
 なんだと、と匠海が声を上げる。
《信号のハッキングがバレたみたい。あ、ダメ、衛星の監視網からも外れる!》
 直後、匠海の視界からもトラックの光点が消失する。
「クソッ、逃がしたか!」
 再度衛星に接続したいが皇帝と睨み合っている今、そんなことをする余裕はどこにもない。
 だが、それは皇帝も同じだったようで匠海の首筋から剣が下ろされる。
「ったく、取り逃がしたじゃねーか! 俺の職場潰す気かよ」
「職場?」
 どういうことだ、と匠海もエクスカリバーを下ろして尋ねる。
 はぁ、とため息をついて皇帝は口を開いた。
「どれとは言わんが、オレは世界樹で働いている」
「な、」
 皇帝の言葉に匠海が驚きの声を上げるが同時に納得する。
 匠海がブースターを使用していないことを見抜き、さらにリソース配分まで計算した冷静さ。並の魔術師にできる芸当ではない。
「お前もカウンターハッカーだったのか」
 どのサーバに所属しているのかが気になる。
 現時点で運用されているのはユグドラシル、イルミンスール、ToKの三本。GWTは二十四日の完成式典で運用が開始されるがカウンターハッカー自体はもう配属しているだろう。
 それでも皇帝の戦闘を目の当たりにして、それなりに場数は踏んでいるだろうからGWTの線は薄いなと判断する。
 そして、匠海はこの皇帝のアバターを知らないし声も聞き覚えのないものだったためユグドラシル同僚ではないとも判断する。
「その口ぶり、お前もか?」
 そう言われ、隠す必要もないだろうと匠海が頷く。
「ああ」
「どこの企業かと思ったがあの動きを考えるとお前も世界樹か」
「……ああ」
 カウンターハッカー自体は資金力さえあればごくごく普通の企業でも雇うことがある。
 だがその腕が世界樹のカウンターハッカーに届くかというと遠く及ばない。
 皇帝は自分に剣を突きつけたことを考慮し、匠海もどこかの世界樹所属だと判断したらしい。
「だったらマズいぞ。このままではお前の職場も消滅だ」
「どういうことだ」
 皇帝の声に嫌な予感を覚える。
 皇帝の職場どこかの世界樹匠海の職場ユグドラシルが消滅する、それはつまり――。
「テロリストは弾道ミサイルを使って四本の世界樹を破壊する気だ」
「世界樹を?」
 まさかのターゲットに、匠海が思わず聞き返す。
「それは本当か?」
「ああ、テロリストの募集要項で見た。木こりのクリスマスランバージャック・クリスマス、それが今回のテロの作戦名コードネームだ」
 世界樹が折れたらどうなるか分かってんのか、ネットワークインフラの断絶だぞ? と言う皇帝の言葉に、匠海はいや、と否定した。
「確かに世界樹が折れたらネットワークインフラは断絶するが、奴らの狙いはそれだけじゃない」
「なんだと?」
 お前、何を知っている、と相手が訪ねてくる。
 一瞬、匠海は皇帝を信用していいかどうか自問した。
 確かに、皇帝の言葉が本当なら相手は四本の世界樹破壊を阻止するためにあのトラックを妨害しようとした。
 いや、待てよと匠海が違和感に気づく。
 皇帝は、トラックを妨害しようとした。
 匠海もそれは同じ。
 それなのに、二人の目から相手はトラックを誘導しようとしているように見えた。
 まさか。
「マズいぞ」
「なんだよ」
 匠海の呟きに皇帝が首をかしげる。
 いや、違和感があったんだと匠海は口を開いた。

 

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