光舞う地の聖夜に駆けて 第1章
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アラスカのフェアバンクスで、匠海は妖精とオーロラを見ていた。
アラスカに来たきっかけは
ツアーの自由時間、ぶらついていた匠海は軍用車両に雪を掛けられる。
文句を言おうとハッキングして車両を特定した匠海だったが、その車両は偽物で、基地から何かを持ち出したらしい。
持ち出された何かを調べた匠海は、それが核弾頭であることを突き止める。
時間がない。
相手が
相手は回線を切断しなかった。
切断はしないが、匠海の侵入を防止するための
閉じつつある防壁の隙間をスライディングで通過、直後、後ろで防壁が閉じられる。
――これを辿れば相手に届く。
相手は「自分につながる」パスに防壁を展開していた。
つまり、展開されつつある防壁を突破していけば相手を特定できる。
相手が回線を切断していないため、交通網の状況はまだ確認できる。
サブウィンドウに交通網のイメージマップを投影したまま匠海はさらに防壁を通過、相手のアクセスポイントも突破する。
防壁が閉じられているため退路は断たれたも同然だが相手を無力化すればこちら側から解除できるので今は気にしない。
ここまで来たらフィールドは相手のオーグギアの領域。
それと同時にぞわり、と背筋に悪寒が走り、咄嗟に身をひねる。
匠海のすぐ横を衝撃波が奔り、後ろにあったオブジェを凍結させる。
「っぶな……!」
辛うじて回避したが、ただの衝撃波ではない。
(……後ろのオブジェが凍結している……奴の
そんなことを考えながらエクスカリバーを構える。
独自ツールは上位の魔術師が独自に既存のツールを結合させた独自の名前と形状を持つツールである。
匠海の
光の向こうにぼんやりと人影が揺らめく。
そこか、と匠海は人影の方向にエクスカリバーを向けた。
人影が何か――剣らしきもの――を振り上げ、振り下ろす。
それによって発生した衝撃波が匠海に襲い掛かる。
それをエクスカリバーで受け流そうとし、次の瞬間、匠海は横に跳んだ。
鎧から伸びるマントを衝撃波が掠め、マントの端が凍結する。
そこからさらに冷気が伸び、マントの凍結範囲が広がっていく。
「……ちっ!」
舌打ちをしてエクスカリバーで凍結部分を切り離す。
切り離すと同時にエクスカリバーの改変能力でコードを書き換え、破損したアバターデータの整合性を図る。
(まずい、エクスカリバーで受けても相殺できない)
エクスカリバーは「斬った対象のデータを可逆的に破壊、自分に有利なように書き換える」改変型である。だが、その改変にはコード入力が必要であり、いくら匠海が
それに対して相手の攻撃はコードそのものを不活性化させる凍結型。
しかも今の攻撃で触れた瞬間に凍結が発生することを確認している。
時間のかかるエクスカリバーでは改変が終わる前に凍結される。
エクスカリバーを一振り、一旦ウェポンパレットに戻し、攻撃特化に構築した
見た目はエクスカリバーとほぼ同じで、一見、エクスカリバーを再展開したようにしか見えない。
同時に、匠海はオーグギアのリソースを分割して四基の
ドローンが人影に向かって飛翔する。
だが、それを、
「甘い!」
人影が剣らしきものを振ることで撃墜する。
(……こいつ、やる!)
匠海の額を汗が流れる。
今、確かに見えた。
人影が振るった剣らしきもの、いや、剣から衝撃波のような斬撃波が放たれドローンを凍結させたのを。
離れていては勝てない、と匠海は判断した。
剣を持っているとはいえ斬撃波を飛ばすということはどちらかというと遠距離攻撃に強いはず。逆に言うと近接戦闘に持ち込めば斬撃波が放てずエクスカリバーの間合いに入る。
サブウィンドウのトラックを確認しつつ、匠海はどうする、と考えた。
考えている間にも相手は斬撃波を飛ばし攻撃してくる。
それを回避しながら、匠海はさらに四基のドローンを展開、射出する。
相手がそれを撃ち落とすタイミングでさらに二基、タイミングをずらして四基展開。
先の二基がシールドを展開しつつ相手に向けて指向性の攻性プログラムを発射、相手がそれに対応した隙を突いて後の四基にDDoS攻撃を行わせてオーグギアの回線を圧迫させる。
それを見逃さず、匠海は相手に急接近した。
相手が動きを鈍らせつつも全てのドローンを破壊、回線を回復させる。
だが、匠海の剣はまだ届かない。
急接近したことで相手のアバターがはっきりと可視化される。
豪奢な装飾が施された鎧を身に纏った騎士、いや、皇帝。
その手に握られた
皇帝が匠海に向けて剣を振り下ろす。
斬撃が匠海に迫りくる。
それを、匠海はカリバーンで斬り払った。
厳密には、斬撃を受けた瞬間カリバーンは凍結されその機能を失っている。
それでも匠海は足を止めたり回避したりしなかった。
凍結されたカリバーンを手放し、そのまま皇帝に迫る。
――届いた!
エクスカリバーを展開、皇帝の首筋に突き付ける。
「チェックメイト!」
「はん、それはどうかな!」
突き付けられたエクスカリバーに怯まず、皇帝が勝ち誇ったように言う。
チリッ、と匠海の周囲で信号が舞う。
「な――」
視界を走るノイズに、匠海はやられた、と悟った。
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