Vanishing Point Re: Birth 第1章
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「グリム・リーパー」に補充要員が派遣されるという話が
話に加わった日翔の体調を気遣う辰弥。
しかし、GNSに不慣れな日翔は
補充要員こと
千歳の一挙一動に、辰弥は心をかき乱される。
千歳を加えた初めての依頼の打ち合わせをする「グリム・リーパー」。
今回の依頼は、取引現場でのターゲット暗殺と取引物品の強奪だった。
当日夜。
久々の「仕事」に辰弥がGNSでニュースチャンネルを開く。
上町府にいたころから「仕事」の開始前にニュースチャンネルを開き、最近の情勢を知ることで意識を仕事モードに切り替えていた。
最後の方はニュースの大半がノインが起こした吸血殺人事件のものばかりだったが、吸血殺人が解決した今、流れてくるニュースは
とりあえずは平和になったのかな、と考えていたところで特集が入る。
《今日の特集はこちら。『桜花で頻発する失踪事件』です》
ニュースキャスターの声に、辰弥が「またか」と呟く。
御神楽のお膝元で世界全体を見ても治安が良い方な桜花国内であっても、事件の類が途切れることはない。そのなかでも失踪事件は特に深刻なものとして扱われるが解決することはめったにない。その大半が悪質なメガコープによる生身にこだわる富裕層向けの臓器密売や他国への労働力としての人身売買のための事件だからである。
常勝不敗とされるカグラ・コントラクター擁する御神楽も全ての悪質なメガコープを滅ぼすには至っていない。
だからこの特集も「気を付けないと生死関係なく売られてしまうよ」という警鐘で報道されているのだろう。
ほんと、物騒な国だよと思いつつ辰弥は時計を見てニュースチャンネルを閉じる。
《準備はいいか?》
自宅で後方支援を担当する
(問題ない、いつでもいけるよ)
《ああ、大丈夫だ》
《問題ありません》
《今回は秋葉原の動きを見ることにもなる。お前ら、女の前だからってイイカッコするなよ》
そんな言葉が飛んでくる。
《なんでぇー、俺がそんなことするような奴に見えるかー》
(見える)
日翔の反論を肯定で返し、
辰弥の隣で同じく自分の
《ひでぇ》
《お前ら、痴話喧嘩は家でやれ。さっさと始めるぞ》
冷静な鏡介のツッコミ。その瞬間、辰弥と日翔が姿勢を正す。
(ごめん)
《へーい》
《仲、いいんですね》
辰弥、日翔の横に控えていた千歳がクスリと笑う。
(……とにかく、こっちの準備はできてる。いつでもいけるよ)
千歳の反応に一瞬硬直した辰弥だったが、すぐに気を取り直して鏡介に返す。
《気を付けろよ。今までよりはハードな内容だ。特にGene、お前は無理するな》
日翔の体調を考えると無理はさせられない。しかし彼の性格を考えると必ず突っ走る。
一応は辰弥が同行しているし千歳もいるから余計な真似はしないだろうが、それでも忠告しておくに越したことはない。
今まではどちらかというと辰弥に対して言うことの多かった言葉だったし辰弥もまた自分の出自に負い目を感じているからか時折命を軽視した行動を取る。
それを止めるのが鏡介の役割の一つであったが、そこに日翔の無理を止めるというものも入り、鏡介は三人に気づかれないようにため息を吐いた。
日翔は自分の命を軽視することはあまりなかったが無茶はする。特に辰弥のこととなれば突っ走ることもあるから気を付けなければいけない。
最悪、日翔のGNSをハッキングして
共有された辰弥の視界に映る日翔を見る。
三人が身を隠していた物陰を飛び出し、密売現場へと駆けだす。
暫く進んだところで散開し、それぞれが配置に付く。
路地裏に、アタッシュケースを手にした複数の男が現れ、反対側からも同じようにアタッシュケースを手にした男たちが現れる。
顔を合わせた男たちは辰弥たちの存在に気づくことなく取引を始める。
まず、片方の男がアタッシュケースを開き中身を相手に見せる。
《何だありゃ》
物陰から様子を窺っていた日翔が首をかしげる。
(義体のパーツのようだけど――それを詮索するのは俺たちの仕事じゃない。何であったとしてもターゲットを排除して強奪するだけだ)
そう言う辰弥も取引されている物品にいささかの興味を覚えたようだが深く気にすることなく取引の様子を眺めている。
取引の物品を確認した反対側の男がアタッシュケースを開く。
そこにはいくつかの金の延べ棒が。
(なるほど、刻印を潰して足が付かないようにしてるのか……確かに電子マネーだと追跡しやすいし通貨も取引によって価値変わるもんね……やっぱ貴金属が一番ものを言うのか……)
そうなるとどのメガコープについているかによって使用できる通貨もその価値も変わってくるというもの。人々は基本的にGNSやCCTを経由した両替機能付きの電子マネーで買い物を行うことになる。
ちなみに、世界最大規模のメガコープが御神楽財閥であるため、当然そこが発行した通貨が世界で一番使い勝手がいい、ということは言うまでもないだろう。
しかし、こういった闇取引で御神楽の通貨を使うのは危険すぎる。
慣れた話だ、と思いつつ辰弥がターゲットの動向を探る。
物品の回収とターゲットの暗殺、ただターゲット一人を殺して終わる話でもない。
なるべく周りの隙が大きい時、そして取引の決定的な瞬間に仕留める必要がある。
互いのアタッシュケースの中身を確認した男たちが歩み寄る。
アタッシュケースを交換した瞬間、三人は動いた。
それぞれ隠れていた物陰から身を乗り出し、発砲。
辰弥が放った弾丸がターゲットの頭を撃ち抜き、同時に日翔と千歳の弾も男の取り巻きを貫いていく。
「誰だ!?!?
」
そんなベタな台詞を吐きながら銃を抜き、残りの男たちが銃弾が飛来したと思しき場所に向かって発砲する。
辰弥が隠れていた遮蔽物に銃弾が跳弾し、明後日の方向に飛んでいく。
射撃の切れ目を狙い、三人がそれぞれ応戦する。
日翔と千歳が無理をしていないか気になり、辰弥がちら、と二人に視線を投げる。
日翔は気になるが無理をすればどうなるかは分かっているのだろう。勝手に飛び出すこともなく遮蔽を利用して応戦している。むしろ以前は辰弥の方が飛び出すこともあり、それを日翔が止めていたことを考えると彼が飛び出すことはないだろう。
一方で千歳も冷静に両手に構えた二丁のハンドガンで男たちを確実に排除している。
その、彼女の手に握られた二丁のハンドガンを見た辰弥は思わず声を上げかけた。
――デザートホーク二丁!?!?
デザートホークといえばハンドガンの中でも特に大型の、別名「ハンドキャノン」とも呼ばれる大口径のものである。その中でも特に大型の弾を使う.50AEに見える。
大の男でも慣れていなければ肩を持っていかれると言われるデザートホーク、それも二丁拳銃ということで流石の辰弥も面食らった。
日翔でもそんな無茶はしないぞと思いつつも、見ていると千歳はそれで肩を痛めることもなく涼しげな顔で連射し、敵を排除している。
辰弥が呆気に取られている間に千歳は残りの男たちを排除し、こちらを向いた。
「終わりましたよ」
GNSではなく肉声だが、それを聞くのは辰弥と日翔以外いない。
辰弥が銃を下ろし、千歳を見る。
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