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Vanishing Point Re: Birth 第1章

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前ページのあらすじ(クリックタップで展開)

 日翔あきとが倒れ、呼ばれて来た武陽都ぶようと暗殺連盟アライアンス所属の医者は渚だった。
 辰弥たつやには余命のことなどはどうしても語りたくないという日翔に、渚はGNSを入れろとしか言えなかった。

 

 「グリム・リーパー」に補充要員が派遣されるという話が鏡介きょうすけよりもたらされる。
 三日一巡後に顔合わせをするということになり、辰弥は補充要員のプロフィールを確認する。

 

 話に加わった日翔の体調を気遣う辰弥。
 しかし、GNSに不慣れな日翔は強化内骨格インナースケルトンの出力調整に手間取っていた。

 

 補充要員こと秋葉原あきはばら 千歳ちとせと顔合わせをする「グリム・リーパー」。
 千歳の一挙一動に、辰弥は心をかき乱される。

 

 千歳を加えた初めての依頼の打ち合わせをする「グリム・リーパー」。
 今回の依頼は、取引現場でのターゲット暗殺と取引物品の強奪だった。

 

 依頼当日、ターゲットの暗殺に挑む辰弥Bloody Blue達の前で千歳Snowはデザートホーク二丁拳銃を披露する。

 

 
 

 

「秋葉原、それ……」
 女性がデザートホークを、それも二丁拳銃するというのがまだ信じられないらしい辰弥に千歳が笑う。
「これですか?」
「……よく、二丁持ちできるね」
 辰弥も二丁拳銃自体はできないこともない。反動の軽減のさせ方も心得ている。
 しかしデザートホーク二丁でやれと言われてできる自信はない。
 それは日翔も同じだったようで、「すげえな」と言いながら二人に歩み寄る。
 辰弥と日翔の反応に千歳がきょとんとした顔で二人を見るが、すぐに銃を両腰のホルスターに仕舞い、左腕を曲げて力こぶを作るようなポーズをとる。
「鍛えてますから」
 その辺の男には負けませんよ、と笑う千歳に辰弥の胸が締め付けられるように痛む。
 まるで「天辻さんなんていなくても依頼はこなせますよ」とでも言いたげな顔に違う、と内心首を振る。
 確かに日翔を依頼の現場に立たせるのは心が痛む。余命幾許もないのに命の危険にさらされるようなことばかりさせるわけにはいかない、と思っている。
 しかしそれとこれとは別の話だ。
 辰弥にとって日翔は「いなくてもいい」人間ではない。かけがえのない存在だということは彼自身が一番よく分かっている。
 しかし、千歳の言葉は日翔などいなくてもいいのだと言っているように感じてしまい、それは受け入れられない、と思う。
 実際はそんな意図など全くなく、「女だからって足手まといになると思わないで下さいよ」程度の反骨心なのかもしれない。そこに日翔の影がちらつくのは何故だろうか。
 いや、そんなことを考えていても仕方がない、と辰弥は日翔と千歳を見た。
「とりあえず品物を輸送しよう」
 地面に落ちた二つのアタッシュケースを辰弥と日翔が拾う。
「おっも。やっぱ金は重いな……」
 辰弥が「商品」のアタッシュケースを、日翔が金塊のアタッシュケースを運び、車に詰め込もうとする。
 しかし、それを鏡介が止める。
《待て。念のため発信機がついていないか確認したい……が、このメンバーでX線透視できる奴、いないな》
 X線透視可能な義眼にしていれば簡単に荷物に厄介なものが仕掛けられていないか確認できるが四人の中で唯一義眼にしているのが鏡介。そしてその鏡介は現在自宅で後方支援である。誰も透視で確認できない。
 あっ、と日翔が声を上げる。
 しかし、それに対して辰弥が「大丈夫」と答えた。
「こういうこともあるかと思って……持ってきた、携帯用のX線スキャナ」
 そう言って懐から小型のスキャナを取り出す。
「おい、辰弥……!」
 慌てたような日翔の声。
 無理もない。辰弥が「普通なら誰も持って来ないだろう」ものをどこからともなく取り出すのは「こうなることを想定していた」からではない。
 血肉から武器弾薬を生成できる能力を持つ生物兵器LEBとしての辰弥の能力。
 生成できるものは単純に武器弾薬だけではない。
 辰弥曰く「自分の知識の範囲が及ぶもの」なら血さえあればほぼ全て作り出せる。
 あの、上町府でノインと戦った時も辰弥は「周囲の血」からジェネレータを、自分の血から戦術高エネルギーレーザー砲MTHELを生成して攻撃する、といった離れ業をやってのけた。
 辰弥曰く「エネルギー兵器はエネルギー供給の問題があるから基本的には作っても意味がない」とのことで、今回も電力というエネルギーを使うX線透視スキャナを生成したとしても使えないのでは、と日翔は考えた。
《おい、バッテリーどうすんだよ》
 千歳には聞かれないよう、辰弥に個別回線を開いて日翔が訊ねる。
《ああ、これのバッテリーくらいなら手回し発電機でなんとかなりそうだから作った》
 辰弥の返答に目眩を覚える日翔。
 千歳にバレる可能性を考えなかったのか、という考えと無茶しやがってという考えがぐるぐると脳内を回る。
「手回し発電式ですか? 珍しいものを持ってるんですね」
 辰弥の手元を覗き込み、千歳が興味深そうに呟く。
 急に顔を近づけてきた千歳に一瞬ドキリとするものの辛うじて平静を取り繕い、辰弥は発電機を回し始めた。
《ほらー、やっぱり疑われてるぞ》
 日翔のそんなヤジが飛んでくる。
 しかしそんなことを言っていてもいい状況ではない。
 今回の取引に関わった人間を皆殺しにしているのである、どこかで取引をチェックしていた仲間がいる可能性を考えた方がいい。
 辰弥がアタッシュケースをスキャンして発信機の類がないかをチェック、見つけた気になる付属物は全て破壊する。
「多分、これで全部だと思う」
 そう言い、辰弥は日翔にも指示して二つのアタッシュケースを車まで運び込む。
 だが、車に乗り込む直前、辰弥は銃を抜いて振り返った。
「乗って!」
 そう言いながら辰弥は数発発砲、日翔と千歳が車に乗り込むのを確認して自分も飛び乗る。
 車に固いものが当たる音が響く。
《もう来たのか!?!?
 銃を抜いた日翔が後部座席で振り返る。
「多分、ターゲットを始末したタイミングで向こうも異常事態を察したんじゃないかな。近くで待機してたなら駆けつけるくらいすぐだろうし」
 助手席から身を乗り出し、辰弥が発砲。
 フロントガラスを突き破った銃弾は正確に運転席の人間の眉間を撃ち抜き、絶命させる。
 運転手を失ったことで車がスピンし、後ろへと消えていくがそれを掻き分けるように複数の車が三人を追跡してくる。
「結構しつこいよ! Snow、撒ける?」
 応戦しながら辰弥が千歳に確認する。
「任せてください! BBさん、振り落とされないでくださいよ!」
 運転席に収まった千歳がそう言い、強引にハンドルを切った。
 ものすごい勢いで車が角を曲がり、交通量の多い国道へと飛び込んでいく。
《は? 一般人巻き込むのかよ!》
 日翔が運転席を見ながらそう発言するが辰弥は逆に落ち着いたように助手席へと戻る。
「いや、国道に出た方がいい。後ろめたい奴が交通監視の厳しい国道で撃ってくるとは思えない」
 国道で銃撃戦でもしようものなら桜花の警察機能を任されているカグラ・コントラクターが確実に動く。
 もちろん、危険運転も取り締まりの対象ではあるがそこは千歳の運転技術を信じるしかないだろう。
 その辰弥の読み通り、国道に出た追跡の車は発砲してこなかった。その代わりにスピードを上げ、追従しようとする。
 しかし千歳もそれは想定の範囲内だったようで、平然とアクセルを踏みスピードを上げる。その上でGNSの補助もあるだろうが車同士のわずかな隙間を見つけてはそこへ車を寄せていく。
 三人の乗った車が他の車を縫うように追い抜き、さらに別の道へと入り、すぐに曲がって大通りに出る。
 その時点で交通違反を取り締まろうとやってきたパトカーのサイレンが耳に入ったが、千歳の裏道を利用したルート選択は複雑で、すぐにそれも聞こえなくなる。
 千歳がどのようなルートを通っているかは分からないがなるほど、こんなルートがあるのかと辰弥はGNSのマップに記憶させた。
 背後についていた車とパトカーは徐々に引き離され、やがてバックミラーから完全に姿を消す。
「……撒けたみたいですね」
 鏡介からの衛星映像も確認しつつ、千歳がほっとしたように二人に言った。

 

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