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Vanishing Point Re: Birth 第1章

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前ページのあらすじ(クリックタップで展開)

 日翔あきとが倒れ、呼ばれて来た武陽都ぶようと暗殺連盟アライアンス所属の医者は渚だった。
 辰弥たつやには余命のことなどはどうしても語りたくないという日翔に、渚はGNSを入れろとしか言えなかった。

 

 「グリム・リーパー」に補充要員が派遣されるという話が鏡介きょうすけよりもたらされる。
 三日一巡後に顔合わせをするということになり、辰弥は補充要員のプロフィールを確認する。

 

 話に加わった日翔の体調を気遣う辰弥。
 しかし、GNSに不慣れな日翔は強化内骨格インナースケルトンの出力調整に手間取っていた。

 

 補充要員こと秋葉原あきはばら 千歳ちとせと顔合わせをする「グリム・リーパー」。
 千歳の一挙一動に、辰弥は心をかき乱される。

 

 千歳を加えた初めての依頼の打ち合わせをする「グリム・リーパー」。
 今回の依頼は、取引現場でのターゲット暗殺と取引物品の強奪だった。

 

 依頼当日、ターゲットの暗殺に挑む辰弥Bloody Blue達の前で千歳Snowはデザートホーク二丁拳銃を披露する。

 

 ターゲットを排除し、取引物品を回収した辰弥たち。
 逃走の際に一度は追跡されるものの千歳の運転で無事にそれを回避する。

 

 追跡を回避し、一息つく三人。
 ふと、辰弥は千歳のプライベートにかかわる質問を投げかけてしまう。

 

 
 

 

 追手に見つかることもなく無事に物品を指定の場所に輸送した辰弥たちはそれぞれの自宅に戻り、しばらくの休憩の後反省会デブリーフィングを進めていた。
 その際に辰弥が千歳のプライベートに踏み込もうとしたことに関しては「仕事」中ということもあり鏡介が軽く注意する。
《辰弥、気になるのは分かるが踏み込むのはオフの時にしておけ。何かあった時にフォローできない》
 やんわりと、そうたしなめた鏡介に辰弥が「ごめん」と謝る。
《とはいえ、武陽都での初仕事はうまくいったな。秋葉原も予想以上に頑張ってくれた》
《ありがとうございます》
 辰弥から見れば鏡介は千歳に対してあまりいい感情を持っていない、という印象だったがこうやって素直に褒めたところを見るとそれは思い過ごしだったのか。
 まぁ、鏡介女嫌いだもんね、でも「仕事」となれば話は別か、と考え、辰弥は鏡介のまとめを聞く。
《……秋葉原は『使える』。今回は体験会みたいなものだったが正式加入でもいいだろう、と俺は思う。お前らはどうだ?》
 話の最後に鏡介がそう確認してくる。
 「使える」、確かに千歳は使えるだろう。デザートホーク二丁持ちができる人間など普通ならいるはずもない。
 辰弥も途中で確認したのだ。「義体にしてるの?」と。
 しかし千歳の返答は最初と同じ「鍛えてますから」の一点。
 アライアンスの人間の一部は「仕事」中に欠損した四肢を補うため、またはより高度な依頼を受けることができるようにと身体のどこかを義体にしている。それでもほぼ生身の人間が多い状態、そこに千歳も含まれている。
 そんな彼女の射撃能力も車による逃走も確かなもので、これは武陽都に不慣れな「グリム・リーパー」には心強い味方となる。
 鏡介でさえ交通衛星のハッキングでルート算出を行えるとしてもいざという時現場でその時の判断で経路を変えられるメンバーがいるに越したことはない。
 そう言う点で千歳はうってつけの役だった。
《俺は問題ないと思うぜ。足引っ張るとかそんなの全然なかった》
 日翔がすぐに答え、辰弥もそうだね、と頷く。
(大丈夫、だと思う)
《どうしたんだ? 『だと思う』って》
 何か不安要素があるのかと日翔が訊ねる。
(いや、不安要素っていうか――)
 言葉を濁す辰弥。
 不安要素などあるはずがない。
 あの千歳の攻撃は的確で、しかもデザートホークという威力の高い大型拳銃を使ったもの。攻撃力に不安があるわけでもない。仮に近接戦闘が苦手だったとしても自分や日翔が十分カバーできるはず。いや、デザートホーク二丁持ちができる時点で腕力も、恐らくは格闘戦も問題ない。
 だとしたら一体何が引っかかるというのか。
 そう自問して、辰弥はああ、と気が付く。
 ――俺が意識しすぎているのか。
 千歳の一挙一動に。
 「仕事」に支障があるほどではないが、気が付けば彼女の動きを目で追っている。
 そこで辰弥ははっきりと認識した。
 自分は千歳に興味を持っている。もっと、彼女を知りたいのだ、と。
 彼のそんな思考をよそに、鏡介が反省会の終了を口にする。
《今回は三人ともよくやってくれた。ゆっくり休んでくれ》
《へいへーい》
 鏡介の言葉に日翔が「俺は寝るぞ」とグループ通話を抜けようとする。
 しかし、鏡介がそれを止めた。
《日翔と辰弥は残ってくれ。少しだけ話がある》
《えぇー……》
 通話を抜けようとした日翔が手を止め、その一方で千歳が「それでは、お疲れ様でした」と通話を抜ける。
 ほんの少しだけ名残惜しそうに千歳の名前があった空欄を見た辰弥が首を振って鏡介を見る。
(どうしたの)
《いや、秋葉原についてだが――》
 そこまで言ってから鏡介は辰弥に視線を投げる。
(何、)
《辰弥、お前は秋葉原に興味を持っているようだが一応は警戒しておけ。あいつは……秋葉原は今はアライアンスに所属しているが元々は『カタストロフ』の所属だ》
《なっ!?!? 》(え?)
 日翔と辰弥が同時に声を上げる。
 「カタストロフ」といえば以前辰弥救出のために日翔と鏡介が頼った裏社会の組織ではあるがどうしてその名前が今ここに。
 鏡介の言い分では「カタストロフ」に所属していたのは過去の話で今はフリーランスとしてアライアンスで活動しているようにも聞こえるがあれほどの組織を抜けることが本当にできるのか。また、抜けることができたとしたなら一体どういう理由があったのかが気になるところである。
 しかし、「カタストロフ」と関係があった人間だとは穏やかな話ではない。そもそも上町府で猛がLEBの存在を示唆したことで辰弥救出作戦の費用の大半が支払い免除されたのではないかとも推測されているのである。もし辰弥がそのLEBであるということを知られていれば「カタストロフ」は元構成員のふりをさせた千歳を送り込んだ可能性も考えられる。
 いや、考えすぎか、と三人は考えた。
 千歳が元「カタストロフ」の構成員だとしてもLEBのことを知っているはずがない。本当にただの偶然だし、意外と「カタストロフ」を抜けてフリーランスになる人間は多いのかもしれない。ただの偶然に決まっている。
 辰弥がLEBであるということが知られているはずがない。猛は雪啼ノインのことしか明かしていないし辰弥の生存自体猛に、いや、上町府のアライアンス自体に秘匿した状態で武陽都に来ている。武陽都のアライアンスにLEBの話が伝わっているはずがない。
 大丈夫だ、辰弥のことは知られていない、そう自分に言い聞かせたものの三人は沈黙したまま通話を切ることができずにいた。

 

◆◇◆  ◆◇◆

 

第1章-10

 


 

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