Vanishing Point Re: Birth 第4章
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日翔の
そんな「グリム・リーパー」に武陽都のアライアンスは補充要員を送ると言う。
補充要員として寄こされたのは
そんな折、辰弥たちの目にALS治療薬開発成功のニュースが飛び込んできた。
近日中に開始するという。その治験に日翔を潜り込ませたく、辰弥と鏡介は奔走する。
その結果、どこかの
どのメガコープに取り入るかを考え、以前仕事をした実績もある「サイバボーン・テクノロジー」を選択する辰弥と鏡介。いくつかの依頼を受け、苦戦するものの辰弥のLEBとしての能力で切り抜ける四人。
しかし、辰弥に謎の不調の兆しが見え始めていた。
ここ暫く不調の日翔を慮る辰弥と鏡介。
日翔のためにと危険な依頼を受けているが、それでも彼を助けられない可能性について考えてしまう。
「本当はその三回も立ってもらいたくない。返済は俺と鏡介が代わりにするから、日翔は――」
《バカ言うな》
辰弥の言葉を日翔が遮る。
《こうなったのは全部俺の責任だ。お前らが背負う必要なんてねえんだよ》
プリンを貪りながら日翔が返す。
《テメエのケツはテメエで拭けって言うだろ。そこにお前らが付き合う必要はねえし俺だって借金残して死ぬ気はねえ。だから無理して付き合う必要はねえんだよ》
何だったら俺一人で依頼を受けてもいい、と続ける日翔に辰弥が口を開いた。
「もうやめて。そこまでして日翔が自分の命を削る必要はない」
もっと自分を大切にして、と辰弥は日翔に訴えた。
しかし、辰弥のその言葉は日翔が苦笑で否定する。
《辰弥、それ、ブーメラン》
「……っ」
日翔の「それはお前にも言えることだ」という意味のスラングに、辰弥が身をこわばらせる。
プリンの最後の一口を口に運び、日翔が笑う。
《お前こそ、俺のために自分の命を削る必要はねーよ。お前は、俺なんかを気に掛けずに幸せになるべきだ》
「日翔……!」
辰弥がよいしょ、と立ち上がる日翔の名を呼ぶ。
「俺と日翔は違う! 日翔はもっと生きるべきなんだ。俺は、俺は……。俺なんて、ただ人を殺すために造られた生物兵器、兵器なんて使い捨てられてナンボのものなんだよ! そんな俺が、自分の命を削らなくて、何しろって言うの!」
《辰弥》
日翔が辰弥の前に立つ。
辰弥に手を伸ばし――そっと抱き寄せる。
「日翔……!」
嫌だ、日翔が死ぬなんて嫌だ、と駄々をこねる子供のように繰り返す辰弥の背中をポンポンと叩き日翔が苦笑する。
《お前、ほんっと、素は子供だよな》
「だって、俺……七歳だよ? 君から見たら子供なんでしょ?」
いつもなら「子供扱いするな」と言う辰弥が珍しく自分が子供であることを認める。
いつもこれくらい聞き分けが良ければいいのに、と思いつつ日翔は言葉を続けた。
《お前はお前だ。生物兵器として開発されたのかもしれないが、今のお前は一人の人間だ。いつまでもそんな呪いにとらわれる必要はねえ》
「でも……!」
《だからそんな悲しいことを言うな。俺は今のままで充分幸せだし、お前にも幸せになってもらいたい》
そんな辰弥と日翔のやり取りを鏡介は黙って見ていた。
自分の思いも同じだ。
辰弥にも、日翔にも幸せになってもらいたい。
できればこんな日々が続いてほしい。
だから、今はたとえ「サイバボーン・テクノロジー」の飼い犬という苦汁を舐めることになったとしても耐えるしかないのだと。
そう、考えていたら鏡介に通信が入る。
発信者を見ると
普通、依頼があれば連絡担当のメッセンジャーがデータチップを持って来訪するはずなのでまとめ役が連絡を寄こしてくるとは珍しい。
上町府にいた頃もまとめ役の
「悪い、まとめ役から連絡が入った」
鏡介が辰弥と日翔に断りを入れ、回線を開く。
《ああ、水城さんこんにちは》
鏡介の視界にまとめ役の顔が映し出され、挨拶する。
それを会釈で返し、鏡介は用件を尋ねた。
「まさかそちらから連絡が来るとは思っていなかったのですが」
依頼ですか? と聞くとまとめ役は「まぁ、そうですね」とやや言葉を濁しがちに頷いた。
《本来ならメッセンジャーを介するのですが少し極秘の案件でしてね》
「極秘案件ならもっと信頼がおけるチームに振り分けると思いますが?」
まとめ役からの直接の依頼。しかも極秘案件。
本来なら情報が漏れないようにまとめ役が最も信頼を置くチームに話を持っていくはずだ。自分たちのような
それとも、自分たちでなければいけない理由がある……?
それはそうですね、とまとめ役が認める。
《今回は他のチームに情報が洩れてほしくないのです。そう考えると『グリム・リーパー』が適任だと思った次第です》
「つまり――」
今回のターゲットはアライアンス内部ということか。
アライアンスのチームは時折合同で依頼に臨むこともあるため横のつながりは強い。それを考慮すると武陽都のアライアンスに所属して間もない「グリム・リーパー」にそのつながりは存在しない。つまり、アライアンス内部で情報が漏れることはない。
移籍した時点で覚悟していたことが実現し、鏡介はため息を吐いた。
アライアンスとて一枚岩ではない。チームによっては
そういった場合の制裁は大抵の場合――アライアンスによる粛清。チームメンバーを誰一人生かさず、殺し、隠し、闇に葬り去る。
そういった汚れ仕事専門のチームがあるわけでもなく、大抵はどこかのチームが貧乏くじを引く。その貧乏くじが「グリム・リーパー」に回ってきただけだ。
「信用はないが横のつながりもない『グリム・リーパー』が適任ということですか。まあいい、今更汚れ仕事は嫌だとは言いません」
それにここで実力を見せつけておけば他のチームもちょっかいをかけてくることはないだろう、と鏡介は考える。
そうですね、とまとめ役は頷いた。
《今回お願いするのはチーム『フィッシュボーン』の粛清です。どこかに情報を流していたらしく、既に複数のチームが妨害に遭っています》
「……分かりました。『フィッシュボーン』の詳細などはどうやって」
《ああ、後で私の方から送ります。情報部から情報は入手していますがどこから『フィッシュボーン』に漏れるか分かりませんからね》
はい、と頷いて鏡介が通話を終了する。
「おい、辰弥、日翔、依頼だ」
短くそう言い、鏡介は二人を見た。
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