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Vanishing Point Re: Birth 第4章

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前回までのあらすじ(クリックタップで展開)

日翔の筋萎縮性側索硬化症ALSが進行し、構音障害が発生。
武陽都ぶようとに移籍してきたうえでもう辞めた方がいいと説得するなぎさだが、日翔はそれでも辞めたくない、と言い張る。
そんな「グリム・リーパー」に武陽都のアライアンスは補充要員を送ると言う。
補充要員として寄こされたのは秋葉原あきはばら 千歳ちとせ
そんな折、辰弥たちの目にALS治療薬開発成功のニュースが飛び込んできた。
近日中に開始するという。その治験に日翔を潜り込ませたく、辰弥と鏡介は奔走する。
その結果、どこかの巨大複合企業メガコープに治療薬の独占販売権を入手させ、その見返りで治験の席を得ることが最短だと判断する。
どのメガコープに取り入るかを考え、以前仕事をした実績もある「サイバボーン・テクノロジー」を選択する辰弥と鏡介。いくつかの依頼を受け、苦戦するものの辰弥のLEBとしての能力で切り抜ける四人。
しかし、辰弥に謎の不調の兆しが見え始めていた。

 

ここ暫く不調の日翔を慮る辰弥と鏡介。
日翔のためにと危険な依頼を受けているが、それでも彼を助けられない可能性について考えてしまう。

 

まだ戦えるという日翔に「もうやめて」という辰弥。
そんな折、アライアンスのまとめ役から「グリム・リーパー」に依頼が持ち掛けられる。

 

千歳を呼んでの食事会をしながら打ち合わせをする「グリム・リーパー」
相手の情報収集能力を危惧し、今から仕事を始める、ということで話はまとまる。

 

 
 

 

 チーム「フィッシュボーン」のセーフハウスは大通りから外れた、人通りもほとんどない路地裏に入り口のあるマンションだった。
 フロントオートロックも実装されていない、古びた建物。
 薄暗い共有スペースを通り抜け、該当の部屋の前に立つ。
 ここ? と辰弥が確認し、鏡介がそうだ、と答える。
 ロックは手の平の静脈認証という少し時代遅れのもの。辰弥がパネルに手を触れた瞬間、鏡介がGNS経由で辰弥の体内電流を介し欺瞞用の波長をセンサーに通し、ロックを解除する。
 カチリ、とロックが解除され、辰弥と千歳が室内に踏み込む。
Bloody BlueBB、調子はどうだ?》
 鏡介の言葉に辰弥が「大丈夫」と答える。
(侵入できた。ただ――人の気配がしない)
 言葉を口に出さず、辰弥が状況を説明、そろそろと暗い室内を進む。
 室内は暗いが夜目は利くので室内を歩くのに苦労することはない。
 千歳も暗視装置を使用し、辰弥について歩いている。
《BBさん、見えるんですか?》
 暗視装置も使用せずすたすたと室内を歩く辰弥に千歳が声をかける。
(え? うん、普通に見えるけど)
 特に意識していなかったが、よくよく考えれば普通の人間なら歩くのに苦労するレベルの暗さである。それを暗視装置もなく歩いているのだから千歳も不思議に思うのだろう。
 実際のところ辰弥には「生物の特性をコピーする」という「原初」のLEBとしての能力がある。研究所時代に実験の一環として様々な生物の血を飲まされた経験もあり、その結果、夜目が利く生物の特性もコピーしてしまっていたのだろう。
 いくつかの部屋を確認し、中に人がいないことを確認する。
 おかしい。この時間帯、誰もが寝静まっているはずなのに誰もいない。
 アライアンスからの情報では今は依頼が入っていない、完全にフリーな状態のはず。
 どういうことだ? まさかこちらの情報が漏れていた? それほど彼らは綿密な情報網を持っている? そんな考えが脳裏を過る。
 しかし、それ以上考えることはできなかった。
 ちりちりと産毛が逆立つような不快感が背筋を走る。
 咄嗟に辰弥は千歳を突き飛ばした。
「きゃっ!?!?
 千歳が声を上げながらも転倒しないように踏みとどまり、即座にデザートホークを構える。
「BBさん!?!?
 その声をかき消すように響く銃声。
 腕を硬質化させて銃弾を弾き、辰弥も後ろに向かって発砲した。
「待ち伏せしてた? こっちの情報漏れてたの!?!?
《バカな、あの打ち合わせからこのタイミングだぞ!?!? 情報が漏れるわけ》
 鏡介も驚愕の声を上げる。万一の盗聴を警戒してオフラインでの打ち合わせを行い、その情報が漏れないように即座に行動したはずなのに何故彼らは待ち伏せしていた?
 そう考えると可能性は僅かしかない。
 そもそも、自宅に盗聴器が仕掛けてあったか「グリム・リーパー」の誰かが情報を漏らしたか。
 しかし、自宅は定期的に盗聴器チェックを行い、クリーンな状態にしている。つい数日前もチェックしたばかりだ。誰かが情報を漏らしたにしても誰もあれから通信した記録がない。
 それとも、チェックが漏れるほど巧妙に隠された盗聴器があったのか、それとも通信ログを残さない秘匿回線を誰かが持っていたのか。
 いや、そもそもグリム・リーパーが暗殺を担当することを知られていなければ諜報を仕掛けることも不可能なはずだ。
 だが、今はそんなことを考えている暇はない。辰弥と千歳は交戦状態に入っている。
 GNSで共有している辰弥の感覚感度を最大に上げ、鏡介が屋内の状況を探る。
《二人か――一人足りない》
 鏡介の言葉が辰弥の聴覚に届く。
「一人足りない!?!? どういうこと」
 どういうこともない、待ち伏せしていたのが恐らくは配下の二人、リーダー格が逃げたのだろう。
 そう遠くへ行っていないはずだが、と言いつつも鏡介が二人をアシストする。
 千歳の銃弾が一人を撃ち抜く。
《一人は殺すな、リーダーの所在くらい知っているはずだ!》
 了解、と辰弥が床を蹴った。
「BBさん!?!?
 千歳が声を上げる。
 いくら何でも無謀すぎる。こちらが現在手にしているのはハンドガン、対して相手はアサルトライフルを手にしている。弾幕を張られれば無傷で済まない。
 しかし辰弥は飛来する銃弾をものともせず風呂場から身を乗り出して射撃するメンバーに突進した。
 全身を硬質化すれば銃弾は豆鉄砲を喰らった程度の痛みしかない。それに辰弥は痛みに対しての耐性が高い。
「こいつ、化け物か!?!?
 確実に銃弾は受けているはずなのに突進してきた辰弥に声を上げたメンバーだったが、直後、殴り倒されて昏倒する。
鏡介Rain、伸したよ」
 涼しげな顔で辰弥が報告する。
「伸したよって……怪我はないんですか!?!?
 千歳が辰弥に駆け寄る。ジャケットもパンツもところどころ被弾しているように見えるが出血しているように見えない。
「え、あ、ああうん、大丈夫」
 手際よく生成した結束バンドでメンバーを拘束し、辰弥がうなじのGNSボードからケーブルを引き出す。
「リーダーの居場所を突き止めるって?」
《ああ、GNS経由ならGPSくらい――》
 鏡介がそう言っている間にも辰弥が意識を失っているメンバーのGNSポートにケーブルを接続する。
 辰弥の視界内でいくつかウィンドウが開き、鏡介が接続を開始した。

 

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