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Vanishing Point Re: Birth 第4章

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前回までのあらすじ(クリックタップで展開)

日翔の筋萎縮性側索硬化症ALSが進行し、構音障害が発生。
武陽都ぶようとに移籍してきたうえでもう辞めた方がいいと説得するなぎさだが、日翔はそれでも辞めたくない、と言い張る。
そんな「グリム・リーパー」に武陽都のアライアンスは補充要員を送ると言う。
補充要員として寄こされたのは秋葉原あきはばら 千歳ちとせ
そんな折、辰弥たちの目にALS治療薬開発成功のニュースが飛び込んできた。
近日中に開始するという。その治験に日翔を潜り込ませたく、辰弥と鏡介は奔走する。
その結果、どこかの巨大複合企業メガコープに治療薬の独占販売権を入手させ、その見返りで治験の席を得ることが最短だと判断する。
どのメガコープに取り入るかを考え、以前仕事をした実績もある「サイバボーン・テクノロジー」を選択する辰弥と鏡介。いくつかの依頼を受け、苦戦するものの辰弥のLEBとしての能力で切り抜ける四人。
しかし、辰弥に謎の不調の兆しが見え始めていた。

 

ここ暫く不調の日翔を慮る辰弥と鏡介。
日翔のためにと危険な依頼を受けているが、それでも彼を助けられない可能性について考えてしまう。

 

まだ戦えるという日翔に「もうやめて」という辰弥。
そんな折、アライアンスのまとめ役から「グリム・リーパー」に依頼が持ち掛けられる。

 

千歳を呼んでの食事会をしながら打ち合わせをする「グリム・リーパー」
相手の情報収集能力を危惧し、今から仕事を始める、ということで話はまとまる。

 

侵入した「フィッシュボーン」の拠点で戦闘する辰弥BB千歳Snow
ターゲットが一人足りないという状況で、拘束した一人のGNSに鏡介Rainが侵入する。

 

 
 

 

 辰弥のGNSを介して鏡介が相手のGNSのストレージにアクセスする。
 単純にリーダーの居場所だけを探るのであればストレージにアクセスする必要はない。連絡先経由でGPSを探ればいい。
 それなのに鏡介がストレージにアクセスしたのには理由があった。
 「フィッシュボーン」がどことつながっているかは突き止めておきたい。
 ストレージに蓄積されたデータの山を掻き分け、連絡先を探す。
 たとえ秘匿通信であったとしても鏡介の手にかかればその相手を突き止めることくらいは造作もない。
 鏡介の眼が一つのメールを捉える。
 それはアライアンスが現在請け負っている依頼の一覧をどこかに転送しているもの。
 転送先を検索する。
 最終的な転送先を欺瞞するかのようにメールは複数のメールサーバに送られ、そこからさらに別のサーバへと転送されているが鏡介はそれをa.n.g.e.l.エンジェルの探索も利用して洗い出す。
 ほとんどのサーバは無関係な人間のGNSやPC等に迷惑メールのような形で転送して終了していた。 だが、よくよく調べると、その無関係の人間、全員が同様のセキュリティソフトを採用しており、そのセキュリティソフトは特定の条件を満たすメールを開発元会社のデータベースに転送しているようだった。
 そんな設定聞いたことがない、とセキュリティソフトの開発元を調べると、そこはとある組織がペーパーカンパニーとして利用していることを以前に調べていた企業だった。
 その組織とは、「カタストロフ」。
 やはり、こいつらは「カタストロフ」とつながっていたのか。
 そのペーパーカンパニーのデータベースを見ると、「フィッシュボーン」が「カタストロフ」に情報を流し、報酬を得て時には妨害工作を、時には他のチームの援護を行っていたことが巧妙に隠蔽されて記録されているのが分かる。
《まだ突き止められないの?》
 辰弥が鏡介を急かしてくる。
 まだ遠くには行っていないはず、という無言の圧力に鏡介は「待て」と答えた。
(詳細な所在地が掴めない。もう少し待ってくれ)
 実際、同時進行でリーダーの所在地を追っているが、大体の位置は掴めど正確な座標が分からない。
 どうやら様々な電波が干渉してGPSに影響しているらしい、そう考えると追跡できたとしても一時的に通信が不安定になるかもしれない。
 なるべく正確な位置が出せるようにと調整をしながらも鏡介はさらにメールを確認した。
 「カタストロフ」は「榎田えのきだ製薬」に協力してALSの治療薬の独占販売権を獲得させようとしている。それについての依頼もいくつか存在し、鏡介はなるほどと呟いた。
 ――アライアンス的には中立だが、「榎田製薬」と「サイバボーン」両方の依頼を受けているということか。
 見ているうちに、先日自分たちが「サイバボーン・テクノロジー」から受けた「カグラ・メディスン」の襲撃についての言及を発見する。
 曰く、その日程で「カタストロフ」本隊からチームを派遣する、とのこと。
 ――そうか、あの時あいつらが割り込んできたのは俺たちが襲撃することを見越してその火事場泥棒を狙ったのか。
 最終的には自分たちが火事場泥棒のような形で離脱することに成功していたから、「カタストロフ」としては痛手だったかもしれない。こればかりはこのチームの情報漏洩に感謝してもいいかもしれない。
 しかし、「フィッシュボーン」と「カタストロフ」のやり取りはこれだけではなかった。
 メールを見ているうちに、鏡介の目が止まる。
「……『カタストロフ』は……LEBの情報を追っている……?」
 メールには「上町府の『グリム・リーパー』がLEBについて何か知っているらしい、最近武陽都に移籍したから監視して随時報告せよ」と記載されている。
 それだけではない、LEB研究のため、御神楽第一研究所の所沢ところざわなる博士を「カタストロフ」に招致したと言う。
 何故だ。何故、「カタストロフ」はLEBを追っている?
 いや、「カタストロフ」がたけるの話でLEBの存在を知り、追い求めているという可能性は辰弥が死んだと思われていた時に聞いていた。
 あの時は、雪啼ノインを引き渡すつもりだったのかと訊いて、「それは要件になかった」と言われていたが、このメールを見る限り、「カタストロフ」がLEBとは何だ、という興味だけで調べているとは思えない。研究所はトクヨンが完膚なきまでに叩き潰している。研究データはどこかに残っているかもしれないが、優秀な研究者がいなければ解読することも作り出すこともできないだろう。
 そう考えると「カタストロフ」はサンプルを欲するはず。いや、辰弥の生存は知らないはずだがトクヨンの管理下に置かれていない、はぐれのLEBがまだ存在すると思っていて、回収しようと考えているのか。
 「カタストロフ」が「グリム・リーパー」に目を付けているのは自分たちが辰弥エルステというLEBを有していたからだろう、と考える。
 猛が雪啼ノインのことを話して、その後辰弥がLEBであるということを漏らしていないとは言い難い。IoLイオルから帰還した時は「辰弥がLEBであるとは察知されていない」と猛が言っていたが、その後情報を漏らした可能性はある。流石に辰弥の生存までは知らなかったとしてもLEBを有していた「グリム・リーパー」のことを黙っているという義理はないだろう。
 恐らく、猛は辰弥のことと「グリム・リーパー」の事を漏らした。裏社会この世界は情報が通貨となるのである、たとえ辰弥の生存を知らなかったとしても「グリム・リーパー」がLEBと関わっていたという話は貴重な情報である。
 だから「カタストロフ」は「グリム・リーパー」を監視対象にした。
 それなら自分たちの行動が「フィッシュボーン」に漏れていてもおかしくないか。
 しかし「カタストロフ」が自分たちを狙っていると考えると、ますます千歳が怪しく見えてくる。
 千歳は「除籍された」と言っているが、本当にそうなのか。
 やはり疑うは千歳ではないのか、そう考える。
 そう考えていると欲が湧いてきて、鏡介は「フィッシュボーン」と千歳のつながりが何かないか探りたくなっていた。時間はないが、少し探してみる価値はあるかもしれない。
 まだかと訊いてくる辰弥を「もう少し待て」と制し、鏡介はストレージの奥へと潜り込んだ。
 隠し事をしたい人間の心理を考え、即座にゴミ箱に入れるか、破棄してはいけないメールの場合フォルダの奥深くにしまい込むだろう、そう判断しゴミ箱の中身を復元する。
 しかし、千歳が送信したという痕跡は見つからない。
 見つけるにしても時間がかかりそうだ、ここはもう離脱した方がいいか、と時計を見て考える。
 痕跡を残さず離脱しようとした時、辰弥があっと声を上げたのが聞こえた。
《意識を取り戻した!?!?
 バカな、という響きが混ざった辰弥の声。同時、鏡介に共有されている辰弥の視界にノイズが走る。
「BB、ケーブルを抜け!」
 咄嗟にキーボードを叩きながら鏡介が指示を飛ばす。
 辰弥が相手のGNSに接続しているケーブルを引き抜くほんの一瞬の時間でウィルスと発火用のコードを送り込む。
 直後、辰弥がケーブルを引き抜き、次の瞬間、相手のGNSに送り込まれたウィルスが発火、GNS構築のために脳内に注入したナノマシンを暴走させ、脳を焼く。
 辰弥の視界内で相手がびくんと一瞬だけ痙攣し、そして絶命する。
「BB、大丈夫か!?!?
 辰弥の視界に一瞬走ったノイズ。GNS接続でセキュリティが反応した時のものだ、と鏡介は判断する。
《ん――大丈夫》
 辰弥もセルフチェックでGNSの診断を行ったのだろう、返事をするが安心はしていられない。
 何かしらのウィルスを送り込まれた可能性も考えられる。遅効性のものだった場合かなり危険である。
 しかし、何故セキュリティが反応した? 鏡介が侵入した時点でセキュリティはすべて無効化している。自動的には反応しないはず。
 いや、手動でセキュリティを起動したのか、と鏡介は考えた。
 今回、相手を昏倒させたところでGNSへの有線接続を行った。相手が素人ならすぐに意識を取り戻すことはなかったかもしれないが、相手も荒事に慣れているのである。その分、気が付くのが早かったのだろう。
 そして、GNSに侵入されていることを察知して手動でセキュリティを起動した。
 遠隔操作している以上鏡介も手動でセキュリティを起動されると反応が遅れる。そうなった際の対処方法は強制的な切断、つまりケーブルを引き抜くことだがそれだと侵入ログが残ってしまう。
 そのため、鏡介はやむを得ず相手の脳を焼くことにした。脳を焼けば焼き方次第では殺せるしGNSのデータを物理的に破壊するので復元することができない。
 とりあえずは、と鏡介も辰弥のGNSの簡易チェックを行い、ウィルスの類が侵入していないことを確認した。とはいえ、あくまでも簡易チェックだから帰還したらすぐにGNSクリニックで精密検査をさせる必要があるが。
《……で、居場所は分かったの?》
「大体の位置は把握した。電波干渉がひどくて詳細な位置までは割り出せなかったが恐らくはここから二ブロック離れた解体中のビル付近に潜伏している」
 鏡介が答えると辰弥が「了解」と頷く。
 視界が動き、辰弥と千歳が移動を開始したのが見える。
 ここからリーダーがいると思しき現場までは少しある。
 少し休憩しよう、と鏡介は椅子に背を預け、息を吐いた。

 

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