Vanishing Point Re: Birth 第7章
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そんな「グリム・リーパー」に武陽都のアライアンスは補充要員を送ると言う。
補充要員として寄こされたのは
そんな折、ALS治療薬開発成功のニュースが飛び込み、治験が開始されるという話に日翔を潜り込ませたく、辰弥と鏡介は奔走する。
その結果、どこかの
どのメガコープに取り入るかを考え、以前仕事をした実績もある「サイバボーン・テクノロジー」を選択する辰弥と鏡介。いくつかの依頼を受け、苦戦するものの辰弥のLEBとしての能力で切り抜ける四人。
不調の兆しを見せ、さらに千歳に「人間ではない」と知られてしまう辰弥。
それでも千歳はそんな辰弥を受け入れ、「カタストロフ」ならより詳しく検査できるかもしれないと誘う。
同時期、ALSが進行した日翔も限界を迎え、これ以上戦わせるわけにはいかないとインナースケルトンの出力を強制的に落とす。
もう戦えないという絶望から自殺を図る日翔に、辰弥は「希望はまだある」と訴える。
そんな中、辰弥の前に死んだと思われていたもう一体のLEB、「ノイン」が姿を現す。
「エルステが食べられてくれるなら主任に話してあきとを助けてもらえるかもしれない」と取引を持ち掛けるノインに、辰弥は答えを出すことができないでいた。
そんな邂逅から暫く、「グリム・リーパー」の拠点が何者かに襲撃される。
撃退するものの、報復の危険性を鑑み、千歳に泊まっていけと指示し、辰弥にその買い出しを依頼する鏡介。
しかし、辰弥が買い出しに行っている間に襲撃者を調査しようとしていた鏡介は「エルステ観察レポート」なるものを発見。こんなものを書けるのは千歳しかいないと彼女を詰める。
帰宅し、二人の口論を目撃し狼狽える辰弥に、鏡介は辰弥の逆鱗に触れる言葉を吐いてしまい、辰弥は千歳を連れて家を飛び出してしまう。
行く当てもない辰弥に、千歳は「カタストロフに行こう」と誘い、辰弥はそれに応じる。
「カタストロフ」で精密な検査を受けた辰弥。
その結果は、「テロメアが人間の寿命の限界まで損傷している」というものだった。
「ん……」
アラームに起こされ、辰弥が薄らと目を開ける。
目を開けると、同時に目を覚ましたのか隣で寝ていた千歳とぱちりと目が合う。
「……おはよ」
辰弥が声をかけると、千歳が嬉しそうに微笑んで辰弥の首に腕を回す。
「おはようございます、辰弥さん」
その、千歳の微笑みが眩しくて、辰弥は彼女を抱きしめ、そっと口付けた。
ん、と千歳が身じろぎし、応じる。
「ゆっくりしたいですけど、この後もまだ検査とかあるんでしょ?」
千歳の声が優しく辰弥に投げかけられる。
「ん……。もうちょっと」
甘えるように千歳に頭を擦り付ける辰弥は先日、「あと数ヶ月も生きられないかもしれない」と言われた時の不安をもう見せていない。
あるいは、自分に残された時間を精一杯楽しもうとしているのだろうか。
一頻り千歳に頭を擦り付けた辰弥が身体を起こす。
それに続いて千歳もシーツを体に巻いて体を起こす。
「千歳はシャワー浴びてきなよ。俺はごはん用意するから」
シャツの袖に腕を通し、辰弥が言う。
分かりました、と千歳がバスルームへと向かう。
それを見送り、辰弥は台所に移動して冷蔵庫を開けた。
前のようにちゃんとした食材が揃っているわけではなく、冷蔵庫の中身は合成食のパウチが大半を占めていたが卵と牛乳だけは比較的安定供給されることもあり、常備できている。
たまたま前日にパンも入手できていたため「パンペルデュでも作るか……」と必要な食材を取り出し、調理台に向かう。
パンペルデュを作っている間に聞こえてくるシャワーの水音に前日のことを思い返しつつ、これからのスケジュールを呼び出し、確認する。
「……もう一回血液検査とCTやって、その後近接戦闘のスキルチェック……」
忙しいな、と呟き、それから「日翔は今どうしてるんだろう」とふと考える。
考えてからぶんぶんと首を振り、雑念を追い払う。
辰弥が「カタストロフ」の上町支部に導かれて数巡が経過した。
彼がLEBであるということと「グリム・リーパー」を飛び出したということを考慮され、本来なら一人一室という割り当てであるはずの住居に千歳と二人で過ごすことを許されている。
「誰かと生活する」ということ自体は日翔に拾われてからずっと彼と過ごしていたので不自由はない。しかし初日に千歳に「同棲するなら同じベッドで寝るのは当たり前でしょ?」と言われたのは驚きだったし新鮮な経験だった。
千歳と一つ屋根の下で生活する。大好きな千歳が目を覚ましたらすぐそばにいる。
それは、辰弥にとって初めて味わう幸せだった。
悪夢を見て魘されたとしても千歳がすぐにあやしてくれる、大丈夫だと支えてくれる、その状況に辰弥はのめり込んでいた。
勿論、家に残してきた日翔のことを思い出し、心配になる瞬間もある。しかし、それすら千歳は「水城さんがいるのでしょう」と優しく諭して不安を吹き飛ばしてしまう。
「心配することは何もない、治験の話が出たらちゃんと天辻さんが受けられるように計らう」と言われ、「今は自分の心を休ませることを優先して」と言われ、今は自分のことに専念している。
焼き上がったパンペルデュを皿に移したタイミングで千歳がバスルームから出て来る。
「ごはん、できたよ」
テーブルに皿を並べ、辰弥が微笑む。
千歳が朝食に目を落とし、それから嬉しそうに笑った。
「今日もおいしそうですね」
ここにある食材だけでよく作れますね、と言われて辰弥がはにかんだ。
「料理には慣れてるから」
ほら、冷める前に食べよう、と促し、辰弥は自分の席に着いた。
日翔や鏡介と生活していた時とは違う、穏やかな時間が流れていく。
ずっとこんな時間を過ごしていたい、と辰弥はふと思った。
そんなことを望んでいいような存在ではなかったが、もし許されるなら千歳と、こんな穏やかな時間を――力尽きるまで。
残された時間がわずかであったとしても、その時までは千歳と二人で幸せに過ごしたい、そう願う。
「あ、もうこんな時間」
食事を終え、食器を食洗器に入れた千歳が時計を見て声を上げる。
辰弥も視界の時計を確認すると予定の時間間近になっている。
「やば、行ってくるよ」
慌ててジャケットに腕を通し、辰弥が玄関に向かう。
「もうちょっとしたら私も出かけますから」
「あれ、なんか予定入ってたっけ」
靴を履きながら千歳に訊くと、彼女はええ、と頷いた。
「
「了解。まぁここでトラブルに巻き込まれることはないと思うけど、気を付けて」
じゃあ、行ってくる、と辰弥は玄関のドアを開けた。
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