Vanishing Point 第8章
分冊版インデックス
惑星「アカシア」
そこで暗殺者として裏社会で生きる「グリム・リーパー」の三人は
ある日、
依頼を受けては完遂していく三人。しかし
警戒はしつつも、雪啼と
その後に受けた依頼で辰弥が
まずいところに喧嘩を売ったと思うもののそれでも依頼を断ることもできず、三人は「サイバボーン・テクノロジー」からの要人護衛の依頼を受けることになる。
しかし、その要人とは
私情を混ぜることなく依頼に当たった三人だが、最終日に襲撃に遭い、シェルターにしていたセキュリティホテルを離脱することになる。
武器持ち込み禁止のホテルで武器を取り出し、日翔にも手渡す辰弥。疑問に思う間もなく離脱を図る面々だったが、真奈美を庇い鏡介が撃たれてしまう。
だが、その時に鏡介から流れた血は義体特有の
それでも逃げ切り、闇
同時に明らかになる鏡介の過去。スラムで壮絶な幼少期を送りつつも生き延びた彼は真奈美ではなく、「グリム・リーパー」を自分の居場所として選択する。
帰宅してから今回の依頼についての反省会を行う三人。
辰弥が武器を持ち込んだことについて言及されたタイミングで、御神楽
「それは貴方が
「それは貴方が
逃げ出した
自身の能力で作り出した武器を手に、辰弥は迷いつつも久遠に抵抗する。
両手に意識を集中させる。
脳から脊髄に信号が伝わり、その信号が身体中に命令を下す。
作り出せと。
全身に神経のように張り巡らされたLEB特有の造鋼器官が血液を変質させていく。
変質させた血液は両手に集中し、そして辰弥はそれを解き放った。
無数のピアノ線が射出される。
射出されたピアノ線は周りに無造作に置かれていた工事資材の入った木箱を打ち砕き、久遠ですらも粉々にしようと襲いかかる。
ピアノ線が久遠に届く。
ピアノ線が久遠に絡みつく。
だが、辰弥のその
防弾性能の高い素材で作られた久遠の四肢はピアノ線程度で打ち砕くことができず、ただ絡みつくだけで止まってしまう。
「ふん、」
腕に絡みついたピアノ線を久遠が軽く力を込めて引く。
久遠にとっては「軽い」力の行使だったが辰弥をよろめかせるには十分な力だった。
バランスを崩した辰弥がたたらを踏む。
一歩、久遠に向かってよろめいたところを彼女が片手を突き出す。
その手から衝撃波が放たれる。
「っ!」
隙だらけになった辰弥だったが、その衝撃波はもう一歩久遠に踏み出しつつも身を捻って回避する。
「まだまだぁっ!」
再度辰弥が意識を集中させる。
体勢を立て直しつつも久遠に肉薄、その手に考えつく限り最高の硬度を持つ超硬合金でできたナイフを生成、彼女の首を狙う。
――いくら義体であっても、首を落とせば――!
超硬合金のナイフを選択したのは先ほどの陽動で作った金属製のナイフを久遠のナイフが切断したから。
金属が金属をいとも容易く切断するとは思えないが、流石に超硬合金製のナイフを切断することなどあってはたまらない。
しかし、それでも。
辰弥の目が自分のナイフに食い込む久遠のナイフを捉えた。
久遠のナイフは辰弥が作り出した超硬合金のナイフをバターだと言わんばかりの滑らかさで切断し、刃先ははるか上空へと弾け飛ぶ。
そこで辰弥は漸く理解した。
超硬合金ですら切り裂く性能を持つナイフ。
世界で一番硬い物質でナイフを作ったとしても、そのナイフがあらゆるものを切り裂くことができるわけではない。
それでも、あらゆるものを切り裂くことができるものは一つある。
それはその物質を構成する分子の結合そのものを分離してしまう、分子一つ分の極々薄い分子の刃――。
――単分子ナイフ!
分子と分子の結合を断たれてしまえばどんなものでも切り離されてしまう。
金のある組織はそんなものですら標準装備なのかと、絶望の色が辰弥に浮かぶ。
――いや、まだだ――!
久遠は辰弥のナイフを切り捨てた状態でモーション自体は終わっている。
しかし辰弥の腕はまだ久遠の首筋を捉えたまま。
もう一度ナイフを生成すれば、久遠が腕を引き戻すモーションの間に首を掻き切ることができる、そう判断する。
辰弥の手に再びナイフが出現する。
ナイフはまっすぐ久遠の首筋を狙う。
辰弥と久遠の視線が交差する。
しかし、刺し違え覚悟の決死の形相の辰弥とは真逆に、久遠は余裕の笑みすら浮かべていた。
「その程度?」と久遠の唇が動く。
次の瞬間、離れたところで一発の銃声が響き、直後、辰弥の体が硬直した。
全身を駆け巡る高圧電流。
高圧電流によって全身の筋肉が強制的に収縮させられ、激痛となって辰弥を襲う。
「ぐ――っ!」
狙撃か、と思うものの撃ち込まれた弾丸はそれ自体がスタンガンのように電撃を発している。
こんな弾は知らない、カグコンの特製なのかと考えるものの喰らってからでは対処することができない。
ナイフは久遠を捉えることができず、彼女は一歩後ろへ跳躍する。
そして、辰弥に向けて再び手のひらを突き出した。
久遠から放たれた衝撃波が辰弥に直撃する。
衝撃波に軽く弾き飛ばされ、辰弥の体が地面に叩きつけられた。
「く……そ……っ!」
電撃によって麻痺した全身に鞭打ちそれでも辰弥は立ちあがろうとする。
だが、だが、駆け寄ってきた久遠に頭を掴まれ、うなじのGNS制御ボードのスロットに小型の端末を接続されてしまう。
視界に映り込む全てのGNS情報が沈黙し、同時に全身への力の伝達が遮断される。
全てのUIが沈黙した視界の中で、唯一【Locked】という文字だけが赤く浮かび上がっている。
「……あ……ぅ……」
力のない辰弥の声が口から漏れる。
「危なかったな、久遠」
動けなくなった辰弥の頭から久遠が手を離したタイミングでティルトジェット機の轟音と共に何者か――
「あら、言うほどピンチでもなかったわよ」
辰弥を見下ろし、久遠が男にそう言う。
「本当はブースターで避けられたんだけどね、ちょっと面白くてついギリギリまで様子見ちゃった。それに貴方がこういう時にちゃんと狙撃してくれるかどうかも気になってたしね」
「言ってくれるな。そういうところだぞ」
久遠の隣に立ち、男がたしなめるように言う。
そこで辰弥の記憶が蘇る。
これと同じ構図の状況に、以前遭遇していたような――。
あの時のあの二人はこの二人だったのか。
「とりあえず基地に連れて行こう。調べることは色々ある」
男の言葉に久遠が頷く。
「そうね、いくらGNSロックで動きを封じたとしても絶対じゃない。ここまで抵抗するなら動けた場合大変よ、拘束しておきましょう。ウォーラス、一応鎮静剤打っといて」
久遠に指示され、ウォーラスと呼ばれた男はポーチから注射ケースを取り出し中から注射器を取り出した。
辰弥の首筋に針が突き立てられ、薬液が投与される。
その薬液の冷たさにかつて実験のために投与された薬物のことを思い出し辰弥が目を見開く。しかし打ち込まれた鎮静剤は即効性のものだったのかすぐに意識が混濁し始める。
(まず、い……)
少しでも意識を保ち、脱出する機会をと考える辰弥だったが電撃を受けた身体は麻痺しており、さらに
(く、そ……)
闇が意識を引きずり込もうとするかのようにその手を伸ばす。
一切の抵抗をすることもできないまま、辰弥の意識は闇に呑まれていった。
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