Vanishing Point 第8章
分冊版インデックス
惑星「アカシア」
そこで暗殺者として裏社会で生きる「グリム・リーパー」の三人は
ある日、
依頼を受けては完遂していく三人。しかし
警戒はしつつも、雪啼と
その後に受けた依頼で辰弥が
まずいところに喧嘩を売ったと思うもののそれでも依頼を断ることもできず、三人は「サイバボーン・テクノロジー」からの要人護衛の依頼を受けることになる。
しかし、その要人とは
私情を混ぜることなく依頼に当たった三人だが、最終日に襲撃に遭い、シェルターにしていたセキュリティホテルを離脱することになる。
武器持ち込み禁止のホテルで武器を取り出し、日翔にも手渡す辰弥。疑問に思う間もなく離脱を図る面々だったが、真奈美を庇い鏡介が撃たれてしまう。
だが、その時に鏡介から流れた血は義体特有の
それでも逃げ切り、闇
同時に明らかになる鏡介の過去。スラムで壮絶な幼少期を送りつつも生き延びた彼は真奈美ではなく、「グリム・リーパー」を自分の居場所として選択する。
帰宅してから今回の依頼についての反省会を行う三人。
辰弥が武器を持ち込んだことについて言及されたタイミングで、御神楽
「それは貴方が
「それは貴方が
逃げ出した
自身の能力で作り出した武器を手に、辰弥は迷いつつも久遠に抵抗する。
いかなる攻撃も
刺し違え覚悟の攻撃も届かず、
最悪の事態を考えた
辰弥が何かを話したそうにしていたことはある。だが、結局彼は何も言えずにいた。
――もし、辰弥が言ってたら。
何かが変わったのだろうか。
いや、変わらないはずがない。
「人間ではない」と告白されて、どう接すればいいか分からなくなる。
実際、どうしていいか分からない。
もし辰弥が戻ってくることがあったとして、今まで通りに接することができるのかと。
辰弥ですら日翔がALSと知ってからなるべく変わらず接しようとしてそれでも態度を変えたのだ。それ以上に重い過去を背負う彼を今まで通りに接することなどできるはずがない。
「苦しい思いしてたんだろ、無理すんな」と依頼から外して普通に生きろと言うに違いない、と日翔は思った。
だが、そこまで思ってからふと違和感に気づく。
――何も言えずにいた?
つまり、それは全て初めから憶えていたということではないのか?
「……なあ、鏡介……」
日翔が鏡介に声をかける。
ちょうど鏡介もその可能性に思い至っていたのだろう、まさかな、と低く呟く。
「……日翔、辰弥は『何も憶えていない』と言っていたよな」
「ああ、それ、俺も言おうと思ってた」
「……あいつは、自分が人間ではないと分かっていて、それで俺たちに嘘を吐いていたのか?」
嘘。確かに嘘だ。
今思えば違和感も多分にあった。
何も憶えていない割には何かを知っているそぶりも見せたし何かを言おうとして言わなかった時もあった。
それは、辰弥も隠し続けていることを心苦しく思っていて伝えようとしていたのではないのか、と、そんな気すらしてくる。
本当は辰弥は伝えたかったのではないのか、「自分は人間ではない」ということを。
その上で、「それでも見捨てないでくれ」と言いたかったのではないか、と。
そう考えると、ますます辰弥をカグラ・コントラクターの手から助け出さなければという気持ちが芽生えてくる。
戦力の問題はこの際どうでもいい。ただ、辰弥にこれ以上辛い思いをさせたくない。
あれは実験体としての記憶がフラッシュバックしての硬直だったのだと今なら分かる。
そんな思いをさせてまで辰弥を殺しの世界に置いておきたくない。
もし、許されるならごくごく普通の一般人として生活を送らせてやりたい、そう思ってしまう。
「……鏡介、」
ふと、鏡介に声をかける。
鏡介がハッキングの手を止めることなく日翔を見る。
「……もし、辰弥が戻ってきたらどうする」
「そんなIfを聞くな」
鏡介が即答する。
「俺たちが何かアクションをしない限りあいつが戻ってくることはない。どうするかはお前が考えろ」
そう言ってから、鏡介は視界に映るホロキーボードのエンターキーを叩いた。
「ビンゴ。と言いたいがあまり重要な情報はないな。LEBについての詳細はやはりトクヨンの
まぁ、「世界平和」を謳う御神楽も一枚岩じゃないだろうしその社是に反する研究くらいするんだろうなと鏡介はさらに続ける。
「一応、『LEB』というキーワードでも調べてみるか。レポートなんかは多分ツリガネソウ内部だろうが何かはヒットするだろう」
そう言って、鏡介はテーブルに置かれたコーヒーを手に取った。
一口飲んでその不味さに顔をしかめる。
「もっとうまく淹れられないのかよ」
「すまん、いつもは辰弥任せだったから」
そんなやり取りを交えつつ、鏡介がLEBに関しての情報を集める。
「……なるほど」
数分後、鏡介が肩を回しながら呟いた。
「細かい仕様とかは全てツリガネソウ内部だろうが大まかなことは分かった」
「何なんだ、LEBって」
日翔が姿勢を正す。
「まあ、概ね御神楽 久遠が話していたがLEBとは『Local Eraser Biowepon』の略、局地消去型生物兵器のことらしい」
「きょくちしょうきょがたせいぶつへいき?」
俺バカだからよく分からんわー、と日翔が鏡介の解説を待つ。
「まぁ、戦場に放り込んで『なかったこと』にするという感じじゃないか? とにかく、性能としては自分の血肉から弾丸を作り出して無限に戦える生物、ということらしい」
「つまり、武器の弾丸が無限になるってことか?」
日翔の言葉にそんなところだろう、と返し鏡介はさらに目を走らせてデータを読む。
「体内の血液量に上限があるからそれが継戦能力になるんだろうが弾が足りなくなっても自分の血で補うことができる。いや――」
そこまで言ってから鏡介がそうか、と呟く。
「武器が生成できるから丸腰で敵地に潜入して戦況をひっくり返すことができる」
「丸腰で潜入して――あっ」
鏡介の言葉を繰り返した日翔があっと声を上げる。
直近で心当たりが一つある。
あの木更津 真奈美の護衛依頼、あの時、ホテル内部には一切の武器の持ち込みが禁じられていた。
当然「グリム・リーパー」の三人も丸腰で護衛に当たり、そして襲撃に際に日翔は辰弥から銃を受け取った。
それが、辰弥の能力による武器生成によるものだった、ということを日翔は漸く理解した。
作ることができるのはナイフやピアノ線といった単純なものだけだと思っていただけに驚きが隠せない。
「銃まで作れんのかよ」
「内部構造の知識さえあれば作れるんじゃないか? とにかく御神楽はそんな物騒なものを開発していた」
「……で、それをトクヨンがぶっ潰したってことか」
研究を潰したのならこれ以上危険な奴は出てこないのか、と日翔は考えたものの、一筋縄ではいかないような気もする。
何故か覚える違和感、それが何かが分からない。
「……しかし、御神楽 久遠は『永江博士が研究を復活させた』と言っていた」
「そういや、そんなこと言ってたな……」
日翔もそれは覚えていた。久遠は確かに「永江博士が研究を復活させた」と発言していた、それを考えると。
「……まさか、御神楽が永江博士を保護したって言うのは――」
「ああ、多分LEBの研究をしていたことを突き止めてその研究を潰したんだろう。その際に生体義体の開発を条件に御神楽に取り込んだ、大方そんなところじゃないか」
以前見たニュースを思い出す。
永江 晃はテログループ「クマガリ」から保護されて御神楽の客員研究員として生体義体の開発を行うことになった、と報道では言われている。
しかしその実態はLEBの研究再開による粛清。
遺伝子工学の第一人者であるということは当然主任研究員あたりだったのだろう、だから生かされた。
もしかすると生体義体の開発も御神楽によるカバーストーリーなのかもしれない。
そこで鏡介は「違う」と考え直した。
昔ハッカー仲間から聞いた記憶がある。
テロ組織「クマガリ」なんてものは存在しない、あれは「MIKAGURA」の
――俺としたことが!
それさえ分かっていれば、もっと早く、あの報道の時点でもっと何かを探れたかもしれない。
その話を忘れていたことに苛立ちを覚えつつ、鏡介はさらに考えた。
研究所で開発された他のLEBが殺されたか確保されたかは分からない。
だが、少なくとも御神楽は、いや、トクヨンは永江 晃が今後LEBを開発しないように首輪をつけた。
その上で辰弥を捕獲したということはやはり、最終的に彼は。
「……色々調べられた上に殺すつもりじゃ」
そう、呟いた日翔の声が震えている。
分からん、と鏡介も呟いた。
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