Vanishing Point 第6章
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惑星「アカシア」
そこで暗殺者として裏社会で生きる「グリム・リーパー」の三人は
ある日、
依頼を受けては完遂していく三人。しかし
そんな折、
チケットを譲り受けた辰弥は雪啼を連れて遊びに行くが、それは日翔が自分の
普段の怪力はそのALSの対症療法としてひそかに導入していた
突如乱入してきたカグラ・コントラクター特殊第四部隊隊長の
第6章 「Resemblance Point -類似点-」
《――一昨日未明、爆発炎上した
相変わらず日翔が
辰弥が、何度注意しても日翔がやめないためやや諦めモードで食事を済ませ、皿をシンクに運ぶ。
「パパー、このお肉、おいしい」
まだ食べ終わっていない雪啼がフォークで皿の肉を刺しながら言う。
「そりゃ、
今回の夕食は
雪啼は痩せ細っているように見えるが食欲は旺盛で、時には辰弥が自分の分を分け与えることさえある。
「確かに、今日の肉は特にうまかったな。やっぱり桜牛だからか?」
「普通に焼くより炙りにした方が美味しそうだったからね」
皿を洗い始めながら辰弥が「生で食べたかった……」などと呟いているが日翔は聞かないふりをした。
「お肉って、あぶるとおいしいんだ!」
雪啼が最後の一切れ口に運び、「あぶったお肉おいしいー!」と声を上げる。
喜んでいるならよかった、と辰弥は一度手を止め、雪啼の前の皿を回収する。
「でもとんでもないカバーストーリーを展開したものだよね」
ニュースの話題に戻り、辰弥が日翔に言う。
「まぁ、
辰弥が目の前の皿を回収するのを横目で眺めながら日翔がぼやく。
「でも、なんでカグコンが依頼もなしに介入したんだろう」
「ほんと、技術を取り入れたいだけなら買収するだけでいいはずだもんな。俺、バカだからよく分かんねえけどさ、わざわざ武力介入する理由が分からねえ」
そこまで言ってから、日翔はCCTをポケットに戻して辰弥に視線を投げた。
「で、体調は大丈夫か?」
「ん? あ、ああもう大丈夫」
一度は意識を失ったからと無理やり二単位の輸血をされたから充分回復している。
首のあざは少々残っているものの、引っ掻いた痕は目立たない。
まぁ、大丈夫ならいいんだがとそのまま日翔が辰弥を見ていると、雪啼が椅子から降りて辰弥に駆け寄っていく。
「パパー、あそんでー」
そう言いながら、雪啼が辰弥のジーンズに取り付き、器用によじ登り始める。
「あ、こら邪魔しないで」
洗い物の手を止めず辰弥がそう言うものの、雪啼はまるで子猫のように辰弥の身体をよじ登り首に抱き着いた。
……と、雪啼の足が滑り辰弥の首に腕をかけたままぶら下がった状態になる。
「ぐぇっ」
辰弥の喉から変な声が上がった。
(まず……、息が……)
雪啼の腕が絶妙に気道に食い込み、息ができない。
「雪啼、元気だなぁ」
日翔がそう呟き、微笑ましく眺めている。
(違う、そうじゃない!)
じゃれてんなぁ、という表情の日翔に対し、辰弥は必死の形相で背中の雪啼を指さした。
「辰弥!?!?」
ようやく事態を理解した日翔が、がたん、と椅子を蹴り、二人に駆け寄って雪啼を抱きかかえる。
「大丈夫か!?!?」
雪啼を引きはがしたことで圧迫された気道が解放され、辰弥が喉を押さえて咳き込んだ。
あの
雪啼はただじゃれついただけだが、それが命取りになっては元も子もない。
いくら他意はなくともこんなことで何か取り返しのつかないことになれば、雪啼にとってそれは大きなトラウマになりかねない、少なくとも辰弥はそう思っていた。
子供が相手であっても油断してはいけない、そう思って辰弥は日翔に抱きかかえられて「あきと、じゃまー」と暴れる雪啼に目線を合わせた。
「……雪啼、」
辰弥の声に、雪啼が動きを止めて彼を見る。
「危ないことはしちゃだめ。君が大丈夫でも、他の人が危ないことになるのもだめ」
「んー?」
雪啼が首をかしげる。
まぁ、善悪の判断はできないのか、と思いつつも辰弥はさらに続ける。
「人によじ登っちゃダメ。今みたいにパパの首絞めたり、転んで二人とも怪我するかもしれないからね」
「……むぅ」
少々
そして、
「だったらパパ遊んで」
そう、声を上げた。
それは勿論、と辰弥が頷く。
「でも、洗い物終わってからね」
とにかく先に片づけてから遊びたいの、と訴えかける辰弥に、雪啼は、
「むぅ、」
再びそう声を上げて、辰弥の足にしがみつき、登り始めた。
「だからよじ登っちゃダメってって言ってるよね!?!?」
また首を絞められたら大変だ、と辰弥が雪啼を引きはがそうとする。
が、雪啼は雪啼で器用に辰弥の身体をよじ登って彼の手をかわし、ほんの少しの間激しい攻防が繰り広げられる。
「あーはいはい、そこまでにしときなー」
はじめは微笑ましく二人を眺めていた日翔だったが、すぐに手を伸ばして雪啼を捕まえる。
「あきと、じゃまー!」
ぶんぶんと両腕両足を振り回して雪啼が暴れるが、
すぐに首根っこを掴まれ、床に下ろされてしまう。
「むぅ~……」
頬を膨らませてムスっとする雪啼。
それには構わず、日翔は
「辰弥の用事が終わるまでは一緒に遊ぼうか、雪啼」
以前鏡介に言われて用意した猫じゃらしをどこからともなく取り出し、雪啼の目の前で振り始めた。
「! にゃー!」
日翔の手の動きに合わせて揺れる猫じゃらしの先端の羽根に目の色を変えて雪啼が飛びつく。
「……マジで、猫みたいな子だな……」
雪啼の意識が猫じゃらしに向いたことで、辰弥はほっとして皿洗いに戻った。
全ての皿を洗い、シンク回りを全て磨き上げ、麦茶を飲んでから雪啼と遊ぶかと辰弥が自分のマグカップを手に取る。
そのタイミングで、視界にグループ通話のアイコンが表示された。
「んあ? おい辰弥、鏡介からグループ通話だ」
猫じゃらしを止めた日翔が雪啼を抱きかかえる。
「雪啼、悪いがちょっと一人で遊んでてくれ」
「えー……」
不満げな雪啼だったが、日翔と辰弥の様子に何かを察したかのように渋々自室に連行されていく。
彼女を部屋に放り込んでドアを閉めた日翔がCCTの通話ボタンをタップする。
辰弥も頷いて視界に映る通話ボタンをタップした。
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