Vanishing Point 第6章
分冊版インデックス
6-1 6-2 6-3 6-4 6-5 6-6 6-7 6-8
惑星「アカシア」
そこで暗殺者として裏社会で生きる「グリム・リーパー」の三人は
ある日、
依頼を受けては完遂していく三人。しかし
そんな折、
チケットを譲り受けた辰弥は雪啼を連れて遊びに行くが、それは日翔が自分の
普段の怪力はそのALSの対症療法としてひそかに導入していた
突如乱入してきたカグラ・コントラクター特殊第四部隊隊長の
前回の依頼から数日、いつものように料理をしている
微笑ましく見守っていたりした
その結果、「
その際に
通話が終わり、
しかし雪啼はカッターナイフで遊んでおり、それを止めようとした辰弥は彼女を傷つけてしまう。
その血を舐め、さらに血が欲しいという衝動に駆られる辰弥。それは抑えたものの雪啼を怯えさせてしまう。
騒ぎに
フルダイブVRシミュレーションでトレーニングを行う
そこへ
ある日流れた吸血殺人のニュースについで話していると、
気を付けないとと話しているところへ
「……打ち合わせ、するか」
そうだな、と日翔も頷き、茜も含めての打ち合わせを開始する。
鏡介がこの場にいてPCを利用できないため、辰弥が代表でうなじのメモリスロットにデータチップを差し込む。
視界に表示されたデータをその場のメンバーに共有し、彼は口を開いた。
「今回の依頼は要人護衛、とのことだけどクライアントは『サイバボーン・テクノロジー』。今まで散々破壊行為してきた相手の護衛になるね」
「マジか、俺たちが色々やったのバレたら後で消されないか?」
日翔がぼやくが、辰弥は「さあね」とだけ答えて話を続ける。
「『サイバボーン』のCEO直下の重役がどこか分からないけどライバル企業から名指しで殺害予告が入ったから護衛してほしいとのこと。既に何度か攻撃された上に直属のSPも買収されていたとかで『サイバボーン』内部の人間は信用できないらしい」
「殺害予告の内容としては『十巡以内に必ず殺す。もし殺せなかった場合はそちらのプロジェクト続行を認める』というものか。で、既に二巡が経過、明日から期日までの七巡守り切れってことか」
辰弥の言葉を引き継ぎ、鏡介も依頼の内容を読み上げる。
「護衛対象は重役の
護衛対象の項目を確認した辰弥がメンバーに写真を含めたプロフィールを転送する。
「へえ、女性でもここまで上り詰めることできるんだ。相当なやり手だったのかな」
視界に表示された女性のバストアップ写真に辰弥が感心したように声を上げた。
そこまで若々しくはないが、それでも辰弥たちの健康を管理してくれる
枕営業でもしたのかと一瞬思いたくなるが枕営業程度でCEOの右腕クラスの重役が務まるわけがない。
日翔は「美人さんだなあ」と食い気味に眺めているが辰弥はさして興味もないといった様子で写真からはさっさと視線を外して各種データを確認している。
「『サイバボーン』の重要機密を握っているから殺す、ってのもよく分からないけどこの人が殺害予告で言及されていたプロジェクトの鍵ってことかな。現在は『サイバボーン』の系列のセキュリティホテルに避難中、でも誰が買収されてるか分からないからアライアンスに金を積んで護衛を依頼した、と……。鏡介?」
護衛対象の確認を行なっていた辰弥が、不意に鏡介に声をかけた。
辰弥の言葉に日翔もえっ、と声をあげて鏡介を見る。
「……あ……」
鏡介の口から乾いた声が漏れる。
「鏡介?」
辰弥が再び声をかけると、鏡介は我に返ったように視線を辰弥に向ける。
「どうしたの鏡介。知り合い?」
鏡介の反応は、まるで護衛対象を知っているかのようだった。
「……いや、知らない」
昔会った人に似てた気がしたが気のせいだった、と鏡介が否定する。
「とにかく、こいつを一週間護衛するということか」
「そうだね。姉崎が雪啼を預かってくれるし、俺たちも護衛対象が避難しているホテルに詰めることになる」
そうか、と鏡介が頷いた。
「まぁ配置としてはいつも通り俺と日翔がホテルで八時間体制で監視、鏡介はホテルの防犯システム乗っ取って遠隔で援護、になるかな」
「いや、辰弥、俺も連れて行け」
辰弥の提案を鏡介が拒絶する。
「え?」
突然の鏡介の言葉に、辰弥は驚いたように声をあげた。
いつもなら「分かった、後方支援は任せろ」と言う鏡介が「俺も連れて行け」とは。
知らない、とは言っていたが、実は鏡介の知り合いなのか、と辰弥は考えた。
そんな辰弥の言葉にお構いなく鏡介が話を続ける。
「流石に八時間体制二十一日は俺が死ぬ。俺も現場に入って交代で護衛しよう。三人いれば休息も取りやすくなるから万全の体制で護衛できる」
「確かに」
人数多い方が楽だわーと日翔が同意する。
「……まあ、確かに」
鏡介の言葉はもっともだ。辰弥の提案が通っていれば辰弥と日翔の二人で交代するにしても手薄になる時間はどうしても発生するし鏡介に至っては休息すら取れない。
いくら鏡介が「人を殺せない」としても「人を守る」ことができないわけではない。最低限の護身術は身につけているのだから仮に襲撃を受けたとしても護衛対象を守って逃げるくらいはできるだろう。
それなら三人で現場に詰めて最低でも常に二人が待機できる状況にすれば守りはより万全なものになるだろう。
分かった、と辰弥が頷いた。
「それじゃ、三人で現場に入ろう。ちなみに現場のセキュリティホテルは武器の持ち込み一切禁止。入館前に金属探知機によるチェックは入るし手荷物も全て確認される。日翔はインナースケルトンの出力で普段と変わらないから何かあった時の最大戦力は君になるよ?」
「わーってるよ。何かあったら俺に任せとけ」
そう、胸を叩いて見せる日翔に辰弥が複雑な面持ちを見せる。
せめて、何事もなく一週間を終えることができればいいけど、と辰弥は思った。
それだけではなく、鏡介のことも気になる。
鏡介の「知らない」は嘘だ、と直感が告げている。
鏡介はこの護衛対象を知っている。知っていて、何かしらの感情を抱えている。
その感情が何かはわからない。
しかしそれを深く詮索するのはよくない、黙っておこうと辰弥が思っていると。
「だけどよー、やっぱ腑に落ちねえわ」
不意に、日翔がそう言い出した。
「どうしたの?」
もう確認することは確認したと思うけど、と辰弥が日翔を見る。
「いや、俺バカからよく分かんねえけど分かる時はわかるんだよ。鏡介、お前やっぱ何か隠してるだろ」
「いや、別に俺は」
隠し事を否定する鏡介に、何故か辰弥がぎくりとする。
日翔、勘だけはいいからなと思いつつも辰弥が様子を伺っていると日翔がさらに口を開く。
「プライベートで隠し事するのは仕方ないにしても依頼がらみで隠し事されると信用ならねえんだよ。俺たち、仲間だろ。依頼で何かあるなら教えろよ」
日翔の「仲間だろ」に再びぎくりとする辰弥。
確かに、俺たちは「仲間」だろう、と自分に言い聞かせるもそれでも言えないことはある。
鏡介もそうじゃないのかと思うが日翔の言う通り、依頼がらみのことで隠し事をされた場合何かあった時言い逃れができない。
「俺は、別に……」
「言えよ鏡介。依頼に集中できねえ」
いつになく強い口調で日翔は鏡介を問い詰めた。
鏡介が唇を噛み締め、それから観念したように口を開く。
「……俺のプライベートにも関わってくる話だから話したくないんだよ」
「どういうこと」
思わず、辰弥も口を挟む。
プライベートに関わること、「知らない」と言いつつも明らかに知っている様子の護衛対象。
まさか、という思いが辰弥の胸を過ぎる。
――まさか、護衛対象は――。
「……木更津 真奈美は……。俺の、母親だ。多分」
「な――」
日翔が声にならない声を上げる。
辰弥も「やっぱり」と言いたげに鏡介を見る。
自分の母親かもしれないから、一緒に護衛すると言ったのか、という考えが辰弥の脳裏に浮かぶ。
同時に、これ以上は詮索してはいけないとも感じる。
鏡介の苗字は「水城」である。「木更津」ではない。
再婚か何かで改姓したのかそれとも鏡介の本名が木更津姓なのかは今はどうでもいい。
もっと具体的に話を聞きたいがそこまで詮索すると依頼の範疇を超えてプライベートにまで踏み込んでしまう。
とりあえず、今は護衛対象がどうやら鏡介の母親らしい、という程度で留めておいた方がいい、と辰弥は判断した。
日翔が「もっと詳しく話せ」と鏡介に詰め寄っているがそれを制止し、「とりあえず」と続ける。
「護衛対象は鏡介の母親かも、ってことは頭に入れておくよ。ますます失敗できないしね」
「辰弥……」
深く詮索しようとしない辰弥に鏡介が少しホッとしたように彼の名を呼ぶ。
「だけど、鏡介も無茶はしないで。仮に母親であったとしても、相手は依頼で守るだけの護衛対象、余計な私情は挟まないで」
それはそうだ、と鏡介は思った。
母親だからと変に力んでもいけないし、それに。
「分かっている。別に母親に対して特別な感情を持っているわけでもない」
ただ、驚いただけだ。
もう何年も会っていない母親が突然現れただけだ。
大丈夫だ、と鏡介はそう言い切った。
そう、と辰弥が頷く。
今回の依頼はいつにも増して大変なものになるかもしれない。
そんな予感めいたものが辰弥の胸を過ぎる。
だが、鏡介の私情で依頼を失敗するわけにはいかない。
日翔にも、鏡介にもいつも以上に目を配らなければいけない。
大変な一週間になるな、辰弥はそう、覚悟した。
to be continued……
おまけ
ばにしんぐ☆ぽいんと 第6章 「かくし☆ぽいんと」
「Vanishing Point 第6章」のあとがきを
以下で楽しむ(有料)ことができます。
FANBOX
OFUSE
クロスフォリオ
「いいね」と思ったらtweet! そのままのツイートでもするとしないでは作者のやる気に大きな差が出ます。