縦書き
行開け

Vanishing Point 第6章

分冊版インデックス

6-1 6-2 6-3 6-4 6-5 6-6 6-7 6-8

 


 

前ページまでのあらすじ(クリックタップで展開)

 惑星「アカシア」桜花国おうかこく上町府うえまちふのとある街。
 そこで暗殺者として裏社会で生きる「グリム・リーパー」の三人は暗殺連盟アライアンスから依頼を受けて各種仕事をこなしていた。
 ある日、辰弥たつやは自宅マンションのエントランスで白い少女を拾い、「雪啼せつな」と名付けて一時的に保護することになる。
 依頼を受けては完遂していく三人。しかし巨大複合企業メガコープの抗争に巻き込まれ、報復の危機を覚えることになる。
 そんな折、日翔あきとが福引でエターナルスタジオ桜花ESOのペアチケットを当ててくる。
 チケットを譲り受けた辰弥は雪啼を連れて遊びに行くが、それは日翔が自分の筋萎縮性側索硬化症ALSの診察を密かに受けるために仕組んでいたことが発覚してしまう。
 普段の怪力はそのALSの対症療法としてひそかに導入していた強化内骨格インナースケルトンによるもの。今後の日翔の身の振りを考えつつ、次の依頼を彼の後方に据えて辰弥一人で侵入するもののそこに現れた電脳狂人フェアリュクターに襲われ、後れを取ってしまう。
 突如乱入してきたカグラ・コントラクター特殊第四部隊隊長の御神楽みかぐら 久遠くおんを利用して離脱するものの、御神楽財閥の介入に驚きと疑念を隠せない三人であった。

 

 前回の依頼から数日、いつものように料理をしている辰弥たつや雪啼せつながじゃれつく。
 微笑ましく見守っていたりした日翔あきとだったが、鏡介きょうすけからグループ通話の通知が入ってくる。

 鏡介きょうすけはあの以来の途中で「カグラ・コントラクター」が介入したことに疑問を持ち、調査していた。
 その結果、「御神楽みかぐら財閥」が「荒巻あらまき製作所」を直前に買収していたことを突き止める。
 その際に特殊第四部隊トクヨンが「『ノイン』に関する情報を入手したら報告するように」と他の舞台に通達していたことを知り、何かを探しているらしいという情報を得る。

 通話が終わり、雪啼せつなと遊ぼうと部屋に行く辰弥たつや
 しかし雪啼はカッターナイフで遊んでおり、それを止めようとした辰弥は彼女を傷つけてしまう。
 その血を舐め、さらに血が欲しいという衝動に駆られる辰弥。それは抑えたものの雪啼を怯えさせてしまう。

 

「あきと、パパこわい」
「辰弥が……?」
 どういうことだと訝しんで辰弥を見る日翔。
 その辰弥の手に刃が剥き出しになったカッターナイフが握られているのを見て顔色を変える。
「辰弥! お前、何を!」
「違う。雪啼が刃物で遊んでたから取り上げただけ」
 ドアを開け放し、雪啼を抱えて乗り込もうとする日翔に辰弥が慌てて言い訳をする。
「雪啼がカッターナイフでソフビ人形をばらばらにして遊んでたんだ、危ないから……」
 カッターナイフの刃を収納し、辰弥が日翔に見せつけるように手渡す。
「なんで雪啼にカッターナイフ渡したの。危ないのは分かってるよね?」
「え? 俺雪啼にカッターなんて渡してないぞ」
 雪啼を床に下ろし、カッターナイフを受け取った日翔が首をかしげる。
「それに……うちにそんなデザインのカッターあったか? お前いつも使うメーカー決めてるだろ、見たこともないが新モデルか?」
 カッターナイフをまじまじと見つめながら日翔が辰弥に訊く。
 そう言われて、辰弥も改めてカッターナイフを見た。
 普段自分が使っているものに似てはいるが、細部が違う。
 決定的な相違点はカッターナイフにメーカーのロゴの刻印がないこと。
 明らかに、家に置いているものではない
 それなら、一体誰が、何処から持ち込んで雪啼に渡したのか。
「雪啼、誰からもらったの」
 しゃがんで雪啼に目線を合わせ、辰弥が訊く。
 しかし、雪啼は彼を見ることなく顔を背け、日翔の脚に顔をうずめる。
「……辰弥ァ……」
 呆れたように日翔が呟く。
「よっぼど怖がらせたんだな、お前。怯えてんじゃねーか」
「……」
 ダメか、と辰弥が呟く。
 その時、雪啼の手に何かが握られていることに気が付く。
「……雪啼?」
 よく見ると、それは別のカッターナイフだった。
 先ほど辰弥が奪い取ったのと同じデザイン、彼女はまだ隠し持っていたらしい。
「……雪啼」
 ちら、と雪啼が辰弥を見る。
 それから、
「パパのばかー!」
 そう叫び、辰弥に向けてカッターナイフを振り下ろした。
「うわっ!?!?
 咄嗟に辰弥が回避、雪啼の腕を掴む。
「危ないからダメだって!」
「むぅー!」
 激しい抵抗を受けたものの二本目のカッターナイフをもぎ取り、辰弥はいつになく強めの口調で、
「そんなにパパのこと殺したいの?」
 そう、言い放った。
 辰弥の強い言葉に雪啼が一瞬、キョトンとする。
 が、次の瞬間、わっと泣き出して再び日翔の脚に顔をうずめた。
「……辰弥ァ……」
 流石にお前、言いすぎだろと日翔が辰弥をたしなめる。
 だが、辰弥は首を横に振ってそれを否定する。
「こっちは何度も危ない目に遭ってるの。いくら子供でもやっていいことと悪いことがある」
 本当はお尻を叩きたいところだけど、とぼやきつつ辰弥は日翔から一本目のカッターナイフを受け取り、部屋を出る。
「とりあえずこれは処分するよ。何があるか分からないから。あと、出どころは気になるけど――この調子じゃ教えてくれないだろうね」
 ちら、と日翔の脚にしがみついて泣く雪啼に視線を落とし辰弥が自分に言い聞かせるように言う。
 雪啼がどこでこのカッターナイフを入手したのかは結局分からずじまい。
 ただ、他に危ないものがあったら、と想定して一度部屋をちゃんと調べるか、と考える。
 しかし、日翔の来るタイミングが遅くて助かった。
 ――もし、見られていたら。
 先ほどの衝動に駆られた血に飢えた姿を見られていたら日翔は何と言っただろうか。
 雪啼に危害を加えるかもしれないと隔離されたのか、それとも小児性愛者ペドフィリアなじられたのか。
 いずれにせよ、日翔には知られずに済んで助かった、と辰弥は心底そう思った。
 流石にあの姿を見られていれば日翔も「何かある」と思うだろう。
 いや、既に「何かある」とは分かっていてもその「何か」が危険なものだと思うに違いない。
 そう考えれば本当に運がよかった。だが、それだけである。
 幸運なんてものはそう何度も続かない。
 今後、あの衝動が雪啼の前で起きないことを、と思いつつ辰弥は雪啼の部屋を出た。

 

◆◇◆  ◆◇◆

 

第6章-5へ

 


 

「いいね」と思ったらtweet! そのままのツイートでもするとしないでは作者のやる気に大きな差が出ます。

 マシュマロで感想を送る