Vanishing Point Epilogue
分冊版インデックス
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惑星「アカシア」
そこで暗殺者として裏社会で生きる「グリム・リーパー」の三人は
ある日、
依頼を受けては完遂していく三人。しかし
警戒はしつつも、雪啼と
その後に受けた依頼で辰弥が
まずいところに喧嘩を売ったと思うもののそれでも依頼を断ることもできず、三人は「サイバボーン・テクノロジー」からの要人護衛の依頼を受けることになる。
しかし、その要人とは
最終日に襲撃に遭い鏡介が撃たれるものの護衛対象を守り切った三人は鏡介が内臓を義体化していたことから彼の過去を知ることになる。
帰宅してから反省会を行い、辰弥が武器を持ち込んだことについて言及されたタイミングで、御神楽
「それは貴方が
確保するという久遠に対し、逃走する辰弥。
それでも圧倒的な彼女の戦闘能力を上回ることができず、辰弥は拘束されてしまう。
拘束された辰弥を「ノイン」として調べる
連絡を受けた久遠は改めて辰弥を調べる。
その結果、判明したのは辰弥は「
「一般人に戻る道もある」と提示する久遠。しかし、日翔たちの元に戻りたい辰弥にはその選択を選ぶことはできなかった。
辰弥が造り出された生物兵器と知った日翔と鏡介。しかし二人は辰弥をトクヨンの手から取り戻すことを決意する。
鏡介はトクヨンの兵器「コマンドギア」を強奪し、追撃を迎撃するが久遠の攻撃とリミッター解除の負荷により右腕と左脚を失ったものの、桜花への帰還を果たす。
しかし帰国早々聞かされたのは失踪していた雪啼が吸血殺人を繰り返していることとそれを「ワタナベ」はじめとする各メガコープが狙っていることだった。
包囲網を突破し、雪啼を確保することに成功した辰弥と日翔。
義体に換装した鏡介に窮地を救われたもののトクヨンが到着、四人はなすすべもなく拘束される。
「ツリガネソウ」に収容された四人。改めて一般人になる道を提示されるもすぐに頷けない辰弥。
そんな折、雪啼が監禁場所から脱走、「ツリガネソウ」は混乱に陥る。
その混乱に乗じて監禁場所から逃げ出す辰弥たちだったが、久遠との取引の末一度一般人になってみる条件を飲み、雪啼の追跡に当たる。
しかし、真っ先に雪啼と遭遇した日翔が一瞬の隙を突かれて攻撃され、人質となってしまう。
日翔を救出すると言う特殊第四部隊に対し、自分で助けに行くという辰弥。
議論の末、一時間という制限時間で日翔を救出することという条件で辰弥は単身雪啼の待つ廃工場へと向かう。
激しい戦闘の末、日翔が辰弥によって生成された単分子ブレードで雪啼を両断することに成功する。
しかし、とどめを刺す前に工場が崩落、雪啼によって大ダメージを受けた辰弥を救出することができずに日翔は鏡介によって工場から連れ出される。
ナノテルミット弾によって灼かれる廃工場。戻ってこなかった辰弥のために、鏡介は小さな花束を手向けた。
自宅に戻った日翔と鏡介は様子を見に来た
辰弥に卸していた輸血パックの回収のために残った
辰弥の部屋に遺されていた写真に「幸せだったのか」と呟いた日翔に、「幸せだったよ」と返答が返ってくる。
少年の姿となって帰還した辰弥。
辰弥はノインの血を吸収することで第二世代LEBのトランス能力をコピーし、それを使って脱出したと告げる。
上腕部分で欠損した左腕を前に突き出すようにすると、そこから肉塊が湧き出し、次の瞬間には傷一つない左腕として再生される。
「「……」」
日翔と鏡介が息を飲む。
確かに辰弥がLEBという生物兵器という時点で充分な脅威であるがそこにトランス、そしてそれを利用した再生能力まで身に着けてしまえばそれはもう完全に「人間」としての範疇を超えてしまっている。
今までと同じ扱いでいいのか、という迷いが二人に生じる。
辰弥はそれを理解しているのか。
あれだけ「人間」であることに固執しようとしていた辰弥だったのに、これではまるで――。
「……ごめん」
不意に、辰弥が謝罪した。
「何を」
「生き残りたい一心で、俺は『人間』としての在り方を棄てた。ただ日翔と鏡介の元に戻りたいだけで、一緒に生きていたいと願って、俺はLEBとしての自分を受け入れた。でも二人が俺を拒絶するならそれは受け入れる。二人が望むのが『人間』である俺だというのなら、俺は……出ていくから」
辰弥もまた、気にしていたことだった。
あの時、辰弥は「死にたくない」と願ってしまった。
その時に聞こえた自分の内なる声。
「トランスしろ」、声は確かにそう辰弥に囁きかけた。
辰弥も最初は拒んだ。死にたくないが、そんなことをするわけにはいかないと。
日翔も鏡介も望んでいるのは「人間」としての
だから、死にたくないという気持ちを殺して死を受け入れるつもりだった。
それでも声は囁いた。
「自分の気持ちを殺す必要はない」と。
「生きたいと願うのなら、生きろ」と。
その声に辰弥は抗えなかった。
とはいえ、トランスの方法など分からない。トランスしようと自分の肉体に語り掛けても何も変化は起こらない。
しかし、視界のカウントダウンが0になり、ナノテルミット弾の発射を悟ったことで命の危機を感じた。
「死にたくない」、それは辰弥が初めて心の底から願った思い。それが引き金となって辰弥はトランスの方法を閃き、初めてのトランスを行った。
そうやって床の亀裂から地下へ、下水道へと逃れ、肉体を再構築した。
肉体を完全に再構築するほどの血液はなかった、ということと御神楽の目を逃れるために以前より小柄な少年の姿を構築し、眼の色も変えた。
それでも左腕は構築しきれず、とりあえず帰宅して補充すればいい、と帰宅した。
それが日翔たちが脱出してからの顛末。
しかしよく考えれば本当にこれでよかったのか。
あれだけ「人間でありたい」と思っていた辰弥はこの時点で「人間であること」を完全に棄てた。
再生の瞬間を日翔と鏡介に見せたのはその確認。
もう、この二人には隠し事をしたくないから、と辰弥は敢えて二人に見せた。
それで二人が自分を拒むのならそれでいい。
二人に「自分は生きている」と伝えられただけでいい。
ふう、と、日翔がため息を吐く。
それから、辰弥にそっと手を伸ばした。
「日翔……?」
日翔が辰弥を抱き寄せる。
「……おかえり、辰弥」
「日翔……」
「ああ、よく帰ってきた、辰弥」
鏡介も微笑んで辰弥に左手を伸ばし、頬に触れる。
「辛かったな」
「……鏡介……」
困惑した面持ちで辰弥が二人を見る。
拒絶されたら二人の前から去るつもりではあったが、これは……受け入れられた、と考えていいのだろうか。
いいの? と思わず辰弥が訊く。
人間であることを辞めたのに、本当にいいの? と。
「何言ってんだ、お前は『人間』だよ」
そう言って日翔が辰弥の頭をわしゃわしゃと撫でる。
「ああ、そうやって生きることを望んだ時点でお前は『人間』だ。
そう言って鏡介が辰弥の頬を摘まむ。
「むぅ」
「お前は俺たちと生きたいと願った。それでいいんだよ。その気持ちだけで、俺たちは報われる」
ひとしきり辰弥の頬を摘まんだ鏡介が手を放し、日翔に混ざって頭を撫で始める。
「子供扱い――」
「見た目完全子供だろ。ついでだ、引っ越ししたら学校行くか?」
ちょうどいい、もうその見た目でいろよと言う日翔に辰弥が抗議の眼差しを投げる。
「やだ、元の姿に戻る!」
「いや、御神楽の目を欺くのにもちょうどいいからそのままでいろ」
鏡介にも言われ、辰弥は「むぅ、」と頬を膨らませた。
「みんな寄ってたかって俺を子供扱いする」
「実年齢七歳なら仕方ないでしょ。実際は小学生よ? 学校くらい行きなさい」
渚にも言われ、辰弥は「えぇ~」と声を上げた。
「やだ、ガキに紛れてるくらいなら家で自習する」
「ガキがガキ言ってんじゃねえ、仕事は回してやるから、普段は学校行け」
そう言って日翔は鼻を啜った。
「……日翔?」
不貞腐れていた辰弥が日翔を見上げる。
「辰弥ァ~!!!!」
不意に、日翔が辰弥を抱きしめてわんわん泣き始めた。
「本当によかった~!!!!」
「日翔……」
「脱出してから、日翔はずっと悔やんでいたからな。ほっとしたんだろうよ」
そういう鏡介の声も震えている。
「本当に、よく戻ってきた。そして、すまなかったな」
「何を」
鏡介が謝ることはない、と辰弥は笑う。
「あの時の鏡介のあの判断があったから俺は日翔を助けることができたし、最終的に生き残ったんだから謝ることないよ」
とにかく、と辰弥は二人を見る。
「仕事は回すって?」
「ああ、この二人足洗うチャンスあったのに棒に振ったのよ」
ため息交じりに渚が説明する。
「仕方ないだろ、今更真っ当に生きられるか」
日翔が反論し、鏡介も頷く。
「だから、俺たちは武陽都に行く。そこのアライアンスにも話を付けてもらってる」
「そこに、俺もついていっていいの?」
当たり前だ、と鏡介が頷いた。
「戦力として期待してるぞ」
その言葉に辰弥が嬉しそうに頷く。
ただ受け入れてもらえたからではない。
今後も同じ生活をしていいのだと。それを認められたのが、純粋に嬉しい。
確かに自分は他の生活を知らない。もっと楽しいことがあるのかもしれない。
それでも、日翔と鏡介と一緒ならどれだけ辛いことでも乗り越えていける。
だから、一緒に生きていくのだ、と辰弥は思った。
血まみれの道でもいい。自分のことを受け入れてくれた、大切な二人と一緒に生きることができるのなら。
「……じゃ、輸血が終わったら引っ越しの準備だ。お前は荷物が少ないんだから日翔の手伝いしてやれよ」
それはもちろん、と辰弥が頷く。
「あと、GNS入れ直せよ。それから――山崎さんには黙っておくか」
鏡介がふと呟く。
辰弥が生きていたことに関しては報告しない方がいい、と鏡介のハッカーとしての勘がそう告げている。
それに、まだ何かが引っかかる。
何か、重要なことを忘れているような。
そうは思ったが辰弥が戻ってきたことが純粋に嬉しくて、それ以上考えるのはやめようと思ってしまう。
いつか思い出すだろう、そう思い、鏡介は自分の荷物をまとめるために一旦自分の部屋へ戻ることにした。
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