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Vanishing Point 第7章

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前回までのあらすじ(クリックタップで展開)

 惑星「アカシア」桜花国おうかこく上町府うえまちふのとある街。
 そこで暗殺者として裏社会で生きる「グリム・リーパー」の三人は暗殺連盟アライアンスから依頼を受けて各種仕事をこなしていた。
 ある日、辰弥たつやは自宅マンションのエントランスで白い少女を拾い、「雪啼せつな」と名付けて一時的に保護することになる。
 依頼を受けては完遂していく三人。しかし巨大複合企業メガコープの抗争に巻き込まれ、報復の危機を覚えることになる。
 警戒はしつつも、雪啼とエターナルスタジオ桜花ESO遊びに出かけたりはしていたが、日翔あきと筋萎縮性側索硬化症ALSだということを知ってしまい、辰弥は彼の今後の対応を考えることになる。
 そんな折に受けた依頼、現場にに現れた電脳狂人フェアリュクターに辰弥が襲われ、後れを取ってしまう。
 突如乱入してきたカグラ・コントラクター特殊第四部隊隊長の御神楽みかぐら 久遠くおんを利用して離脱するものの、御神楽みかぐら財閥の介入に驚きと疑念を隠せない三人。
 鏡介きょうすけが調べた結果、特殊第四部隊の介入は直前に御神楽財閥が侵入先の会社を買収していたことによるものだと突き止める。
 まずいところに喧嘩を売った、と不安になる三人。そんな折、これまで何度か辰弥たちが破壊工作を行ってきた「サイバボーン・テクノロジー」が暗殺連盟アライアンスに要人の護衛を依頼してきたのだった……

 

第7章 「Common Point -共通点-」

 

 雨が降っている。
 朝から降り出した雨は止むことを知らないかのように降り続き、いや、雨脚を強くし続けていた。
 バシャバシャと響く足音が家の前で止まり、ドアが激しくノックされる。
 怯える「僕」を片手で制した母さんが玄関に出て、それから小さく頷いた――ように見えた。
 母さん越しに、ドアの向こうに立っている大男が見える。
 大男は母さんに傘を差しだし、外に出るように促す。
「それじゃ、お母さんはちょっと出かけるから」
 振り返った母さんが「僕」にそう言ってドアをくぐる。
「――ごめんね
 聞こえるか、聞こえないかのギリギリの声。
 弾かれたように立ち上がって、「僕」は玄関に向かった。
 外に出て追いかけようとした「僕」をもう一人いた大男が制止する。
 離せ、と「僕」は叫んだ。
 大男の腕に噛みつき、振りほどいて、母さんを追いかける。
 しかし、母さんは初めの大男に促されるまま、この辺りでは見かけないような立派な車に乗り込んでいく。
 「僕」に追いついた大男が「僕」を突き飛ばし、「僕」はぬかるみに倒れ込んだ。
 それを忌々しそうに睨みつけた大男も車に乗り込んでいく。
 慌てて体を起こし、「僕」は車に向かって走った。
 とはいえ、まだ生身の子供である「僕」が車に追いつけるはずもなく、あっと言う間に車は走り去っていく。
 ぬかるみに足を取られ、「僕」は再び地面に倒れ込んだ。
 激しい雨が地面を、全身を叩き、張り付いた服から「僕」の体温を奪っていく。
 母さん、と「僕」は叫んだ。
 待って、置いていかないで、と。
 「僕」は分かっていた。
 このスラム街で、何の力もない子供が一人で生きていけるはずがないということを。
 だからかもしれない。
 「僕」は捨てられた。
 たった一人の家族である母さんに。
 あとは一人でなんとかしろと。
 母さん、と「僕」はもう一度叫んだ。
 この声はもう届かないけれど、でも届いてほしくて――

 

「――っ!」
 目を開けると同時にがばり、と身体を起こす。
 カーテンの隙間から差し込む光が目に入り、身体を起こした長身の青年――鏡介きょうすけが眩しそうに目を細めた。
 電脳GNSによって視界に映り込む時計を見ると交代を目前とした起床時間で、彼ははぁ、と一つ息を吐いてベッドから降りた。
 寝巻きを脱ぎ捨てシャワールームに入り、雑念を洗い流すかのように熱めのシャワーを浴びる。ドライヤーで乾かした髪を結ってから着替えのワイシャツに腕を通し、ジャケットを羽織り、現場に向かうためにドアへ向かったタイミングで、インターホンが鳴った。
 鏡介がロックを解除してドアを開けるとそこには彼より頭二つ分近くは小柄な青年――辰弥たつやが立っている。
「あ、準備できてたんだ」
 辰弥が鏡介を見上げてそう声を上げる。
 ああ、と鏡介が頷き、部屋を出る。
 入れ替わりで辰弥が部屋に入り、それから再び鏡介を見た。
「……やっぱり話さないの?」
 唐突な問いかけに、鏡介が首を傾げる。
「母親なんだよね? なんで何も言わないの」
 ほんの少し、問い詰めるような口調で辰弥が再び口を開く。
「……お前には関係ないだろう」
 先程の「夢」の内容を思い出し、忌々しそうに鏡介が呟く。
 ――あいつは俺を捨てた。何を今更。
 今回の依頼もただの偶然だ、俺とあいつは赤の他人だ、と鏡介は吐き捨てる。
 そのまま現場となる護衛対象の部屋に向かおうとした彼の腕を辰弥が掴んだ。
「何を――」
 邪魔するな、と言おうとした鏡介が辰弥の鋭い視線に射抜かれて言葉に詰まる。
 辰弥の真紅の瞳がいつになく厳しく見える。
「鏡介」
 厳しい口調で辰弥が言葉を紡ぎ出す。
「君が母親のことをどう思っているかは正直どうでもいい。だけどこれはれっきとした依頼だ、雑念持って当たらないで」
「それは当然だ」
 それくらい理解わかっている、依頼に私情は挟まない、と鏡介が確認するように言う。
「それならいいけど。無理はしないで」
 じゃ、俺は寝るから、と辰弥が部屋の奥に消えていく。
 閉じられたドアに、鏡介はもう一度ため息を吐いた。

 

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