Vanishing Point 第12章
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惑星「アカシア」
そこで暗殺者として裏社会で生きる「グリム・リーパー」の三人は
ある日、
依頼を受けては完遂していく三人。しかし
警戒はしつつも、雪啼と
その後に受けた依頼で辰弥が
まずいところに喧嘩を売ったと思うもののそれでも依頼を断ることもできず、三人は「サイバボーン・テクノロジー」からの要人護衛の依頼を受けることになる。
しかし、その要人とは
最終日に襲撃に遭い鏡介が撃たれるものの護衛対象を守り切った三人は鏡介が内臓を義体化していたことから彼の過去を知ることになる。
帰宅してから反省会を行い、辰弥が武器を持ち込んだことについて言及されたタイミングで、御神楽
「それは貴方が
確保するという久遠に対し、逃走する辰弥。
それでも圧倒的な彼女の戦闘能力を上回ることができず、辰弥は拘束されてしまう。
拘束された辰弥を「ノイン」として調べる
連絡を受けた久遠は改めて辰弥を調べる。
その結果、判明したのは辰弥は「
「一般人に戻る道もある」と提示する久遠。しかし、日翔たちの元に戻りたい辰弥にはその選択を選ぶことはできなかった。
辰弥が造り出された生物兵器と知った日翔と鏡介。しかし二人は辰弥をトクヨンの手から取り戻すことを決意する。
鏡介はトクヨンの兵器「コマンドギア」を強奪し、追撃を迎撃するが久遠の攻撃とリミッター解除の負荷により右腕と左脚を失ってしまう。
それでも追撃を振り切り、迎えの潜水艦に乗った三人は桜花へ帰国、そこで雪啼が「ワタナベ」はじめとする各メガコープに包囲されていることを知る。
第12章 「Arrival Point -到達点-」
「
歩き出した辰弥を追いかけるように歩きながら
「何を」
そう言う辰弥の口調は「何を迷う必要がある?」と言わんばかりに迷いがなく、逆に日翔が狼狽えてしまう。
「いや、だから――お前はいいのかよ、さっきの言葉、お前、
「迷ってる時間はない。雪啼は吸血殺人を起こしているし雪啼を狙って『ワタナベ』も動いてる。『ワタナベ』に渡すわけには行かないし吸血殺人も止めなきゃならない。俺たちが雪啼を確保しない限り、被害は大きくなる」
「それはそうだが……」
どうしてそんなに迷わずにいられる、と日翔は心の中で辰弥に問いかけた。
雪啼は辰弥と同じ
桜花へ向かう潜水艦の中で聞いた話では別にLEB同士での嫌悪もなく、
それに雪啼はこの数環辰弥と共に暮らしていた。
その様子は明らかに親子の関係で、情がわいているのではないかと思わせるほどだった。
それなのに辰弥はほとんど迷うこともなく「止められないなら俺が殺す」と宣言した。
一体何が辰弥をここまで駆り立てるのか。
そして、「雪啼が俺を探している」と言った根拠は何なのか。
辰弥に問いただしたいが、すんなり答えてもらえそうになく日翔が口ごもる。
「流石に、無差別に吸血殺人を起こすLEBはもうそのままでは置いとけない。どこかの
日翔の方を見ることなく、辰弥はそう言った。
その言葉に、日翔がはっとする。
辰弥を救出したあの時、現場にいたLEBの女から輸血パックは奪った。
しかし、辰弥はギリギリまでその血を飲まなかった。
恐らく鏡介の件がなければ最後まで飲まなかっただろう。
その理由が、多分。
「……雪啼が、血の味を覚えて無差別に人を襲うと?」
「いや、そんなことはないよ。確かに吸血衝動がないとは言わないけど血の味を覚えて無差別に人を襲うとなったらそれは兵器として欠陥品だ」
「それは――」
「血の味を覚えて人を襲うようになるからか」と推測した日翔だったが、辰弥の答えは意外にもノーだった。
「兵器として欠陥品」、その言葉の意味がよく分からずどういうことだ、と考える。
血を吸収して弾薬にできるのなら、倒した敵から吸血してそのまま戦闘を続行すればいいだけである。それなのに欠陥品とは。
「……無差別、ってどういうことか分かってる? 敵味方関係なくだよ? しかも手近な人間から襲うだろうから味方の方が被害が大きくなる」
そんな、味方がどんどん殺される兵器なんて欲しくないよね? と確認してくる辰弥に日翔は漸く理解した。
敵だけを襲うなら吸血衝動も血の味を覚えるもあっていいだろう。
それが制御できないから、血の味を覚えて人間を襲うようには設計されていない、ということか。
流石に吸血衝動だけは血液が足りなくなった際の生存本能として必要だろうが血の味を覚えさせる必要はないのだろう。
「じゃあ、雪啼が今人を襲ってるのは」
血の味を覚えたわけでもないのに吸血を続ける雪啼の動機が分からない。
日翔はてっきり血の味を覚えたと思い込んでいたが、別の理由があるというのか。
「俺と雪啼は製造ロットが違う。俺には造血機能が残ってるけど雪啼のロットは遺伝子の調整段階で造血機能に欠陥を持って生まれてきた。自分で血を作れないから輸血に頼るしかないし輸血もできないなら吸血するしかない」
「つまり、雪啼は今ひどい貧血状態だってことか?」
日翔の問いに、辰弥がうん、と頷く。
「吸血でも血は補充できるんだけど、そのスピードは輸血するより遅い。満足できるレベルまで回復するには相当数の人間の血が必要だと思う」
一定量飲んで休憩すれば回復するんだけど、と続けてから辰弥はさらに言葉を続けた。
「正直、俺も血が足りなくなると衝動的に血が飲みたくなる。だけど制御できるから吸血はしないしある程度飲みさえすれば満足できる。だけど雪啼はまだ子供だからそんなの制御できるわけがない。満足するまで飲み続けてそれから食べすぎの状態になるんじゃないかな」
人間の食事と同じだよ、と辰弥が説明する。
満腹中枢が満足感を覚えるにはタイムラグがある。
それと同じように雪啼も吸血しすぎているのにまだそれに気づけていないのだ、と。
「なるほど。もう、今は満足するためだけに吸血衝動に身を任せてるってことか」
「そういうこと。正直なところ、雪啼がLEBだと確信するまでは吸血殺人の犯人だとも思ってなかったけど」
まぁ、一時期は俺が吸血殺人の犯人じゃないかって自分を疑ったこともあるけどねと続けつつ、そこで初めて振り返って日翔を見た。
「ここから先は俺と雪啼の問題だ。君には『介入しない』という選択肢もある」
これ以上は巻き込みたくない、そんなことを言いつつ辰弥は日翔の目を見た。
深紅の瞳が真っ直ぐ日翔を見据える。
「俺は……」
迷いを隠せずに日翔が呟く。
このまま辰弥を行かせていいのか。
確かに辰弥は
うまくいけば「ワタナベ」の包囲網すら出し抜けるかもしれない。
ある意味、
しかし、その切り札である
何か嫌な予感がする、その嫌な予感が何かは分からない。
それでも辰弥を一人で行かせてはいけない、そう思う。
それなら自分も同行すべきだ、と思うが「雪啼を殺す」という選択肢を辰弥が選択していることに抵抗を覚えてしまう。
他に道はないのか、それこそ雪啼を
それに、雪啼をカグラ・コントラクターに引き渡したとしてそれは雪啼のためなのか? そう考えてしまう。
できれば二人を引き離したくない。できれば辰弥の手で殺させたくない。
そう考えてから、日翔はぶんぶんと首を振った。
「ああ、何考えてんだ俺は! 考えるのは苦手なはずだろ!」
そう、声を荒らげて辰弥を見返す。
「俺も行くぜ。お前一人に背負わせたくない」
「日翔……」
日翔の言葉に、辰弥が彼の名を呼ぶ。
その眼に、ほんの少しだけ迷いが見える。
「雪啼がLEBだろうが知るかよ。俺は雪啼を連れ戻す。お前に殺させもしない」
「だけど、もう手遅れかもしれないんだよ?」
仮に連れ戻せたとしても俺たちでは話をもみ消すことすらできない、そんな辰弥の不安に日翔はさらに「知るかよ」と答える。
「んなもん、
だから俺も行く、と続ける日翔。
辰弥が一瞬、呆気に取られたようだがすぐにふっと笑う。
「正直なところ、君が来てくれるなら心強いよ。最悪の結果にはならないかもしれない」
「なら決まりだな」
そう言って日翔が辰弥の肩を叩く。
「じゃ、行こうか。だがお前はともかく俺は丸腰だ、武器くらい欲しい」
とりあえず
「そうなるだろうと思って姉崎には連絡済みだ。『
「早っ!」
根回し早いなと日翔が声を上げる。
「お前とは何年の付き合いだと思ってるんだ。辰弥、お前には追加で輸血パックも手配した。飲みたくないだろうが必要に応じて飲んでくれ」
そう言いながら鏡介は日翔からケースをもぎ取り、ちょうどいいタイミングで近づいてきたタクシーに向かい始めた。
「俺はこんな身体だ、ついて行っても足手纏いになるだけだ。
そんなことを言いながら鏡介はケースともう一つの包み――冷凍保存されていた自分の左脚を抱えてタクシーに乗り込む。
その一連の流れがあまりにも自然すぎて何も言えず見送ってしまった辰弥と日翔が、タクシーが走り去ってから顔を見合わせる。
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