縦書き
行開け

Vanishing Point 第12

分冊版インデックス

12-1 12-2 12-3 12-4 12-5 12-6 12-7 12-8 12-9

 


 

前回までのあらすじ(クリックタップで展開)

 惑星「アカシア」桜花国おうかこく上町府うえまちふのとある街。
 そこで暗殺者として裏社会で生きる「グリム・リーパー」の三人は暗殺連盟アライアンスから依頼を受けて各種仕事をこなしていた。
 ある日、辰弥たつやは自宅マンションのエントランスで白い少女を拾い、「雪啼せつな」と名付けて一時的に保護することになる。
 依頼を受けては完遂していく三人。しかし巨大複合企業メガコープの抗争に巻き込まれ、報復の危機を覚えることになる。
 警戒はしつつも、雪啼とエターナルスタジオ桜花ESO遊びに出かけたりはしていたが、日翔あきと筋萎縮性側索硬化症ALSだということを知ってしまい、辰弥は彼の今後の対応を考えることになる。
 その後に受けた依頼で辰弥が電脳狂人フェアリュクター後れを取り、直前に潜入先の企業を買収したカグラ・コントラクター特殊第四部隊の介入を利用して離脱するものの、御神楽みかぐら財閥の介入に驚きと疑念を隠せない三人。
 まずいところに喧嘩を売ったと思うもののそれでも依頼を断ることもできず、三人は「サイバボーン・テクノロジー」からの要人護衛の依頼を受けることになる。
 しかし、その要人とは鏡介きょうすけが幼いころに姿を消した彼の母親、真奈美まなみ
 最終日に襲撃に遭い鏡介が撃たれるものの護衛対象を守り切った三人は鏡介が内臓を義体化していたことから彼の過去を知ることになる。
 帰宅してから反省会を行い、辰弥が武器を持ち込んだことについて言及されたタイミングで、御神楽 久遠くおんが部屋に踏み込んでくる。
 「それは貴方がLEBレブだからでしょう――『ノイン』」、その言葉に反論できない辰弥。
生物兵器LEBだった。
 確保するという久遠に対し、逃走する辰弥。
 それでも圧倒的な彼女の戦闘能力を上回ることができず、辰弥は拘束されてしまう。
 拘束された辰弥を「ノイン」として調べる特殊第四部隊トクヨン。しかし、「ノイン」を確保したにもかかわらず発生する吸血殺人事件。
 連絡を受けた久遠は改めて辰弥を調べる。
 その結果、判明したのは辰弥は「ノイン」ではなく、四年前の襲撃で逃げ延びた「第1号エルステ」であるということだった。
 「一般人に戻る道もある」と提示する久遠。しかし、日翔たちの元に戻りたい辰弥にはその選択を選ぶことはできなかった。
 辰弥が造り出された生物兵器と知った日翔と鏡介。しかし二人は辰弥をトクヨンの手から取り戻すことを決意する。
 IoLイオルに密航、辰弥が捕らえられている施設に侵入するし、激しい戦闘の末奪還に成功する日翔と鏡介。
 鏡介はトクヨンの兵器「コマンドギア」を強奪し、追撃を迎撃するが久遠の攻撃とリミッター解除の負荷により右腕と左脚を失ってしまう。
 それでも追撃を振り切り、迎えの潜水艦に乗った三人は桜花へ帰国、そこで雪啼が「ワタナベ」はじめとする各メガコープに包囲されていることを知る。

 

 「ワタナベ」の包囲網から雪啼せつなを回収する、もしくは殺すと決めた辰弥たつやに、日翔あきとが同行すると告げ、鏡介きょうすけも義体の換装の合間にサポートをすると言う。

 

 鏡介からの連絡を受けて、なぎさが駆け付け、辰弥と日翔を『白雪姫スノウホワイト』へと連れて行く。
 渚が「新兵器よ」と届けてくれた携帯型の急速輸血装置を受け取り、そこから「戦闘中も継続して輸血できる装置が作れないか」という話をする。

 

 「白雪姫」で装備を受け取った辰弥と日翔。
 「ワタナベ」の包囲網へと向かおうとする二人に、渚は「生きて帰ってきなさいよ」と呟く。

 

 包囲を守備する「ワタナベ」の兵士を鮮血の幻影ブラッディ・ミラージュで一掃した辰弥。
 だが、会話を感知され「サイバボーン・テクノロジー」の兵士が迫ってくる。

 

 「サイバボーン・テクノロジー」のパワードスケルトン部隊と交戦する二人。
 「ワタナベ」や他のメガコープの勢力も合流し、戦場は混乱を極め始める。

 

《まずいな、この規模の企業間紛争コンフリクト御神楽のお膝元桜花国内で起きると、カグラ・コントラクターも黙ってないぞ》
 辰弥の視界で状況を確認しながら鏡介が唸る。
 そもそも、特殊第四部隊もノインを回収したがっている。御神楽財閥の情報網にこの企業間紛争コンフリクトの情報が入っていないとは思えないにも関わらず、カグラ・コントラクターの通常部隊が音速輸送機で現れないあたり、今頃、この事態の平定を買って出た特殊第四部隊の「ツリガネソウ」が全速力で桜花に向かっているところなのだろう。と鏡介は想像する。
「そうはさせねぇ、御神楽なんかに雪啼は渡さねえからな!」
 日翔がKH M4を握りしめながら呟く。
 つまり、特殊第四部隊トクヨンの到着が自分たちの制限時間になる。それまでに自分達が雪啼を回収し、この場を離れなくては。
 複数の勢力が入り交じっての戦闘は激化の一途を辿っている。
 今ならこの場を離れ、たけるから聞いた包囲網の中心に雪啼を探しに行けるかもしれない。
 雪啼を探しに行こう、そう日翔が辰弥に提案しようとしたその時。
 ふわり、と紅く染まった白が揺れた。
 その場に全くそぐわない、白い少女の姿。
「雪啼!?!?
 思わず身を乗り出し、辰弥が声を上げる。
 返り血で赤黒く染まりつつもそれでも白さを失わない少女。
 銃弾が飛び交う戦場に、雪啼はふらふらと迷い込んできた。
「雪啼、危ない!」
「待て、今出たら格好の的だ!」
 バリケードを飛び出して雪啼に駆け寄ろうとする辰弥を日翔が全力で止める。
「でも、雪啼が!」
「だから落ち着け! お前が死んだら元も子もないだろ!」
 辰弥を押さえつけ、日翔は戦場に紛れ込む雪啼を見る。
 このような状況で、雪啼の方から来てくれたのはありがたい。
 しかし同時に、どうしてこのタイミングで、と思う。
 雪啼が現れたことで戦場の様子はさらに混乱を極めていた。
 彼女を確保しようと何人もの兵士が手を伸ばし、別の勢力に撃たれる。
 それを掻い潜って接近しても、雪啼が腕を刃物に変化させて首を刎ね血を吸ってしまう。
 その様子を目の当たりにし、日翔は「これが本当に雪啼なのか」とわが目を疑った。
 雪啼はいつも自分のことを「あきと、じゃま」と言いつつもまとわりついていた。
 その様子はまるで遊んでとせがんでくる子猫のようで、とても人を殺すような人間には見えなかった。
 それなのに目の前の光景はどうだ。
 雪啼は何の躊躇いもなく目の前の人間を殺し、血を吸っている。
 その腕が人を殺す瞬間だけ刃物に変化し、「人間ではない」と主張している。
「……なんで……」
 地獄とはこんな状況を言うのか、と言わんばかりの光景に辰弥も日翔も声が出ない。
 それにしても、このままでは流石の「ワタナベ」も雪啼の確保を諦めて殺しにかかるんじゃ、と思いつつも日翔は辰弥を押さえつつ目の前の各勢力の動向を見守る。
 特に「ワタナベ」は雪啼に対して永江博士から何らかの懐柔策を受け取っているはず。
 そうでなければただいたずらに消耗して被害が大きくなるだけである。
 それとも、懐柔策などなく、ただ確保しろとだけ言われているのか――。
 そう考えながら二人が見ていると、「ワタナベ」の軍勢の一人が何かを取り出したのが見えた。
 一瞬、手榴弾かと考えて日翔が目を凝らすが、取り出されたのは手榴弾ではなく投影装置らしきもの。
 何をする気だ、と考えてから、日翔はすぐに気が付いた。
「辰弥、まずいぞ! 『ワタナベ』の奴、雪啼に何かを見せようとしてる!」
 あれ、多分立体映像ホログラム投影のやつだ、そう日翔が言い切る前に辰弥が彼の手を振りってP87を構え、投影装置を手にした「ワタナベ」の兵士に銃口を向ける。
 即座に狙いを定め、発砲。
 ほんの一瞬の照準合わせだったが、辰弥の弾は狙い違わず投影装置を手にした兵士の頭を吹き飛ばす。
 兵士の手から投影装置が零れ、音を立てて地面に落ちる。
 激しい銃撃戦の真っただ中であるにもかかわらず、何故かその音が聞こえたような気がする。
 兵士が既にセッティングを終えていたのだろう、地面に落ちた衝撃で投影装置が起動し、空中に立体映像が映し出される。
『ノイン、』
 永江 あきらの声が戦場に響き渡る。
 その声を聴いた瞬間、雪啼が頭を上げた。
 血を啜るために抱えていた「サイバボーン・テクノロジー」の兵士の死体から手を離し、全身をホログラム映像に向ける。
「主任!」
 雪啼が立ち上がり、ホログラム映像に向かって駆けだろうとする。
「雪啼!」
 まずい、と辰弥がバリケードから飛び出す。
「おい、辰弥待て!」
 今飛び出したらまずい、と日翔が慌てて辰弥の腕を掴もうとするがその手は空を切る。
 バリケードから飛び出した辰弥はそのまま戦線の真っただ中に飛び込むような形で雪啼に声が届く位置まで近づき、声を張り上げた。
「雪啼! 俺だ、パパだ! 戻ってきて!」
 辰弥の声が戦場に響き渡る。
 銃声が一瞬止み、何事かと無数の視線が辰弥に刺さる。
 それでも辰弥はさらに声を張り上げる。
「雪啼、戻ってきて!」
 その声に、雪啼が足を止めて辰弥の方を見る。
「パパ……!」
 嬉しそうな雪啼の声。
 しかし、雪啼はすぐに晃の方に向き直る。
「でも、主任が……」
 くそ、と辰弥が歯噛みする。
 そういえばトクヨンの施設に収容されていた時、ゼクスから「ノインは主任に懐いていた」と聞かされていた。
 その主任こと晃も雪啼ノインを大切に扱っていたらしい、ということを思い出し、雪啼の、自分への関心は晃に対するそれよりも下回るのかと考える。
 雪啼を確保するための切り札は自分だと思っていた。
 だが、「ワタナベ」が握っていたカードはそれよりも強力なものだったのか。
 雪啼がホログラム映像に向かって数歩、歩き出そうとする。
 しかし、すぐに思い直したように雪啼は辰弥に向き直った。
「主任、ちょっと待ってて。ノイン、完全になる。完全になってから、主任に会いに行く」
 晃のホログラム映像に一度振り返ってそう言い、雪啼は辰弥に向かって駆けだした。
「パパ!」
 そう、駆け寄る雪啼の両腕が鋭い刃に変化トランスする。
 ――来た!
 雪啼が自分を殺しに来るのは想定済み。
 辰弥は即座に盾を生成して雪啼が振り下ろした刃を受け止め、同時にロープを生成して雪啼を束縛する。
「むぅー!」
「ごめん、雪啼。今は君と戦ってる暇はない!」
 刃を使えないよう腕を縛り、辰弥は雪啼を担ぎ上げた。
「辰弥、戻れ!」
 辰弥が雪啼を確保したのを見届けた日翔が内心でガッツポーズをしながらも彼を呼ぶ。
「下がるぞ!」
 日翔の言葉に辰弥も頷きながらバリケードに向かって駆ける。
 雪啼を確実に確保するためとはいえ、辰弥が行った一連の行動は「ワタナベ」、「サイバボーン・テクノロジー」、そしてその他の巨大複合企業メガコープやPMCの注目を浴びた。
 「あいつら、どこの」や「暗殺連盟アライアンスもノインを?」という声が聞こえる。
 その一瞬の躊躇の間に辰弥は雪啼を抱えてバリケードに戻り、さらに後退しようとする――が。
「アライアンスなんかに渡してたまるか!」
「撃て! あいつらを生かしておくな!」
 そんな声と共に、「サイバボーン・テクノロジー」の兵士がバリケードに向けて対装甲用の徹甲榴弾を撃ち込む。
 いくら「ワタナベ」が築いていたバリケードとはいえ、徹甲榴弾を撃ち込まれてはひとたまりもない。
 バリケードが崩れ、三人の姿を丸裸にする。
 無数の銃口が三人に向けられる。
「まずい……」
 三人を守るバリケードは破られ、後退すれば、いや、後退せずとも撃たれるのは必至。
 絶体絶命の危機。
 ここまでか、と日翔が目を閉じる。
 辰弥も何か手を、と考えるが射程と敵の数に対応しきれない、と歯ぎしりする。
 三人に向けられた無数の銃の引鉄が引かれようとする。
 と、その三人の後ろから何かが飛び出した。

 

12章-7へ

Topへ戻る

 


 

「いいね」と思ったらtweet! そのままのツイートでもするとしないでは作者のやる気に大きな差が出ます。

 マシュマロで感想を送る