Vanishing Point 第4章
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惑星「アカシア」
そこで暗殺者として裏社会で生きる「グリム・リーパー」の三人は
ある日、
そんな折、「とある企業の開発サーバを破壊してほしい」という依頼を受けた三人は辰弥の体調とサーバの置かれる環境を考慮し
潜入先で、サーバを破壊したものの幾重にも張り巡らされたトラップに引っかかり抗戦する二人。
敵は
しかし、脱出した日翔が辰弥の回収ポイントで目にしたのは、意識を失い倒れる彼の姿であった。
いつもより大量の輸血を受けて回復した辰弥に安堵する一同だったが、その裏では
依頼が終わり、いつもの生活に戻った
その結果、本来ならアライアンスが受けるはずのない
ある日、
一緒に行こうと誘う日翔だったが、
駅に向かう道中、
そこで、辰弥は数人のチンピラに絡まれ、交戦することになってしまう。
「て、てめえ……」
どこに隠し持っていた、とチンピラが唸る。
「いや、その辺から適当に」
「いや、そんな形の銃は誰も持ってねえ」
自分たちで用意してるからわかんだよ、とチンピラが反論するがそれには構わず、
「どうでもいいよ。消えて」
そう言いながら、辰弥が発砲。
「三人、で、まだやる?」
残りのチンピラの誰でも即座に狙えるように構えた辰弥の銃はチンピラたちが持つものと同じような粗悪品。
いつ奪った、と最初に辰弥を狙ったリーダー格のチンピラが低く呻くがよく見ると確かに今しがた撃たれたチンピラが言うように自分たちで組み立てた銃とは形が違う。
「君たち、隙が多すぎ。
挑発するつもりではなかったが、辰弥は思わずそう言い放っていた。
普段の「仕事」は暗殺メインとはいえ、時には戦闘もある。
それを考えるとこのチンピラたちは統率もとれておらず辰弥一人で十分対処できる。
「んだとぉ!」
チンピラの一人が吠え、辰弥に向かって発砲する。
それを難なく躱し、辰弥も発砲するが手にしている銃は本当に粗悪品で、本来なら撃ち損じることのない彼の一撃は関係ない方向へ飛んでいく。
「ちっ、だから
そう毒吐きながらも辰弥は銃から手を放さずチンピラに突進、離れていて当たらないならと至近距離で発砲する。
「四人!」
「っそ!」
辰弥と目が合ったリーダー格のチンピラが叫ぶ。
次はこいつだ、と辰弥は地面を蹴った。
だが、リーダーの動きは他のチンピラに比べて素早く、簡単に捉えられない。
「ちょこまかして……っ!」
相手を捕えようと、辰弥が手を伸ばす。
その後ろを、別のチンピラの影がよぎった。
「しまっ――!」
リーダーを捕えることを優先し、もう一人の存在を失念していた。
チンピラが無言でいるが、恐らくはリーダーとGNSで連携をとっているのだろう。
ここだけ統率が取れている、もしかして鉄砲玉時代はバディでも組んでいたのか? と一瞬のうちに思考が回るがこの状況はサブ腕搭載の義体でもない限り対応しきれない。
振り返ろうとする辰弥の後頭部に、チンピラが持つ銃口が向けられる。
ここまでか、そう、諦めの色が辰弥の目に浮かびかける。
しかし。
チンピラが発砲することはなかった。
その代わりに、チンピラの頭がはじけ飛ぶ。
「……え……?」
はじけた頭から飛び散った脳漿が辰弥の頬に付着し、同時に何か脳漿にまみれた塊が彼の横を通り過ぎ、リーダーの肩に当たる。
「がぁっ!」
人間の頭を吹き飛ばしたほどの威力のある物体である。
リーダーが飛来した「何か」に肩を砕かれ、絶叫を上げる。
それを見逃さず、辰弥はリーダーを地面にたたきつけ、頭に銃口を突き付けた。
「てこずらせて……ラスト!」
そう言いながら、発砲。
頭を撃ち抜かれ、最後の一人となったリーダーが動かなくなる。
「……ふぅ……」
手にしていた銃を動かなくなったリーダーに握らせ、辰弥は息を吐いた。
それから、頬に付いたチンピラの脳漿を親指で拭い、舐め取る。
それにしても危なかった。
普段は日翔の援護があるため、後方への注意が少しおろそかになっていた。
一人の時でもこんなことにならないようにちゃんと全方向を警戒しなければ、と反省するもののそれでも気になることはある。
あの、チンピラの頭を吹き飛ばし、リーダーの肩を砕いた「何か」。
地面に落ちたそれを見つけ、辰弥は屈み込んで手に取った。
「……重っ」
単なる金属の塊だと思っていたが、密度が鉄のそれではない。
もっと比重の高い――そう、金やタングステンのような、そんな高密度の金属であるように感じる。
こんなものがかなりの速度で飛来したのだ、頭くらい普通に吹き飛ぶだろうしそれで威力を削がれたとしても肩を砕くくらいはできるだろう。
子供の握りこぶしくらいあるそれに、一体どうやって飛ばしたのだと考える。
普通に投げるには重すぎる。それこそ、
そんな重量物を、何者かは正確に射出してチンピラの頭を吹き飛ばした。
――いや。
ふと思いついた可能性に、辰弥はぶるりと身を震わせた。
実は、この玉はチンピラの頭を吹き飛ばすためではなく、自分を狙ったのではないだろうか。
あのチンピラがいなかった場合、辰弥は後方の注意がかなり削がれていた状態だった。
それこそ、音もなく飛来する物に対しては手も足も出なかっただろう。
もしあれが自分を狙っていたのだとすれば、死んでいたのは自分の方だった。
そう考えるとチンピラに助けられた、とも考えられる。
実際はチンピラを狙ったのか辰弥を狙ったのか真相は闇の中だが。
念のため、近くにまだとどまっていないかと玉が飛んできた方向の気配を探るが人の気配は室外機の陰に隠れている雪啼のもの以外ない。
辰弥ではなくチンピラに当ててしまったことで失敗を悟ったのか、それとも――
「……考えていても仕方ないな」
そう呟き、辰弥は雪啼が隠れている室外機に歩み寄った。
「……大丈夫?」
そう声をかけながら室外機の裏をのぞき込む。
そこで頭を抱えて震えている雪啼の姿を認め、辰弥はほっと息を吐いた。
それから、念のため身の回りを見て返り血を浴びていないことを確認する。
「雪啼、もう大丈夫だよ」
辰弥がそう言うと、雪啼はそろそろと頭を上げて彼を見上げた。
「パパ!」
そう嬉しそうに声を上げて、辰弥に抱き着く。
雪啼を抱き上げ、辰弥は少しだけ笑んでみせた。
その様子に先ほどまでチンピラたちと命のやり取り、いや、一方的な殺戮を行っていた雰囲気はない。
ごくごく普通の一般的な父親の雰囲気で、辰弥は雪啼をあやしている。
「ちょっと危ないからな、やっぱり近道はやめよう」
「……うん、そうだね」
素直に、雪啼が小さく頷く。
そこにほんのわずかに残念そうな様子が見えたような気がしたが、辰弥は「気のせいだろう」と自分に言い聞かせ、雪啼を地面に下ろして手を握ろうとした。
だが、雪啼は辰弥のその手ではなく手首を掴んだ。
「……パパ、けがしてる?」
ぽたり、と紅い雫が地面に落ちる。
「……」
バツが悪そうに、辰弥は自分の手を見た。
その手のひらに一筋、ナイフで切り裂かれたかのような傷がある。
「……ごめん、ちょっと怪我したみたい」
辰弥が慌ててウェストポーチから応急セットを取り出し、応急処置をして傷全体を隠すようにテープを貼る。
それを見届けた雪啼がようやく辰弥の手を握る。
「じゃ、行こうか。早く行かないと並ぶことになる」
「うん!」
ごくごく普通の親子のように、二人は裏路地を離れ、表通りに戻った。
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