Vanishing Point 第4章
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惑星「アカシア」
そこで暗殺者として裏社会で生きる「グリム・リーパー」の三人は
ある日、
そんな折、「とある企業の開発サーバを破壊してほしい」という依頼を受けた三人は辰弥の体調とサーバの置かれる環境を考慮し
潜入先で、サーバを破壊したものの幾重にも張り巡らされたトラップに引っかかり抗戦する二人。
敵は
しかし、脱出した日翔が辰弥の回収ポイントで目にしたのは、意識を失い倒れる彼の姿であった。
いつもより大量の輸血を受けて回復した辰弥に安堵する一同だったが、その裏では
依頼が終わり、いつもの生活に戻った
その結果、本来ならアライアンスが受けるはずのない
ある日、
一緒に行こうと誘う日翔だったが、
駅に向かう道中、
そこで、辰弥は数人のチンピラに絡まれ、交戦することになってしまう。
チンピラの攻撃を的確にかわし、確実に仕留めていく
一度は相手に背後を取られるもののどこからか飛んできた攻撃に助けられ、彼は全てのチンピラを排除することに成功する。
だが、途中で雪啼が辰弥の手を振りほどいて走り出し、追いかけようとした辰弥も貧血を起こし、雪啼を見失ってしまう。
再び電車を乗り継ぎ、地元に戻ってくる。
絶対にはぐれさせない、と雪啼の手をしっかり握った辰弥が商店街を歩いていると。
「あ、パパあきと!」
突然雪啼が声を上げて商店街の一角を指差す。
日翔が? と辰弥が雪啼の指の先を見ると、確かにそこに日翔がいた。
「……八谷?」
日翔は一人ではなかった。
彼の目の前に一人の女性――渚がいる。
二人は親しげに会話をしているようだったが、日翔の手には見覚えのある紙袋が握られている。
あの紙袋、処方薬の袋じゃん、と辰弥はすぐに気がついた。
自分も渚から
だが、日翔が手にしている袋は辰弥が渚から受け取っている袋より遥かに大きく、薬の処方量がかなり多いことを示している。
(……なんであんなに。
そう思いながら観察していると二人は話が終わったのか互いに手を振り、それぞれの方向に歩いていく。
追いかけるか、と辰弥は迷った。
どういうことかと問いただしたい。だが、今ここには雪啼がいる。
雪啼は一日遊んだことで疲れているのか少しぐずりそうな様子を見せており、このまま連れ回すのは得策ではない。
仕方ない、一回帰るかと辰弥は雪啼の手を引き、自宅に向かって歩き出した。
辰弥と雪啼が帰宅した時、日翔はまだ帰宅していなかった。
雪啼が眠たそうにしていたため寝かしつけ、寝息を確認してから冷蔵庫のホワイトボードに「買い出しに行くから雪啼をよろしく」と書き置きを残す。
外に出て、辰弥は一瞬「なんでこんなことを」と考えた。
日翔が渚から大量の薬を受け取っているからといって自分に何か影響はあるのか? 自分に何か不具合はあるのか?
そんなものは存在しない。自分は自分、日翔は日翔である。
だがそれでも気になってしまうのは何故だろうか。
基本的に辰弥は他人の人生には不干渉である。
それは自分の人生、どのようなものであったか分からずとも踏み込まれたくないという理由からである。
他人の人生に踏み込むということは同時に自分の人生に踏み込まれる覚悟をしなければいけないのに何故か日翔のことが気になる。
日翔は何かしらの病気を抱えているというのか。それともあの馬鹿力を維持するために医師が処方しなければいけないほどのサプリメントが必要だというのか。
辰弥の足は自然と渚が経営する診療所に向かっていた。
診療時間外ではあったが玄関は開いており、そのまま中に入る。
「あらー鎖神くん、どうしたの?」
辰弥が診察室に入ると、渚がビーカーに入れたコーヒーを手に笑んでみせた。
相変わらず、コーヒーはビーカーで飲むのかと思いつつも、辰弥は無言で患者用の椅子に座る。
「どうしたの? お腹壊した?」
「……いや、」
歯切れ悪く、辰弥が呟く。
「……さっき、あんたが日翔と一緒にいるのを見た」
辰弥がそう言った瞬間、渚の顔から笑みが消える。
真顔に戻った渚がビーカーをデスクに置く。
「あら、見てたのね」
うん、と辰弥が頷く。
「……日翔、薬の袋を持ってたけど、何か飲んでるの?」
ええ、と渚が頷いた。
「そりゃあ処方された薬があれば飲むでしょ」
「なんの薬?」
思わず、辰弥はそう尋ねていた。
日翔は何らかの薬を処方されている、それだけで十分のはずだ。
だが、それでも辰弥は尋ねていた。
ちくり、と彼の胸の奥が痛む。
嫌な予感が彼を支配する。
辰弥の質問に、渚は首を横に振った。
「それは答えられないわ。守秘義務があるもの」
想定できた答え。
医者が家族以外に、いや、家族であったとしても患者のことをペラペラ話すはずがない。
どうして渚が答えてくれると思ったのだ、と辰弥は自分を恨んだ。
聞くなら日翔本人にだろう、と。
――いや、日翔も答えない。
日翔に秘密の一つや二つあることくらい分かっている。
いくら辰弥が家族同然の付き合いであったとしても言いたくないことは言わないだろう。
だから、もしかすると渚が教えてくれるのではと期待したのではなかったのか。
「……俺だって、知る権利くらいある」
「ないわよ」
渚が即答する。
「勘違いしないで。わたしと鎖神くんの関係でも、日翔くんの個人情報は教えられない。それに――」
そこまで言ってから、渚が組んでいた脚を組み直す。
「わたしは鎖神くんのことを二人には伝えていない。それと同じことよ。日翔くんのことを鎖神くんに伝えることはできない。どうしても知りたいというのなら、日翔くん本人の口から聞きなさい」
「厳しいな」
辰弥が思わずそうこぼすと、渚は「そりゃそうでしょう」と答える。
「個人情報保護法なめちゃダメよ。それにアライアンスは特に個人情報にはうるさいわよ、メンバーのことをペラペラ喋れるわけないじゃない」
それはそうだ、と辰弥も同意した。
アライアンスのメンバーはそれぞれにそれぞれの秘密がある。それを垂れ流しにして幸せになる人間がいるはずがない。
ごめん、と辰弥は謝罪した。
「いいのよ。そりゃ見た目あんな日翔くんが薬処方されてるとか知ったら気にならない方がおかしいもの。でもごめんね、わたしの口からは言えない」
「……そうだよね。でも、これだけも聞いちゃダメかな……。日翔は病気なの?」
せめて、これだけでも情報が欲しいとばかりに辰弥が尋ねる。
だが、その質問に対しても渚は、
「それも日翔くん本人に聞きなさい」
と突っぱねた。
「……分かった、日翔に聞く」
そう言い、辰弥は立ち上がり、診療所を後にした。
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