Vanishing Point 第4章
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惑星「アカシア」
そこで暗殺者として裏社会で生きる「グリム・リーパー」の三人は
ある日、
そんな折、「とある企業の開発サーバを破壊してほしい」という依頼を受けた三人は辰弥の体調とサーバの置かれる環境を考慮し
潜入先で、サーバを破壊したものの幾重にも張り巡らされたトラップに引っかかり抗戦する二人。
敵は
しかし、脱出した日翔が辰弥の回収ポイントで目にしたのは、意識を失い倒れる彼の姿であった。
いつもより大量の輸血を受けて回復した辰弥に安堵する一同だったが、その裏では
依頼が終わり、いつもの生活に戻った
その結果、本来ならアライアンスが受けるはずのない
ある日、
一緒に行こうと誘う日翔だったが、
駅に向かう道中、
そこで、辰弥は数人のチンピラに絡まれ、交戦することになってしまう。
チンピラの攻撃を的確にかわし、確実に仕留めていく
一度は相手に背後を取られるもののどこからか飛んできた攻撃に助けられ、彼は全てのチンピラを排除することに成功する。
そのまま駅に向かい、電車に乗る。
電車を乗り継ぎ、
「うわー!」
エターナルスタジオ駅からESOまではほぼ直通である。
改札を抜ける前から聞こえてくる歓声に雪啼が目を輝かせ、それから辰弥の手を引く。
「パパ、早くいこ!」
うん、と辰弥も歩き出す。
エントランスでチケットを見せてスタジオパスを受け取り、園内に入る。
「すごーい!」
園内の様々なアトラクションに、雪啼が大はしゃぎで周りを見る。
彼女が手を振りほどいて迷子にならないようにしっかりと手をつなぎ、二人で園内をまわる。
雪啼がまだ五歳児で、身長も百センチあまりということで絶叫系やVR系のアトラクションは無理だが、メリーゴーラウンドやティーカップといった子供向けの定番アトラクション、他にも様々な映画のワンシーンを模したスタジオアトラクションの一部は入場できるだろう。
「雪啼、どれに乗りたい?」
雪啼の手を引き、辰弥が尋ねる。
「んー、お馬さん!」
煌びやかな装飾のメリーゴーラウンドを指差し、雪啼が辰弥の手を引っ張る。
「オーケー、それじゃメリーゴーラウンドから乗ろう」
「楽しみ!」
そんな会話をしながら、二人はメリーゴーラウンドを楽しみ、それからいくつかのアトラクションを楽しむ。
昼食は園内レストランの少し高めのファミリー向けコース料理を頼み、ESOで扱っている映画のキャラクターの着ぐるみと記念撮影を行う。
「はーい、パパさんも笑って笑って!」
映画のキャラクターのコスチュームを身に纏った
「プリントアウトしたものは後ほど、カウンターでお渡しいたします。データは今お送りいたしますね」
キャストの言葉と共に、アドホック通信で写真データが転送されてくる。
転送された写真データをGNSの写真フォルダに保護設定を付与した上で保存し、辰弥は嬉しそうに自分を見上げる雪啼を見た。
「よかったね、キャスターウッズと写真撮れて」
ヨタヨタと立ち去るビーバーの着ぐるみを見送りながら辰弥が雪啼に声をかける。
「キャスターウッズ、もふもふ」
雪啼が満足そうに着ぐるみからもらったぬいぐるみを抱き抱えて顔を埋める。
桜花国でも人気の
やはり記念撮影オプションの付いたコースにしてよかったと思いつつ食事を済ませる。
(来れて、よかった)
本当のところ、辰弥もESOに来るのは初めてだった。
アトラクションがとてもいいと聞いて興味は持っていたが日翔や鏡介、男三人で来る場所でもないしそもそもこのような場所とは無縁の生活を送っていた。
それが、雪啼を保護したことによって、身長制限はあるもののこうやってアトラクションを楽しむことができるとは。
自分が楽しみすぎて雪啼を迷子にするわけにはいかないが、それでも辰弥はESOを楽しんでいた。
過去の自分がどのようなものであれ、今この瞬間を楽しむことができるのならそれでいいじゃないか、と。
楽しい時間は瞬く間に過ぎていく。
いくつかのアトラクションをファストパスを利用したり並びつつも回っていると、園内で昼の部のパレードがもう直ぐ始まるというアナウンスが流れてくる。
「パレードだって! パパ、行こ!」
様々な映画のキャラクター扮したエンターテイナーが練り歩くパレード、CM等でチラッと見ているだけに二人とも興味はあった。
それじゃ、いい場所取らなきゃね、と辰弥が雪啼の手を引く。
パレードのルートは分かっているのでその中でもより見やすいと言われているポイントに向かって歩いていく。
所々にキャラクターの着ぐるみやキャラクターに扮したキャストが現れては来園者と写真撮影を行ったりノベルティを配布していたりする。
「……あ! バギーラガール!」
突然、雪啼が通路の一角を指差して叫ぶ。
そこには蜘蛛の巣を模したコスチュームを身に纏った女性が来園者に向けて
空を見上げればいつでも見ることができる
辰弥はこの手の映画にはそれほど詳しくなかったが日翔が『バギーラガール』をはじめとするヒーローものアクション映画が好きで、大画面で見たいと時々サブスクリプションの動画サービスをTVで見ているため雪啼もそれなりに詳しくなったらしい。
そんなバギーラガールが周りに飛ばしているストリングスプレーに興味を持ったのだろう、雪啼が突然辰弥の手を振り解いて走り出した。
「あ、雪啼!」
咄嗟に辰弥が叫び、手を伸ばす。
だがその手は空を切り、雪啼はそのままバギーラガールに向けて駆け出す。
そのタイミングでバギーラガールも次の場所に移動し始めていた。
まずい、と辰弥が走り出す。
いくら雪啼が素早くとも子供である。辰弥が追いかければ振り切ることはできない。
だが、走り出した辰弥の足が止まる。
「く――」
唐突に自分を襲った眩暈に、辰弥がよろめく。
(このタイミングで貧血!?!?)
心当たりはある。あのチンピラとの戦闘だ。
あれで予定外の血が流れた。
霞む視界から雪啼の姿が消えていく。
「雪啼!」
もう一度叫び、辰弥が貧血を吹き飛ばすかのように首を振り、一歩踏み出す。
眩暈は一過性のもので、すぐに視界がクリアに戻る。
しかし、その頃にはすでに雪啼の姿はどこにもなく、パレードを見るために集まった来園者を整理するためのキャストがロープを手にルートを作り始めていた。
「……雪啼……」
はぐれた、と認識するのにそう時間はかからなかった。
まずい、探さないと、と辰弥がGNSのアプリから位置情報を呼び出す。
万一はぐれた時のためにGPS発信機は雪啼に持たせていたため場所はすぐに特定できた。
ところが、間の悪いことに目の前はパレードのためのルートが作られてしまい、最短距離で追いかけることができない。
迂回して探さないと、と辰弥はマップと周りを見てルートを算出した。
雪啼の移動ルートを考えれば、あの通路を通れば追いつける、そう自分に言い聞かせ走り出す。
人通りのあまりない通路を駆け抜け、雪啼の姿を探す。
……と、唐突に辰弥はなんとも言えない衝動に襲われた。
それは欲情するような感覚にも、耐え難い空腹にも近く、何かを身体が求めているのだとすぐに気づく。
――今は、それどころじゃない!
この衝動は初めてではない。
何度も経験しているが、ここ暫くは落ち着いていると思っていた。
それなのに、どうして突然。
そより、と空気が流れる。
その空気が澱み、ある種の生臭さを孕んでいることに気づく。
――血の匂い?
嗅ぎ慣れた匂いだから分かる。これは、血の匂いだ。
まさか、この匂いに当てられたというのか。
いや、それ以前にこんな場所で血の匂いなど、するはずがない。
気のせいだ、「この衝動」に襲われたから血の匂いがすると錯覚しているだけだ。こんなところに血を流した死体などあるわけがない。
周りを見ても、あるのはゴミ箱だけで死体など影も形もない。
とにかく、雪啼を見つけないと、と辰弥は自分を叱咤し通路を抜けようとした。
その瞬間、背筋をぞっとするような感覚が走り抜ける。
殺気だ、と認識する前に辰弥は振り返り、背後を見る。
日翔に隠して持ってきたバタフライナイフはあのチンピラとのやり取りで手放してしまい、今は完全な丸腰。
先手を取って一気に肉薄し、
殺気が飛んできた方向の物陰、人の気配がするその場所に駆け出し、遮蔽物を軽業で乗り越える。
が、そこにいたのは先程戦ったチンピラではなく、それ以上の戦闘員でさえなく、見覚えのある白い髪の少女だった。
「……雪啼」
「わ、パパ」
ほっとしたように、辰弥が全身の力を抜く。
そこにいたのは雪啼だった。
キャスターウッズの着ぐるみからもらったぬいぐるみを手に、辰弥を見ている。
一瞬、辰弥の心臓が高鳴り、先程から感じている衝動が一際強く全身を駆け巡るがそれを振り切り、彼は雪啼に駆け寄った。
雪啼の方は、驚きの表情よりも残念そうな表情が勝って見えるのは、何か驚かすつもりだったのだろうか。
そうするとさっきの殺気は何かの勘違いか? 勘が鈍ったかな、と首を傾げる辰弥。しかしそれ以上に思考が発展するより早く。
「パパ!」
雪啼が辰弥に飛びつく。
その瞬間、ふわりと嗅ぎ慣れた匂いを感じた気がしたが辰弥はそれよりも雪啼を見つけたことに安堵してすぐに忘れてしまう。
軽く雪啼の全身を見て怪我などがないことを確認し、辰弥は深く息をついた。
「雪啼、急に走ったらダメじゃないか」
探したんだから、と咎めると雪啼は「んー?」と首を傾げた。
「でも、パパもせつなもここにいるよ?」
「それはそうだけど……」
それでも何かあった場合、本当の家族が見つかった時に申し訳が立たない。
「勝手に手を離して走っちゃダメ、いい?」
「走っちゃダメ」
雪啼がそう繰り返し、辰弥が小さく頷く。
「怖い人に連れて行かれるかもしれないからね、勝手にどこか行っちゃダメだよ」
「……うん」
雪啼も反省したのか、少しだけしゅん、としている。
「よし、じゃあ約束だよ」
「うん、かってに走らない」
偉いね、と雪啼の頭を撫で、辰弥は彼女の手を握った。
「じゃ、時間あるからもうちょっと遊ぼう」
気を取り直して辰弥がそう言うと、雪啼も嬉しそうに大きく頷いて彼の手をぎゅっと握……。
「あ、なんかナイフ投げしてる」
ることなく、どこかに歩き出した。
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