Vanishing Point 第4章
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惑星「アカシア」
そこで暗殺者として裏社会で生きる「グリム・リーパー」の三人は
ある日、
そんな折、「とある企業の開発サーバを破壊してほしい」という依頼を受けた三人は辰弥の体調とサーバの置かれる環境を考慮し
潜入先で、サーバを破壊したものの幾重にも張り巡らされたトラップに引っかかり抗戦する二人。
敵は
しかし、脱出した日翔が辰弥の回収ポイントで目にしたのは、意識を失い倒れる彼の姿であった。
いつもより大量の輸血を受けて回復した辰弥に安堵する一同だったが、その裏では
依頼が終わり、いつもの生活に戻った
その結果、本来ならアライアンスが受けるはずのない
ある日、
一緒に行こうと誘う日翔だったが、
駅に向かう道中、
そこで、辰弥は数人のチンピラに絡まれ、交戦することになってしまう。
チンピラの攻撃を的確にかわし、確実に仕留めていく
一度は相手に背後を取られるもののどこからか飛んできた攻撃に助けられ、彼は全てのチンピラを排除することに成功する。
だが、途中で雪啼が辰弥の手を振りほどいて走り出し、追いかけようとした辰弥も貧血を起こし、雪啼を見失ってしまう。
日翔は
「日翔、話がある」
夕食後、雪啼が「一人で遊ぶ」と自室に戻ったことで辰弥はチャンスとばかりに日翔に声をかけた。
「ん? どうしたんだ?」
改まった様子の辰弥に、日翔が首を傾げながら辰弥の向かいに座る。
「……日翔、俺に隠してることない?」
ほぼ、単刀直入の質問。
日翔は「あちゃー」と言いたげな顔で辰弥を見た。
「そりゃー隠し事してないと言えば嘘になるが」
「何隠してんの」
辰弥の質問に、日翔は「こいつ、マジだ」と震え上がった。
この質問の方法だと、辰弥がどの秘密について把握しているかが把握できない。
下手に白状すれば「そんなことまで隠してたの?」と詰められることは必至である。
こいつ、尋問もうまいもんなあと思いつつ日翔は何を話すべきかと考え始めた。
無難なところで逃げるか、だが別の案件だった場合追及は激しくなる。
そう、考え込んでいると辰弥が小さくため息をついた。
「そんなにも隠してるの? ちなみにベッド下のエロ本については秘密とか言わないでほしい」
「うへぇ」
――それ、バレてんですか。
いやまぁそこまで隠すほどのものじゃないとは思ってたがと思いつつも日翔は暫く考え、それから両手を上げた。
「すまん、俺も言えることと言えないことがある。具体的に何について聞きたいか聞いてくれた方がありがたい」
「……」
日翔の発言に辰弥の眉が寄る。
言うべきか言わざるべきか、そう考えているだろう辰弥に日翔はどんな爆弾が投下されるのかと固唾を飲んで見守る。
「……さっき、君が八谷と喋ってるのを見た」
「うげぇ」
あれ、見られてたの? と日翔が呟く。
が、すぐに気を取り直して小さく頷く。
「ああ、買い出ししてたらばったりと」
「嘘つかないで」
即座に釘を刺され、日翔が内心悲鳴を上げる。
――やばい、これは状況次第では殺される。
というよりも、とうとう話す時が来たのか、と覚悟を決める。
「八谷から大量に薬を処方されてるみたいだけど、」
「……あ、ああ」
これは素直に頷くしかない。
日翔が頷くと、辰弥は少しだけ沈黙し、それから再び口を開く。
「単刀直入に聞くよ。日翔、病気なの? それも大量の薬が必要なほどの難病」
「……」
単刀直入にも程があるぞと日翔は心の中で両手を上げた。
覚悟を決めたつもりだが、こうもズバリと言われると決心が揺らぐ。
だが、だからといって病気じゃないと嘘をつくこともできず、全てを話すしかないと改めて自分に気合を入れる。
辰弥に打ち明けなければ、そう口を開きかけるものの、日翔はどう切り出していいか分からず何度も口をパクパクさせた。
そのまま、沈黙が二人の間を満たす。
辰弥も催促することなく、日翔が話し出すのを待っていた。
その途中で一度席を立ち、ココアを淹れる。
そのココアを一口飲み、日翔は大きく息を吐き、それから思い切ったように口を開いた。
「お前の推測通りだ。国の指定難病に指定されているやつだ」
「……」
日翔の言葉に、辰弥が一瞬天井に視線を投げ、それから息を吐く。
――否定して欲しかった。
いや、病気であることは認めてもらいたかったが、国の指定難病までは聞きたくなかった。
ただ、一過性のもので、治療すればすぐに治ると聞きたかった。
だがここまで聞いた以上、より詳しく聞く必要がある。
「国の指定難病って……何なの」
指定難病にも複数の種類がある。
日常生活を送ることができているからそこまで厄介なものではないだろう、そんな淡い期待を寄せつつも辰弥はそう尋ねた。
「
「……え、」
辰弥が絶句する。
嘘だ、という言葉が脳内を駆け回る。
そんなはずがない。
ALSは運動ニューロンが障害を受け、筋肉に信号が伝達しない、つまり体を思うように動かせなくなる病気である。
いくらその診断を受けていたとしても、診断を受けるころにはある程度症状が進んでいるわけで、健常者と同じように活動ができるはずがない。
今の日翔は、人並みどころか人並み以上の動き、常人にない怪力で「仕事」をこなしている。
そんな彼がALSであるはずがない。
確かに、昔に比べて症状の進行を遅らせる薬は次々開発されており昔は診断を受けてからの生存は二~五年と言われていたが今では十年近く生きることができると言われている。
それでも完治は見込めず、生存するためには全身を義体化するしか方法はない。
ということは日翔は義体? と辰弥は一瞬考えたがすぐに否定する。
そもそも義体化していたのなら服薬の必要はなく、通信もCCTではなくGNSを使っているはずである。
そう考えると日翔は本人の申告通り生身。
今の動きを考えると、診断はごく最近ということか。
「……いつ発症したの」
そう、尋ねる辰弥の声がわずかに震えている。
「あー……俺が十五の時だからもう六年前か」
「……嘘……だよねそれ」
思わず辰弥がそう呟く。
日翔の言葉が信じられない。
発症から六年だと、服薬していたとしてもかなり進行しているはずである。
人工呼吸器が必要になるレベルではないにせよ、日常生活にかなりの支障が出るはずだが。
「……なんで、普通に生活できるの」
「いやー……最近結構辛いぞ?」
日翔の言葉に先日のダウナーだと言っていた彼を思い出す。
あれは気分が落ち込んでいたというのではなくて、症状が進行したが故の不調だったのか。
それでも、普段の生活と馬鹿力だけはどうしても説明がつかない。
どういうこと、と辰弥はさらに追及した。
「本当のことを教えて。百歩譲ってALSが本当だとしても、どうして普通に生活できてるの」
「……」
そこで、日翔が沈黙した。
言わなければいけない、だがどう説明すればいい、と迷っているのが辰弥にも感じ取ることができた。
暫く沈黙していた日翔が息を吐く。
「……俺な、
「な、」
今度は辰弥が沈黙する。
インナースケルトンは聞いたことがある。
初期の義体が開発された頃と同時期に使用されていた、体外に装着する強化外骨格ではなく体内に埋め込むタイプのスケルトンが存在した、と。
ただし、インナースケルトンは現在一般的に使用されていない。いや、規制されてかなりの期間が経過している。それも数年という単位ではない。
だが、同時に納得もする。
インナースケルトンは
今までの日翔の怪力は全てインナースケルトンによるものだったのだ、と辰弥は理解した。
元々はALSの進行を服薬で抑えつつ運動ニューロンの障害をインナースケルトンで補助し健常者と変わらない動きができるようにしていた、というところだろう。
だが疑問も残る。
インナースケルトンは何十年も前、日翔がALSを発症するよりもかなり前、それどころか生まれる前に規制されている。
その理由が血液やリンパ、果ては免疫細胞の攻撃により体内に埋め込んだスケルトンを構築する金属が溶け出し重篤な健康被害を引き起こすからである。
見た目は生身のままで普通に生活できる補助装具として注目されていたインナースケルトンだったがこの問題により規制された。また、その頃にはGNS制御の新型義体も流通を始めており、インナースケルトンの需要は無くなっていたはずだ。
それなのに、日翔は規制されているインナースケルトンを導入しているという。
「……義体化すれば何も問題はないはずなのに、って思ってるだろ」
沈黙してしまった辰弥に、日翔が自嘲気味に笑いながら呟く。
「それは、まあ」
どうせ義体にできなかった理由があるんだろう、と思いつつも辰弥が頷くと。
「
なるほど、と辰弥が頷く。
生身を捨てて義体に置き換えると、全身の血液は
一部の人間はこのホワイトブラッドが許容できずにいかなる理由があっても義体化しない反ホワイトブラッド派となっている。
日翔の家も、そうだったというのか。
そして、反ホワイトブラッドゆえにALS克服のための義体化を行うことができず、規制されているインナースケルトンを密かに導入したのか。
規制されているとはいえ、インナースケルトンは外見を変えずに自身を強化することができるという利点がある。
また、インナースケルトンは義体扱いにならないため、義体お断りの施設にも出入りできるという次第である。
そのため、インナースケルトンは闇市場で密かに出回り、専用の技師も裏社会の人間として存在する。
「……君の親、案外キナ臭いことやったんだね」
「そうだな」
日翔が素直に認める。
「まぁ、その結果闇金に多額の借金して、返済できずに
「……え」
そうだ。
いくら日翔が裏社会の人間によってインナースケルトンを導入したとしても裏社会で生きる理由にはならない。
本来ならインナースケルトンを導入しただけの一般人として生きていたはずなのになぜ暗殺者になったかと聞く前に答えが返ってきた。
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