Vanishing Point 第5章
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惑星「アカシア」
そこで暗殺者として裏社会で生きる「グリム・リーパー」の三人は
ある日、
そんな折、「とある企業の開発サーバを破壊してほしい」という依頼を受けた三人は巧妙に仕掛けられた罠にかかったものの依頼を完遂する。しかし
そんな折、
チケットを譲り受けた辰弥は雪啼を連れて遊びに行くが、それは日翔が仕組んだものだった。
帰宅の際に日翔が
普段の怪力はそのALSの対症療法としてひそかに導入していた
ある日、
それにより軽傷を負うものの雪啼を叱った辰弥のもとに、通信が入ってくる。
通信の主は
ESOで発生した吸血殺人の容疑者として、鏡介は辰弥に疑いの目を向ける。
辰弥は自分のことを
前回の依頼で
「……というわけで今回の依頼は工場に侵入して試作品のスパイル・アーマメント破壊、設計図削除でーす」
やや投げやりな口調で辰弥がそう宣言する。
うわあ、やさぐれてんなあと日翔が自室で呟いたが、その言葉はばっちり辰弥の聴覚に届いている。
「これがやさぐれなくてどうしろっての。あ、スパイル・アーマメント破壊した後なら工場は爆破してもいいってさ」
《まあ、確実性を上げるためだろうな。ただ派手にやりすぎると
データチップの情報を解析しながら鏡介が補足する。
彼もまた、辰弥が荒れているという認識を日翔と同じく持っていた。
無理もない、辰弥の頬には一枚の湿布が。
氷で冷やすのがめんどくさい、と冷感湿布を貼っているからだがその原因は鏡介である。
閉店後の『白雪姫』で鏡介は辰弥に一発お見舞いした。
普段なら避けられるか腕を掴まれて終わりだが、あの時に限り辰弥は素直に殴られた。
もしかすると「他人に心配をかけること」に対しての罪悪感というものを覚えたのかもしれないがそれでも今この場でやさぐれていては学習の意味を問いたくなってくる。
《おい辰弥、いつまでも拗ねてるんじゃない。お前はガキか》
鏡介がそうたしなめると、辰弥は「むぅ」と頬を膨らませた。
「拗ねてなんかないし。子供じゃないし」
《バッチリ拗ねてんじゃねーか。鏡介が辰弥を殴るのも珍しいが素直に辰弥が殴られるのも珍しいぞ。明日
そもそも
現在は御神楽財閥有するカグラ・スペースが除去を行うため地上に降り注ぐことはほぼ起こらないが、それでも誰かが普段やらないような行動を取った時などは珍しいことのたとえとして「光輪雨が降る」と表現される。
西洋化の影響で光輪の事をバギーラ・リングと呼ぶのが一般化している今も、バギーラ・レインと呼ばれず光輪雨と呼ばれ続けているのは概ねこの有名な慣用句が原因だろう。
なお、御神楽が財閥として世界の覇権を握ることとなった光輪雨の除去開始を記念して、この年を現行の紀元の
ちなみに今年はP.B.R.三五九年であり、一部の人間からは「御神楽が世界を支配し始めてそれだけ経過した」とも言われている。
それはそうと、三人の中では割と学がないと言われがちな日翔であるが、光輪雨程度の慣用句は普通に口にするらしい。
辰弥がさらに頬を膨らませ、黙りこくる。
《ああ、もういいからさっさと打ち合わせを済ませよう。今回のターゲットは『
《うっわ、めんどくさ。設計図は鏡介が消せるとしてもスパイル・アーマメントの破壊か……どうせ警備とかきっついんだろ?》
日翔がそうぼやいたのは最近は義体を装着せずともスパイル・アーマメントの
義体は身体の部位を丸ごと置き換えるもの。軍用のものにもなれば単に一部位を置き換えただけでも全身の血液を
一応「荒巻製作所」は中小企業とは聞いていたがスパイル・アーマメントの開発は各社こぞって行う企業戦争の火種、ましてやメガコープの下請けだろうと推測されているのでそうだった場合元請けから強化された警備員くらい派遣されているだろう。
「しかし、スパイル・アーマメントか……」
人体強化手段の一つとして最近注目されているスパイル・アーマメントは義体に接続、または生身であったとしても脊髄に接続することで装着者の身体能力を大幅に向上させる。
義体に接続するタイプは単なる拡張パーツに過ぎないが、脊髄に接続するタイプは人体に多大な負担を強いるため余程生身にこだわった戦闘狂でない限り真っ当な人間は接続をためらうくらいである。
それでも現時点でそれなりに流通しているのは
そのため、義体より安価なスパイル・アーマメントは少しでも力を付けたい、一攫千金を狙う人間がこぞって手を出し、そして破滅していく。
日翔が極秘裏に導入した
スパイル・アーマメントが危険な理由――それは人体にかかる負担の種類である。
スパイル・アーマメントは脊髄に直結するため、神経を直接触ることになる。
この「触る」というのは「手で触れる」という意味ではなく、「スパイル・アーマメントが掌握する」という意味合いが強い。
神経を掌握したスパイル・アーマメントはそこから
しかし脳にかかる負担はとても大きく、スパイル・アーマメントの機能を発動する代償として装着者は
だがそれも一時的なもので、やがて抑制剤が効かなくなった装着者は廃人、通称「
今回の依頼、そんな危険な代物であるスパイル・アーマメントの試作品を破壊する、というものであるが依頼人にはいったいどのような意図があったのだろうか。
単純にメガコープの企業間戦争の鉄砲玉に使われるスパイル・アーマメントを破壊することで相手の戦力増強を妨害するためなのか、それともスパイル・アーマメントは危険だから抹消すべしという過激な正義感ゆえの依頼なのか。
茜はメガコープの介入を明言しなかったが、それは恐らく依頼者が完全にメガコープの人間だと断言できなかっただけだろう。
そのため、メガコープの息がかかっていると想定して動いた方が無難、ではある。
はぁ、とため息をひとつ、辰弥は鏡介が展開した工場の見取り図を見た。
「……あのさ、」
やや、ためらいがちに口を開く。
《どうした?》
日翔の言葉に、辰弥はもう一度息を吐き、それから、
「今回の依頼、日翔をメインから外せない?」
そう、提案した。
《は?》
唐突な辰弥の言葉に日翔が素っ頓狂な声を上げる。
《外す、ってどういうことだよ!》
外されたら報酬減る、とわめく日翔に辰弥が違う、と否定する。
「あくまでもメインから外すだけで後方待機、報酬はいつも通り三分割でいいよ」
《辰弥、お前……あの事を》
鏡介も事態を察したのだろう、そう呟く。
「まぁ、そうだね。今回の依頼、破壊だけなら俺一人でもなんとかできそうだし警備だって後ろから殺れば戦闘にはならない、だろ?」
《まぁそれはそうだが》
日翔が頷くが、心の中では「あんのやろう」と憤っていた。
辰弥が自分を後方待機にしたいと言い出したのは確実にALSのことを知ったからである。
そうでなければそんなことをいう理由がどこにも見当たらない。
大体、今までは一人でも侵入できそうな依頼であっても万一に備えて二人で侵入してきたのだ。今更「病気だから」という理由で外されたくない。
《俺は別に問題ないぞ。むしろ辰弥お前の方が倒れがちだから後方待機するならお前の方だろ》
日翔の言葉が辰弥の聴覚に届く。
「バカ言わないで。最近『調子悪い』と昼寝増やしてるのを俺が知らないと思ってんの?」
《う……》
通話の向こうで日翔が言葉に詰まる。
《それは、まあ……》
「俺は大丈夫。それに単独潜入には慣れた方がいいと思うし」
辰弥のその言葉の向こうに隠された意味。
――俺がいなくなっても『グリム・リーパー』を変わりなく稼働させるつもりか。
辰弥の意図が、なんとなく伝わった気がしてそれなら、と日翔が頷く。
《分かったよ、それなら俺は後方待機させてもらう。何かあったらすぐ駆けつけるからな》
うん、と辰弥が頷く。
《辰弥、お前気にしすぎだぞ。日翔は――》
「分かってるよ、別に日翔の境遇に同情してとかそんなのじゃない」
鏡介の言葉を遮り、辰弥ははっきりと言い切った。
「日翔がインナースケルトンで健常者と同じように動けるならそれでいい。だけど最近調子悪そうなのは事実。だから今回は様子見で」
《……分かった。お前がそう言うならそれを信じよう》
そう言いながら鏡介がキーボードに指を走らせ、見取り図にラインを引く。
《現時点で想定されるセキュリティとそのセキュリティを最低限に回避した予定侵入ルートだ。辰弥単独ならルート選定は単純でいい》
中肉中背の日翔に比べて小柄な辰弥は遮蔽の選択や機敏さを利用したセキュリティの回避に強い。
そのため、日翔前提での侵入経路ではなくより確実に目標に到達できる経路を選択することができる。
ありがとう、と辰弥が自分のGNSに侵入経路を保存する。
「不安要素は警備周りか。
《メインフレームに警備のリンクは構築されていないようだな。もしかすると警備員自体置いてないかもしれない。あくまでも楽観的推測だがな》
了解、と辰弥が頷く。
「とりあえずこっちは侵入シミュレーションしておくよ」
日翔とは違い、GNSを利用した
以前から日翔と侵入する時でも万一に備えたシミュレーションは行っていたが、今回は辰弥の単独侵入になるためより精度の高いシミュレーションができるだろう。
分かった、と鏡介がさらにPCを操作し辰弥に詳細なデータを転送する。
《いくつか想定できるシチュエーションデータを用意した。使えるなら使ってくれ》
決行は
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