Vanishing Point 第11章
分冊版インデックス
11-1 11-2 11-3 11-4 11-5 11-6 11-7 11-8 11-9 11-10 11-11 11-12
惑星「アカシア」
そこで暗殺者として裏社会で生きる「グリム・リーパー」の三人は
ある日、
依頼を受けては完遂していく三人。しかし
警戒はしつつも、雪啼と
その後に受けた依頼で辰弥が
まずいところに喧嘩を売ったと思うもののそれでも依頼を断ることもできず、三人は「サイバボーン・テクノロジー」からの要人護衛の依頼を受けることになる。
しかし、その要人とは
最終日に襲撃に遭い鏡介が撃たれるものの護衛対象を守り切った三人は鏡介が内臓を義体化していたことから彼の過去を知ることになる。
帰宅してから反省会を行い、辰弥が武器を持ち込んだことについて言及されたタイミングで、御神楽
「それは貴方が
確保するという久遠に対し、逃走する辰弥。
それでも圧倒的な彼女の戦闘能力を上回ることができず、辰弥は拘束されてしまう。
拘束された辰弥を「ノイン」として調べる
連絡を受けた久遠は改めて辰弥を調べる。
その結果、判明したのは辰弥は「
「一般人に戻る道もある」と提示する久遠。しかし、日翔たちの元に戻りたい辰弥にはその選択を選ぶことはできなかった。
辰弥が造り出された生物兵器と知った日翔と鏡介。しかし二人は辰弥をトクヨンの手から取り戻すことを決意する。
激しい戦闘の末に二人は辰弥の救出に成功、鏡介が「コマンドギア」と呼ばれた兵器を強奪して逃走を開始する。
追手の多脚戦車を撃破し逃走を続ける三人だが、久遠は三人の確保のためにコマンドギア部隊を投入することを決意する。
久遠によって放たれた追手と交戦する鏡介。
武装に不安を覚えるが、
相手はプロの戦闘員。このままでは勝ち目がないと判断した鏡介はコマンドギアのリミッターを解除する。
相手との読み合いに勝って一機撃破する鏡介。連携を取り攻撃してくる相手に対し、鏡介はかなりの無理をしつつも抵抗する。
二機目を撃破する鏡介だが、何か無理をしていると気づく辰弥。
このままでは鏡介が無事では済まない、と考えた彼は鏡介も助け、なおかつ逃げ切るための勝機を作ると宣言する。
久遠の単分子ナイフが首に迫る。
これを受けるわけにはいかない、と鏡介は強引にのけぞった。
同時にサブアームの盾を前面に展開、単分子ナイフが盾を切り裂く。
『右サブアーム、大型防弾盾破損。放棄します』
右のサブアームが切り裂かれて使い物にならなくなった盾を放棄する。
さらに左の盾で返す刃を受け止めようとするがこれもサブアームから切断される。
『左サブアーム損傷。以降、左サブアームを使用することができません』
重量のある盾を二つとも失い、重量配分がおかしくなったヘカトンケイルがよろめく。
各部のパワーアシスト用モーターが姿勢を制御するが、リミッター解除されたヘカトンケイルは必要以上に鏡介を動かし、その勢いでさらに繰り出された単分子ナイフを受け止めてしまう。
右腕に一瞬の違和感。
そこからずるり、と何かがずれる感触を覚え、次の瞬間、それは熱感という感覚で鏡介に襲い掛かった。
「ああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
たまらず、鏡介が絶叫する。
熱い? 違う、これは痛みだ。
右腕の上腕から先の感覚が完全に喪失している。
『右腕部損傷。以降、右腕装備を使用することはできません』
a.n.g.e.l.の冷静なアナウンスが耳に届くが脳がそれを認識しない。
ヘカトンケイルのパワーアシストによって右腕が締め付けられるように圧迫される。
思わず視線が彷徨う。
地面に落ちたヘカトンケイルの腕が見える。
鮮やかに切断された断面から覗く、
事態を理解したことで急速に思考が回復し、転がるように久遠から離れる。
各部のモーターがすぐに態勢を整え、鏡介は距離を開けた久遠ともう一機のヘカトンケイルを見た。
ほんの数秒であったが急激な大量出血に視界が暗く、狭まってくる。
『出血による視界悪化を確認。GNSとデータリンク。視界が回復するまで網膜投影ではなくGNSオーバーレイビジョンとして視界を表示』
即座にa.n.g.e.l.が状況に対応し、視界がクリアになるが、想像を絶する激痛に意識を持っていかれそうになる。
それでもランスを持って突進してくるヘカトンケイルを回避しようと地面を蹴る。
必要以上の負荷をかけられた左脚が悲鳴を上げる。
ブチブチという何かが引きちぎられるような音を耳にした気がするが、それでも横に跳び、ランスを回避する。
横に跳んだ鏡介が着地するも、左脚に力が入らずバランスを崩す。
ヘカトンケイルのパワーアシストで転倒は免れたものの、自分の力で立つことができない。
ランスも単分子ブレードも失い、残された武装は右肩のミサイルランチャーのみ。
追撃しようとするヘカトンケイルを半ば意地でロックオンし、残されたミサイルを全弾発射する。
『右肩、ミサイルランチャー、弾薬ゼロ。パージします』
a.n.g.e.l.のその言葉を聞いた鏡介の全身から力が抜ける。
前方のヘカトンケイルはAWSで制御された機関砲で全てのミサイルを撃ち落とし、さらに鏡介に向けて電磁ネットを放った。
直後、強烈な電撃が鏡介のヘカトンケイルを一時的に動作不能へと追い込む。
鏡介の視界のUIが一瞬のノイズの後、沈黙する。
万策尽きた、と鏡介は一つ息を吐いた。
――あいつらは、逃げ切れただろうか。
日翔が辰弥を連れて脱出できていたなら、レジスタンスと合流できていたなら思い残すことは何もない。
久遠とヘカトンケイルが近づいてくる。
ここまでか、と鏡介が呟く。
走馬灯のように辰弥と出会ってからの四年間の記憶が脳裏をよぎる。
――辰弥、お前は生きてくれ。
たとえLEBであったとしても、せめて、人間らしく――。
そう呟いて目を閉じようとした鏡介の耳に車のエンジン音が届く。
その音に思わず頭を上げて目の前を見る。
そこに、鏡介と久遠たちの間に、一台の兵員輸送車が割り込んでいた。
「な――」
運転席と後部座席のドアが開き、それぞれから日翔と辰弥が姿を現す。
――何故戻ってきた!?!?
鏡介は先に行けと言ったはずだった。
実際、日翔は先に行くことを選択した。
それなのに、どうして戻ってきたのだ。
日翔が辰弥の前に立ち、目の前の久遠たちを止めようとするかのように両手を広げる。
やめろ、と鏡介が言葉を絞り出そうとするが声が出ない。
自分が動かなければ今までの苦労が水の泡になる、と身体を起こそうとする。
しかし電磁ネットの発した電撃で機能停止したヘカトンケイルは一切動く様子を見せない。パワーアシスト無しで体を動かすにはその装甲は重たすぎる。
久遠とヘカトンケイルが二人を捕えようと近寄っていく。
やめろ、と鏡介が辛うじて声を絞り出した時、「それ」は起こった。
日翔が車をUターンさせ、鏡介の元へと急ぐ。
「勝機はあるって、ほんとかよ!」
半信半疑で日翔が辰弥に問いかける。
うん、と辰弥が頷く。
「だけどそれには日翔の協力が必要だ。手伝ってくれる?」
「それは勿論」
その日翔の返答に、辰弥はありがとう、と呟いた。
「あいつらは多分俺と日翔を生け捕りにしようと思ってる。だから、一回だけチャンスがある」
ここで鏡介の名前を出さなかったのはあの状況で鏡介を生かして捕獲することはできないという判断は下されているだろうと考えてのこと。
だから、辰弥は戻ることを決めた。
考えうるたった一度のチャンス、そこで決めれば逆転することができる。
そのために本来なら飲みたくない血も飲んだ。
輸血より時間はかかるが胃から吸収された血が少しずつ全身に回っていく感覚に辰弥は右手の拳を握り締めた。
――できる。
必ず、鏡介も一緒に、三人で帰る。
そこから先のことは考えていないが少なくとも桜花には三人で戻る。
突き進む車の進む先で鏡介が電磁ネットを受け停止したのが見える。
「まずい、急いで!」
日翔も一連の様子は見ていたため、「あいつら、よくも!」と叫びながらアクセルをさらに踏み込む。
間に合え、と祈りつつも辰弥は軽く体を回してウォーミングアップした。
失敗すれば全員捕まる状況ではあるが、大丈夫だ、できると自分に言い聞かせる。
車が鏡介と久遠たちの間に割って入って停まる。
ドアを開け、二人は久遠たちの前に立った。
「あら、助けに来たの」
久遠が意外そうな顔をして辰弥を見る。
「そんなにも三人でいたいのなら、その道はあるって言ってるでしょうに」
「でも、あんたにその道を決められたくない」
思わず辰弥が反論する。
「俺は俺が歩きたい、みんなが歩きたいと思っている道を進む。あんたの指示なんて――」
「でも、一般人に戻れるのよ? もう誰も殺さなくて済むのよ?」
それをどうして、と言おうとする久遠だが、日翔が辰弥の前に立ったことで一瞬口をつむぐ。
「うるせえ、そんなこと言ってどうせ御神楽は辰弥を利用するつもりなんだろ! うまい話があるものか!」
そう言って、日翔が辰弥を、そしてさらにその後ろにいる鏡介を庇うように両手を広げる。
「日翔、十秒稼いで」
辰弥が日翔に指示を出す。
「応!」
日翔が力強く頷き、ここは通さんとばかりに目の前の二人を見る。
「何を――」
どうしてそんなことを言うの、と久遠が呟き、それから隣のヘカトンケイルに指示を出した。
「あの子、何かする気よ! その前に捕まえて!」
久遠とヘカトンケイルが辰弥を捕えようと動く。
そうはさせまいと日翔が真正面から二人に立ち向かう。
それを見て、辰弥は意識を集中させた。
自分が出来うる、最大の攻撃。
イメージするは無数のピアノ線。
本来、これくらいなら日翔に十秒稼いでもらう必要はない。
鮮血の幻影くらいはほぼノータイムで出せる。
しかし、今回は違う。
久遠の義体ですら切り裂く、より精度の高いワイヤーを作り出す必要がある。
もっと細くと辰弥はイメージした。
ヒトの髪と同程度の太さのピアノ線では太すぎる。
もっと細く、もっとしなやかな――。
イメージが固まり、辰弥は地面を蹴った。
「日翔、下がって!」
そう叫びながら全身に指示を出す。
――作り出せ。
全身の造鋼器官を血液が駆け巡る。
変質させた血液を手に集中させる。
――今度こそ、仕留める!
両手を広げる。
――解き放て。
その瞬間、「世界」が切り裂かれた。
「いいね」と思ったらtweet! そのままのツイートでもするとしないでは作者のやる気に大きな差が出ます。