Vanishing Point 第14章
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惑星「アカシア」
そこで暗殺者として裏社会で生きる「グリム・リーパー」の三人は
ある日、
依頼を受けては完遂していく三人。しかし
警戒はしつつも、雪啼と
その後に受けた依頼で辰弥が
まずいところに喧嘩を売ったと思うもののそれでも依頼を断ることもできず、三人は「サイバボーン・テクノロジー」からの要人護衛の依頼を受けることになる。
しかし、その要人とは
最終日に襲撃に遭い鏡介が撃たれるものの護衛対象を守り切った三人は鏡介が内臓を義体化していたことから彼の過去を知ることになる。
帰宅してから反省会を行い、辰弥が武器を持ち込んだことについて言及されたタイミングで、御神楽
「それは貴方が
確保するという久遠に対し、逃走する辰弥。
それでも圧倒的な彼女の戦闘能力を上回ることができず、辰弥は拘束されてしまう。
拘束された辰弥を「ノイン」として調べる
連絡を受けた久遠は改めて辰弥を調べる。
その結果、判明したのは辰弥は「
「一般人に戻る道もある」と提示する久遠。しかし、日翔たちの元に戻りたい辰弥にはその選択を選ぶことはできなかった。
辰弥が造り出された生物兵器と知った日翔と鏡介。しかし二人は辰弥をトクヨンの手から取り戻すことを決意する。
鏡介はトクヨンの兵器「コマンドギア」を強奪し、追撃を迎撃するが久遠の攻撃とリミッター解除の負荷により右腕と左脚を失ったものの、桜花への帰還を果たす。
しかし帰国早々聞かされたのは失踪していた雪啼が吸血殺人を繰り返していることとそれを「ワタナベ」はじめとする各メガコープが狙っていることだった。
包囲網を突破し、雪啼を確保することに成功した辰弥と日翔。
義体に換装した鏡介に窮地を救われたもののトクヨンが到着、四人はなすすべもなく拘束される。
「ツリガネソウ」に収容された四人。改めて一般人になる道を提示されるもすぐに頷けない辰弥。
そんな折、雪啼が監禁場所から脱走、「ツリガネソウ」は混乱に陥る。
その混乱に乗じて監禁場所から逃げ出す辰弥たちだったが、久遠との取引の末一度一般人になってみる条件を飲み、雪啼の追跡に当たる。
しかし、真っ先に雪啼と遭遇した日翔が一瞬の隙を突かれて攻撃され、人質となってしまう。
日翔を救出すると言う特殊第四部隊に対し、自分で助けに行くという辰弥。
議論の末、一時間という制限時間で日翔を救出することという条件で辰弥は単身雪啼の待つ廃工場へと向かう。
廃工場に突入し、雪啼と対峙した辰弥。
日翔を助けるために、辰弥は雪啼の要求を呑もうとする。
雪啼の要求を呑もうとした辰弥だが、雪啼はその約束を破り攻撃する。
辰弥は咄嗟に日翔を庇おうとするが、日翔は日翔でその怪力に任せて辰弥を庇い、刺されてしまう。
「辰弥!」
やめろ、と日翔が叫ぶ。
「日翔は黙ってて! あと下がって!」
P87を連射しながらも辰弥は継続輸血装置の流量を最大に引き上げる。
久遠の言葉が正しければ最大流量で、持ち込み分を全て輸血すれば三十分で枯渇する。実際のところこの十分は最低流量で輸血していたため今のパックはまだ余裕があるが戦闘が長引けば輸血に頼らず戦うことになる。
撃ち切ったマガジンを引き抜き、投げ捨てたその手に新たなマガジンが生成される。
そのマガジンを装填する隙をついて、雪啼が近くの検査機械から飛び出した。
空中で薙ぎ払うように手を振るとその前面にいくつものスプーンが生成され、
「ちっ!」
素早くチャージングハンドルを引いて初弾を装填、辰弥が飛来するスプーンを撃ち落とす。
だが、その隙に雪啼は辰弥の横に回り込み、腕を
そのゴムに子供の握りこぶし大の金属球が生成され、射出される。
これは撃ち落とせない、と辰弥は咄嗟に首を傾けて回避した。
銃弾と変わりない速度で射出された金属球が辰弥の後ろの検査機械に直撃し、粉砕する。
「……な……」
明らかにただの鉄球の威力ではない。鉄よりもはるかに大きい質量の金属――恐らくは、タングステン球。
どうやらノインの生成能力は俺とは変わらないらしい、と考えた辰弥は雪啼の次の手を考えた。
雪啼は猫の特性を持っている。その特性は、高い隠密性と身軽さ。
身勝手さももちろん含まれているだろうが今はそれを考慮している場合ではない。
ここまでの攻撃を考えると小さめの牽制を行い、その次に威力の高い攻撃を繰り出す。
牽制からの不意打ちを得意とするのも猫ならではなのか、と思いつつも辰弥は雪啼の気配をたどり、P87を連射した。
床を蹴った雪啼が素早く検査機械の裏に回り込み、それをよじ登って三次元的な動きを見せる。
雪啼ほど身軽ではない辰弥はどうしても平面的にしか動けず、攻撃の範囲に死角が生じてしまう。
その死角から、雪啼は次の攻撃を繰り出した。
雪啼の周囲に無数の出刃包丁が出現、辰弥に向かって飛ばされる。
辰弥もP87で応戦するがP87の弾丸では出刃包丁の質量を弾き飛ばすことができず、彼は横に跳んで回避した。
しかし、先に応戦を選択していたため回避が遅れ、一部の出刃包丁が辰弥の左腕と脚を傷つける。
「くそ……っ!」
痛みに辰弥が呻くが、この程度の痛みはまだ痛みの範疇ではない。
筋を損傷したわけでもなく、動きに問題ないと判断した辰弥はそのまま戦闘の続行を決断する。
鎮痛剤を自分に使用するという考えは浮かばない。
そんなものは自分に使用されたことはないし使用する必要もないと言われてきて今更使おうと思いつくはずがない。
だが、この傷は使える。
流れる血を振り払うように辰弥は左手を振った。
飛び散った血が床の血だまりに落ち、混ざっていく。
雪啼が検査機械の間を三角跳びで辰弥の周りを高速移動する。
それを追うようにP87の弾が検査機械を穿つ。
と、雪啼の身体が空中で方向転換した。
トランスし、伸ばした髪で検査機械の一つを掴み方向転換したことに辰弥が気付いたのは雪啼が想定外の急接近を行ってから。
間に合わない、と辰弥は咄嗟に腕に
空中からの攻撃で回避ができなかった雪啼がガントレットの攻撃をまともに受け、床に叩き付けられる。
追撃しようと、辰弥はP87の銃口を雪啼に向けた。
上半身を起こした雪啼が泣きそうな顔で辰弥を見る。
「パパ、ひどい……」
「――っ!」
引鉄を引こうとした辰弥に一瞬迷いが生じる。
騙されるな、これはノインの罠だ、と自分に言い聞かせるも、雪啼を攻撃している事実は変わらない。
あの数環で情が沸いたのか? いや、そんなはずはない、自分にそんな感情などあるはずがない、と辰弥はいつになく重く感じた引鉄を引く。
P87の弾が雪啼がいた場所の床を穿つ。
辰弥がほんの一瞬躊躇したその隙に雪啼は床を蹴り、再び辰弥に急接近した。
その手に握られたカッターナイフ。辰弥もナイフを生成し、それを受け止める。
「やめ、ろ」
知らず、そんな言葉が辰弥の口をついて出る。
「帰ろう……元の生活に」
その辰弥の声が聞こえた日翔がはっとして目の前で戦う二人を見る。
「辰、弥……」
辰弥とて本当は戦いたくないのかと、考える。
雪啼と出会ってからの数環、何もなくただ寝食の場所を与えて保護していたわけではない。
「パパ」と懐く雪啼も、それを慈しむように抱き寄せた辰弥も、少なくとも辰弥は演技ではなかったはずだ。
本当の父子のように、この二人は接し、過ごしてきた。
その結果がこれなのか。
いやだ、と日翔が呟く。
こんな二人は見たくない。
しかし鎮痛剤が効いているとはいえ雪啼の攻撃によって受けた傷は深く、下手に動けば傷が開いて出血するのは必至である。
自分の命など惜しくない。元々余命宣告されている身、今死んだところで予定が少々早まる程度である。
それでも日翔は動くことができなかった。
「今動いてはいけない」という本能の叫びにも似た何かが日翔をその場に引き留める。
辰弥、と日翔は呟いた。
雪啼が攻撃する以上もうやめろとも言えない。
そんなことを言えば、日翔がそれを本気で望めば辰弥は雪啼に自分の命を差し出すくらいは普通にするだろう。
それに、今辰弥が戦っている動機は日翔にある。
雪啼が日翔を攻撃しないように、日翔だけは脱出できるように、辰弥は戦っている。
その気になれば日翔は今この場を離れることができるだろう。
この場を離脱し、鏡介の元へ戻れば。
辰弥の目的はそれで達成される。
その目的が達成されたら、辰弥の戦う理由がなくなる。
それこそ思い残すことはないと雪啼に自分を差し出すかもしれない。
今の躊躇いがその証拠だ。
辰弥は本気では雪啼を殺そうなどとは考えていない。雪啼を、本人が望む「完全」にして永江博士の元に返そうとするかもしれない。
だから、日翔は動けなかった。
自分が離脱すれば辰弥は死ぬかもしれない。
それは日翔にとってどうしても受け入れられないことだった。
同時に、辰弥が雪啼を殺すこともまた受け入れられないことだった。
道はないのか、と日翔は呟く。
二人とも生き延びる道はないのかと。
雪啼が手首を返しカッターナイフで辰弥の首を狙う。
辰弥が振り抜いたナイフが雪啼の手首を切断し、床にカッターナイフが握られた手が落ちる。
「エルステ、ひどいことする」
後ろに跳んだ雪啼が腕を振ると血液による生成とトランスの応用で切断された部分の手首が再生した。
「……トランスの応用による再生能力……厄介だね」
辰弥も傷の治癒能力は常人のそれをはるかに上回るが欠損部位を再生する能力はない。
継続輸血装置が輸血パック内の血液がなくなったことを通知、辰弥は素早くポーチから予備の輸血パックを取り出して交換する。
――ここで十五分か。
ここまでで全力とは言わないがそれでもかなり速いペースで武器を生成していた。
この調子では早く決着を付けないとまずい、と辰弥は考える。
雪啼と違ってトランス能力を持たない辰弥は攻撃の手段は全て自分の血液任せ。
それに対し雪啼はトランスによる自身の武器化で血液の消費は抑えられる。
できるか、と辰弥は一度意識を集中させる。
自分の血に問いかける。
ざわり、と届く「血」の声。
まだだ、まだ足りないという囁きに辰弥は手近な死体を見た。
この死体の血を飲めば足りるか? と考える。
それから、「いや、駄目だ」と呟いた。
武器の生成に必要なのはあくまでも「自分の血」であってその辺にある死体の血ではない。
輸血によって一度「自分のもの」にしているから即座に使えるのであって、吸血した場合はそこからさらに吸収という手順が発生する。
吸血では必要な血液を即座に賄うことはできない。
「足りない」からと言って安易に吸血してはいけない。
そのことは雪啼は理解していないのだろう、時折床に転がっている死体から血を啜り、補充している。
それよりももっと効率的な方法がある。
ただ、現時点ではまだ足りないだけだ。
それに先程負った傷は思っていたより深く、出血はまだ止まらない。
だが、辰弥はそれでも止血しようとはしなかった。
これでいいと戦闘続行を決断する。
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