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Vanishing Point 第14

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前回までのあらすじ(クリックタップで展開)

 惑星「アカシア」桜花国おうかこく上町府うえまちふのとある街。
 そこで暗殺者として裏社会で生きる「グリム・リーパー」の三人は暗殺連盟アライアンスから依頼を受けて各種仕事をこなしていた。
 ある日、辰弥たつやは自宅マンションのエントランスで白い少女を拾い、「雪啼せつな」と名付けて一時的に保護することになる。
 依頼を受けては完遂していく三人。しかし巨大複合企業メガコープの抗争に巻き込まれ、報復の危機を覚えることになる。
 警戒はしつつも、雪啼とエターナルスタジオ桜花ESO遊びに出かけたりはしていたが、日翔あきと筋萎縮性側索硬化症ALSだということを知ってしまい、辰弥は彼の今後の対応を考えることになる。
 その後に受けた依頼で辰弥が電脳狂人フェアリュクター後れを取り、直前に潜入先の企業を買収したカグラ・コントラクター特殊第四部隊の介入を利用して離脱するものの、御神楽みかぐら財閥の介入に驚きと疑念を隠せない三人。
 まずいところに喧嘩を売ったと思うもののそれでも依頼を断ることもできず、三人は「サイバボーン・テクノロジー」からの要人護衛の依頼を受けることになる。
 しかし、その要人とは鏡介きょうすけが幼いころに姿を消した彼の母親、真奈美まなみ
 最終日に襲撃に遭い鏡介が撃たれるものの護衛対象を守り切った三人は鏡介が内臓を義体化していたことから彼の過去を知ることになる。
 帰宅してから反省会を行い、辰弥が武器を持ち込んだことについて言及されたタイミングで、御神楽 久遠くおんが部屋に踏み込んでくる。
 「それは貴方がLEBレブだからでしょう――『ノイン』」、その言葉に反論できない辰弥。
生物兵器LEBだった。
 確保するという久遠に対し、逃走する辰弥。
 それでも圧倒的な彼女の戦闘能力を上回ることができず、辰弥は拘束されてしまう。
 拘束された辰弥を「ノイン」として調べる特殊第四部隊トクヨン。しかし、「ノイン」を確保したにもかかわらず発生する吸血殺人事件。
 連絡を受けた久遠は改めて辰弥を調べる。
 その結果、判明したのは辰弥は「ノイン」ではなく、四年前の襲撃で逃げ延びた「第1号エルステ」であるということだった。
 「一般人に戻る道もある」と提示する久遠。しかし、日翔たちの元に戻りたい辰弥にはその選択を選ぶことはできなかった。
 辰弥が造り出された生物兵器と知った日翔と鏡介。しかし二人は辰弥をトクヨンの手から取り戻すことを決意する。
 IoLイオルに密航、辰弥が捕らえられている施設に侵入し、激しい戦闘の末奪還に成功する日翔と鏡介。
 鏡介はトクヨンの兵器「コマンドギア」を強奪し、追撃を迎撃するが久遠の攻撃とリミッター解除の負荷により右腕と左脚を失ったものの、桜花への帰還を果たす。
 しかし帰国早々聞かされたのは失踪していた雪啼が吸血殺人を繰り返していることとそれを「ワタナベ」はじめとする各メガコープが狙っていることだった。
 包囲網を突破し、雪啼を確保することに成功した辰弥と日翔。
 義体に換装した鏡介に窮地を救われたもののトクヨンが到着、四人はなすすべもなく拘束される。
 「ツリガネソウ」に収容された四人。改めて一般人になる道を提示されるもすぐに頷けない辰弥。
 そんな折、雪啼が監禁場所から脱走、「ツリガネソウ」は混乱に陥る。
 その混乱に乗じて監禁場所から逃げ出す辰弥たちだったが、久遠との取引の末一度一般人になってみる条件を飲み、雪啼の追跡に当たる。
 しかし、真っ先に雪啼と遭遇した日翔が一瞬の隙を突かれて攻撃され、人質となってしまう。
 日翔を救出すると言う特殊第四部隊に対し、自分で助けに行くという辰弥。
 議論の末、一時間という制限時間で日翔を救出することという条件で辰弥は単身雪啼の待つ廃工場へと向かう。

 

 廃工場に突入し、雪啼と対峙した辰弥。
 日翔を助けるために、辰弥は雪啼の要求を呑もうとする。

 

 雪啼の要求を呑もうとした辰弥だが、雪啼はその約束を破り攻撃する。
 辰弥は咄嗟に日翔を庇おうとするが、日翔は日翔でその怪力に任せて辰弥を庇い、刺されてしまう。

 

 激しい戦闘を繰り広げる辰弥と雪啼。
 しかし、辰弥にはまだ躊躇いがあるように日翔には見えた。

 

 まだ雪啼を殺すことに躊躇いを持っている辰弥。
 それでもLEBとしての戦いをこれ以上日翔に見せたくなく、離脱するように日翔に要求する。

 

 傷を負いながらも戦い続ける辰弥。
 しかしそれは計算のうちだった。

 

 自分の血液を混ぜることによって床の血だまりを全て自分のものにした辰弥。
 その血液で生成したジェネレータと自分の血液から生成した戦術高エネルギーレーザー砲MTHELで彼はレーザーによる鮮血の幻影ブラッディ・ミラージュを発動する。

 

 戦術高エネルギーレーザー砲MTHELを使用しても雪啼を仕留めることができなかった辰弥は極度の貧血に陥り、逆に雪啼の攻撃を受けてしまう。
 自分にはもう打つ手がないと判断した辰弥は、日翔に雪啼を殺すよう指示を出す。

 

 辰弥にとどめを刺そうとする雪啼。
 辰弥は最後の抵抗で武器を作り、日翔はそれを拾って雪啼に斬りかかる。

 

 辰弥が生成した単分子ブレードによって雪啼は両断されるものの、とどめを刺そうとした刹那、天井が崩落し日翔と辰弥たちが分断される。
 辰弥を救出しようとする日翔だったが、もう助からない、と駆け付けた鏡介によって工場から連れ出される。

 

 時間切れとなり、廃工場に撃ち込まれるナノテルミット弾。
 諦められない日翔は辰弥への通信を試みようとするが、辰弥のGNSは既に存在しない状態となっていた。

 

 

 「ワタナベ」系列会社の社長室で、社長はカグラ・コントラクターがナノテルミット弾を撃ち込んだという報せを受ける。
 同時に特殊第四部隊のゼクスが社長室に乗り込み、ノイン確保を試みていた社長を逮捕する。

 

 
 

 

 「とりあえず休みなさい」と久遠にあてがわれた部屋で、日翔と鏡介はそれぞれのベッドに腰掛けていた。
 二人とも何も言わない。
 日翔の側から時々鼻を啜る音が聞こえてくるのはまだ涙が止まっていないからなのか。
 戻って数日、日翔は傷の手当てと事情聴取のため、鏡介もそれに付き合ってまだ「ツリガネソウ」に残っていた。
 不意にインターホンが鳴り、二人の返答を待たずに久遠が部屋に入ってくる。
「捜索隊が戻ってきたわ」
 開口一番、久遠がそう言う。
 弾かれたように日翔が頭を上げ、久遠を見る。
「辰弥は!」
 まだ諦めきれない日翔が縋るようにそう問いかける。
 それに対し、久遠は無言で首を横に振った。
「ナノテルミット弾で焼いたのよ? 骨だって残らないわよ。でも……」
 そう言って久遠は日翔の前に歩み寄る。
 その目の前に何かを差し出す。
 日翔がのろのろとした動作でそれを受け取った。
「あ……あぁ……」
 日翔の口から声にならない声が漏れる。
「瓦礫に埋まってたからそれだけ焼け残ったようね。遺品になってしまったけど……貴方に渡しておくわ」
 日翔が受け取ったのは辰弥が肌身離さず首に掛けていた認識票ドッグタグ
 単純に本人の好みで近くのミリタリーショップで作ってもらったという、ただそれだけのものだったが辰弥は気に入っていたのかいつもそれを首にかけていた。
 ナノテルミット弾の高熱で変形し、文字もほぼ読めなかったが打刻された「Tatsuya Sagami」の文字だけはかろうじて読み取れる。
 ドッグタグを握り締め、日翔が肩を震わせる。
「……辰弥……」
「そこまで悼んでもらえたなら辰弥君も幸せなんじゃないかしら。いい仲間を持ってたのね」
 久遠としてもそれは喜ばしいことだった。
 四年前、ナノテルミット弾で灼いたとはいえ生き残っていたらという希望はどこかにあった。
 それでもたった一人、誰の手助けも借りることができずに孤独に生きていたらという不安もあった。
 だがその不安はただの懸念だった。
 エルステは辰弥という名前をもらい、仲間を得て、懸命に生きていた。
 それだけに今回の結末はあまりにも痛ましい。
 それでも辰弥との約束があったため、久遠は二人に問いかけた。
「辰弥君との約束があるからもうここではっきりさせましょう。貴方たち、今後どうするの」
「約束……?」
 鏡介が久遠を見上げ、尋ねる。
「ええ、辰弥君との約束は貴方たちにも生きてるから。一般人として生きるか、トクヨンに入るか」
 元々は辰弥を「救済」するために与えた選択肢。
 そこに日翔と鏡介もという辰弥の願いはあった。
 辰弥がいない今、その選択肢は無効なのかもしれない。
 桜花の警察業務も請け負うカグラ・コントラクターだから今まで数々の犯罪行為に走った二人を立件することもできる。
 しかし、久遠は二人にも選択肢を与えた。
 辰弥が大切にし、最期まで守ろうとした二人をここで雑に扱ってはいけない。
 それならせめて辰弥が選ぶことができなかった選択肢を二人に委ねよう、と。
「俺、は……」
 鏡介が戸惑いがちに口を開く。
 これは辰弥が選択すべき選択肢だった。
 一応は「一旦一般人になる」という話で結論は出ていたが、本当にそれでいいのかという迷いが鏡介に浮かぶ。
 辰弥を犠牲にしてまで、自分たちは一般人として生きていいのかと。
 鏡介が日翔を見る。
 肩を震わせていた日翔が頭を上げて久遠を睨む。
「辰弥を見捨てておいて、俺たちも管理下に置きたいってか! ふざけんな! 御神楽なんて信じねえ!!!!
「やめろ、日翔。御神楽はむしろ辰弥を危険に晒すのを最後まで渋っていた。それを辰弥の意志を尊重するために最悪見捨てろと提案したのは、俺だ。だから、もう一度言う、恨むなら俺を恨め」
「鏡介!」
 違う、と日翔が叫ぶ。
「御神楽ほどの組織ならそれでもなんとかすることできただろ! 最終的に見捨てたのには変わりねえ!」
「やめろ、日翔。それは御神楽の作戦を拒否した辰弥の意志を冒涜する発言だ」
 その鏡介の言葉で日翔も思わず黙り、沈黙が訪れる。
「……まあ、それは否定しないわ。どれだけ後悔しても遅いけれど、提案を受け入れず、私達の戦力で状況を解決すべきだった」
 沈黙の中、やや悲痛そうな面持ちで久遠が答える。
「だから御神楽私たちを恨んでくれて構わない。必ず助けると言って助けられなかった責任は私たちにある」
 そう言ってから、久遠は二人を見た。
「それで、どうするの? 辰弥君との約束を守れなかった分、貴方たちの意思は尊重するわ」
「……」
 なおも久遠に噛みつこうとした日翔が口を閉じる。
 自分の発言が八つ当たりであることは分かっている。
 しかしそれでも辰弥を喪ったという喪失感から逃げたくて、御神楽のせいだと主張したくなる。
「俺は……」
 迷いながら日翔が口を開く。
「やっぱり、御神楽は信用できねえ。辰弥だって『自由に生きたい』って言ってたし、だったら俺もその分自由に生きたい。まぁ……俺はもう長くないけどさ」
 傷の手当ついでに診察された筋萎縮性側索硬化症ALSの最新の診断結果。
 思いの外進行が早く、なぎさが日翔に伝えていたよりもかなり短めの余命宣告。
 その際に「今なら義体化すればまだ間に合う」と説得されたが、日翔は頑なにそれを拒絶した。
 人工循環液ホワイトブラッドを入れることなんてできねえ、鏡介は入れてるかもしれないか俺は絶対に入れねえと啖呵を切り、余命なんて知るかと吐き捨てた。
 だから、「辰弥の代わりに生きる」のは鏡介の役割かもしれない。
 鏡介が御神楽の下で生きるというのであればそれを止めるつもりはなかったが、鏡介なら、とほんの少しだけ期待を持って日翔が彼を見る。
 日翔と目が合い、鏡介は苦笑した。
「ったく、俺に何もかも背負わせる気か、日翔は」
 そう言って鏡介が久遠を見る。
「俺は辰弥の分も生きる義務があるからな。あいつが見ることができなかった景色を、見て回りたい」
 それには御神楽の干渉は邪魔になるだけだ、と鏡介は続け、
「というわけで俺たちは御神楽の庇護下にもトクヨンにも入らない。今までと同じ生活に戻る」
 そう、宣言した。
「私の提案を蹴るってこと?」
 久遠の確認に頷く二人。
 分かったわ、と久遠も頷いた。
「そもそも、辰弥君とは約束してたしね。『最初の一回は見逃す』って」
 ため息交じりにそう言い、久遠は改めて二人を見る。
「だから今回は黙って見逃すわ。けれど忘れないで、あなた達は御神楽私達が差し伸べた手を振り解いた。どういうことか分かるわよね?」
「ああ、次会った時は敵、だな」
 鏡介の言葉に久遠が頷く。
「貴方たちが真っ当な一般人として生きているならむしろ善良な一般市民の味方として動くけど今までと同じ生活を送るなら容赦はしない。逮捕になればラッキーだけど、戦場で出会えば手加減する理由もないわ」
 そう言って、念のために最後の確認をする。
「本当に、一般人になる気はないのね?」
 再び頷く二人。
 その意思の固さに久遠は「二人そろって頑固だから」と呟いた。
「それじゃ、どこへなりとも行きなさい。一応、上町府うえまちふから出ていくことをお勧めするわ。マンションまでは送ってあげる」
 傷の具合ももういいでしょ、と久遠が日翔に確認する。
 御神楽の医療用ナノマシンの技術は凄まじく、日翔の傷はまるで何もなかったかのように塞がっていた。
 もう一度頷いた二人が立ち上がる。
「その前に、立ち寄ってほしいところが二か所あるが聞いてもらえるか?」
 久遠について格納庫まで歩く途中、不意に鏡介がそんなことを言う。
「立ち寄ってほしいところ……?」
「ああ、花屋とあの廃工場に立ち寄ってほしい」
 鏡介の言葉に日翔が思わず彼を見る。
 久遠も一瞬立ち止まり、それからすぐ納得したように頷いた。
「でも、あの現場は今立ち入り禁止にしてるの。上空を通過するだけになってもいいかしら?」
「ああ、構わない」
 鏡介が頷き、音速輸送機に乗り込む。
 音速輸送機の中では三人は始終無言だった。
 その途中で最寄りの花屋に立ち寄り、鏡介が小さな花束をオーダーする。
「……花、立向けるんだ」
 ぽつりと日翔が呟く。
「あいつは『俺には似合わない』とか言いそうだがな。俺個人としてのけじめだ」
 受け取った花束に視線を落とし、鏡介がぽつりと呟く。
「……『誠実』と『君を忘れない』か……」
「ん?」
 鏡介の呟きに日翔が首をかしげる。
竜胆リンドウ紫苑シオンの花言葉だ。今調べた」
 何となくで選んだが、と続ける鏡介に日翔が何か言いたそうに少し口を開くがすぐに閉じる。
「……あいつにはお似合いなんじゃね?」
 やっとのことで絞り出した言葉がそれだった。
 そんな会話をしているうちに音速輸送機は辰弥と雪啼が戦った廃工場の上空に差し掛かる。
 眼下に広がる焼け焦げた工場。完全に崩落し、見る影もない廃工場に、二人の胸が締め付けられるように痛む。
 ――結局、助けられなかった。
 二人の思いは同じだった。
 何も知ろうとはせず、何もかもが明らかになった時にはもう遅くて、幸せというものを知らずに逝ってしまったのではないか、と二人が思う。
 日翔が音速輸送機のドアを開ける。
 ほんの少しだけ、鏡介は身を乗り出した。
 そっと手を差し出し、花束から手を放す。
 鏡介の手を離れた花束が吸い込まれるように焼け焦げた工場へと落ちていく。
「辰弥……」
 悲痛な面持ちで鏡介が呟く。
 すまなかった、と。
 音速輸送機が廃工場の上空を二度、三度旋回し、その機首の方向を変える。
 一人欠けた状態で、日翔たちが住むマンションへと。

 

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おまけ
ばにしんぐ☆ぽいんと 第14章 「すっぽん☆ぽいんと」

 


 

「Vanishing Point 第14章」のあとがきを
以下で楽しむ(有料)ことができます。
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