Vanishing Point 第7章
分冊版インデックス
7-1 7-2 7-3 7-4 7-5 7-6 7-7 7-8 7-9 7-10 7-11 7-12 7-13
惑星「アカシア」
そこで暗殺者として裏社会で生きる「グリム・リーパー」の三人は
ある日、
依頼を受けては完遂していく三人。しかし
警戒はしつつも、雪啼と
そんな折に受けた依頼、現場にに現れた
突如乱入してきたカグラ・コントラクター特殊第四部隊隊長の
まずいところに喧嘩を売った、と不安になる三人。そんな折、これまで何度か辰弥たちが破壊工作を行ってきた「サイバボーン・テクノロジー」が
雨の日。
突然現れた男たちに「僕」の母親はどこかへと連れ去られていく。
今回の依頼は「サイバボーン・テクノロジー」の重役の護衛。しかしその護衛対象の女性は
そんな折、
「へー、あんた、なかなかやるな」
日翔が興味津々の顔で盤面を見ながら目の前の
「俺はリバーシってきょ……
「あら、そう言ってもらえると嬉しいわ」
日翔と盤面を挟んだ向かいに座る女性――真奈美が嬉しそうに微笑む。
「生きていくためにはこういったゲームであってもきちんと知っておく必要があるから。適当に打って相手を怒らせれば殺されるのがこの世界よ」
八掛ける八マスの緑の盤に白黒のチップを置いて相手のチップを自分の色に染める、シンプルながらも奥の深いゲーム。
シンプルなルールゆえに手軽に遊べることから今ではGNSやCCTの通信対戦アプリとしても人気の高い二人用のボードゲームである。
ただじっとしているだけではつまらない、と暇つぶしに日翔が真奈美に対戦を持ち掛け、ものの見事に玉砕したところである。
「まあ、普段はCEOの相手でシャトランジをさせられていたし、暇つぶしするならそれかなと思ってたのにまさかリバーシ挑まれるとは思ってなかったわよ」
「流石にシャトランジはルールが分からねえから。あれだろ、将棋みたいなものって聞いてるけど実はやったことがなくて」
それを眺めていた真奈美が、ふと、口を開く。
「貴方たちって仲いいのね」
羨ましい、と言う真奈美の言葉に日翔が頭を掻きながらまあな、と頷く。
「なんだかんだ言って俺たち仲間だからさ。普段から仲悪くて全滅しましたじゃシャレにならねーから」
「
二人と同じ室内の隅の方、ソファに座ってGNSで情報収集を行っていた鏡介が釘を刺した。
「えー、別にヤバいことは話してないだろ」
日翔が抗議するが鏡介は二人に視線を投げることなく、せわしなく
「元からお前は口が軽い。なんでも喋りすぎなんだよ」
日翔は非常に口が軽い。そして見知らぬ相手でも物怖じせず話しかけていく。
さらに厄介なことに、滅多なことで嘘をつかない。
それに対しては「聞かれなかったら言うな」を徹底させてこちら側の情報を漏らさないようには対策しているがそれでもかなり雄弁な方だろう。
鏡介の言葉を聞いた真奈美がクスリと笑って謝罪する。
「ごめんなさいね。貴方たちの事情も分かっているはずなのに色々聞いて」
「……いや、いい。あんただって俺たちはまだ信用できないだろう」
依頼の内容を思い出しつつ、鏡介がぶっきらぼうに答える。
「サイバボーン・テクノロジー」に寄せられた殺害予告の内容は、こうだ。
我々は貴社のスパイル・アーマメント開発プロジェクトを認めない。
よって、貴社の機密情報を握っているという木更津 真奈美を殺害することにした。
十巡、我々は十巡以内に彼女を殺す。
もし、その十巡を凌ぐことができれば我々もこの件から手を引こう。
これはゲームだ。なお、そちらに拒否権は存在しない。
この手紙が届いた瞬間から十巡間、全力で守ってみせろ。
ごくごくシンプルな殺害予告。
手紙の文面は「グリム・リーパー」の面々にも開示されているため知っていたが、穏やかな話ではない。
しかし引っかかる点もある。
現時点では不明の差出人はどうして木更津 真奈美が「サイバボーン・テクノロジー」の機密情報を握っていると把握したのか。
それに関しては企業スパイが当たり前のように横行している
それでも真奈美一人を殺したところで「サイバボーン・テクノロジー」が傾くとも思えず、また、企業が一個人をここまで厳重に護衛することもそうそうあり得ない話ではある。
一体何が、と疑問に思うもクライアントの事情を聞き出すのはアライアンスとしてはご法度で辰弥たちはただ護衛するしかない。
「もう一戦」と日翔が真奈美に声をかける。
いいわ、と真奈美も頷いた。
それから、ちら、と鏡介を見る。
真奈美に視線を投げられた鏡介が思わず目を逸らす。
「……私と一緒にいるの、そんなに嫌?」
突然、真奈美に質問された鏡介が答えに詰まる。
「いや、別に俺は――」
「いいのよ。見ていて分かるわよ。貴方、単に女性が苦手なだけじゃないでしょ」
真奈美は見抜いていた。鏡介が自分に対してあまりいい感情を持っていないことを。
「そうよね、一週間缶詰で私の護衛なんて退屈なだけでしょ? でもあと三巡だから、ごめんなさいね」
「謝らないでくれ。報酬をもらっている以上、報酬分の働きはする」
相変わらず、ぶっきらぼうに鏡介が答える。
そうね、と真奈美も小さく頷き、それから立ち上がって鏡介の前に移動する。
鏡介の前で屈み込んで視線を下げ、彼女は鏡介の顔を見た。
「……っ……」
思わず鏡介が顔を逸らす。
真奈美が、いたずらを思いついた子供のような笑みを浮かべた。
「Rain、貴方、もうちょっと遊んだほうがいいわよ」
そう言い、そっと手を伸ばして鏡介の手を取る。
「な、ちょ――」
途端に赤面し、硬直する鏡介。
「あら、女性に触られるのは苦手?」
初日から思ってたけど貴方って私好みのイケメンなのよね、と言いながらも真奈美は鏡介の手に指を滑らせる。
「なかなかのイケメンなのに、勿体ないわね」
こう見えても昔は色んな男を手玉に取っていたもの、と嘯く真奈美に鏡介が完全に硬直してしまっている。
「俺はあんたの息子だ、息子にも手を出すのか」という言葉が鏡介の喉元にまでこみ上げてくるがここでそんなことをばらせば何が起こるか分からない、とぐっと飲み込む。
彼女の後ろで日翔が口笛を吹くがそれに反応できる鏡介ではない。
「あ、あの、だからそれは――」
真奈美の手がまるで恋人つなぎをするかのように鏡介の手に指を絡ませる。
暴れて抵抗することすらできずに、鏡介は目を見開いてその手をを見て、そして――
「あ、あ、あの、その……」
彼は口をパクパクさせ、それからそのままバタリとソファに倒れ込んだ。
「あー……」
その様子を眺めていた日翔が呆れたように声を上げる。
「Rainの奴、女に免疫がないのは分かってたがここまでかよ」
ていうかさー、手をつながれたくらいで目を回すとかなんなんなどと嘯きながら日翔も立ち上がってソファに移動し鏡介を揺さぶる。
「おい、仕事中だぞー」
「うぅ……」
目を回していた鏡介が低く呻く。
それからはっとしたように体を起こして真奈美から離れるようにソファの端に移動した。
「あら、刺激が強すぎた?」
あっけらかんとした様子の真奈美とは真逆にすっかり怯えた様子の鏡介。
「残念ね、せっかくCEO以外に遊べそうな男を見つけたと思ったのに」
心底残念そうに真奈美が呟き、ぺろりと舌なめずりをする。
「こう見えてね、私はイケメンが大好きなの。CEOみたいな脂ぎったオジサンは相手してても疲れるだけなのよ」
確実にターゲットにされた、と認識した鏡介がずりずりとソファの背に背中を擦り付ける。
いつでも逃げ出せるような体勢になりつつも彼女を見て、
「な、なるべく俺に近寄らないでくれ」
そう、言い放った。
「Rain……お前、流石にそれは……」
日翔が思わずそう言いかけるがすぐに口を閉じる。
鏡介も「それ以上言ったら殺す」と言わんばかりの顔で日翔を見る。
日翔は「母親だろ」と言いかけたし鏡介もそれに気づいたからだが、真奈美にはその沈黙が単純に「言い過ぎだろう」という意思表示に見えたらしい。
真奈美が鏡介の母親かもしれないという話は絶対に口にするなと辰弥から言い渡されている。
仮に、真奈美がその事実を知った場合、何かあった際に依頼の遂行に支障が出る可能性が出てくる。
もう一つは鏡介本人が「息子かもしれないということは開示しないでほしい」と要望したからで、辰弥もその要望を受け入れた形となる。
一番の懸念は日翔がうっかり口を滑らせることだったが、流石の彼も嘘はつかずとも言うなと言われたということはそう簡単に言わない、ということらしい。
日翔が口を滑らせなかったことにほっとしつつ、鏡介はソファの端に座り直した。
真奈美も何事もなかったかのように鏡介から離れ、日翔に促されてリバーシ盤の前に座る。
二人の対戦が始まったことを横目で見つつ、鏡介は館内の防犯カメラの映像の監視に戻っていった。
◆◇◆ ◆◇◆
「いいね」と思ったらtweet! そのままのツイートでもするとしないでは作者のやる気に大きな差が出ます。