Vanishing Point 第7章
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惑星「アカシア」
そこで暗殺者として裏社会で生きる「グリム・リーパー」の三人は
ある日、
依頼を受けては完遂していく三人。しかし
警戒はしつつも、雪啼と
そんな折に受けた依頼、現場にに現れた
突如乱入してきたカグラ・コントラクター特殊第四部隊隊長の
まずいところに喧嘩を売った、と不安になる三人。そんな折、これまで何度か辰弥たちが破壊工作を行ってきた「サイバボーン・テクノロジー」が
雨の日。
突然現れた男たちに「僕」の母親はどこかへと連れ去られていく。
今回の依頼は「サイバボーン・テクノロジー」の重役の護衛。しかしその護衛対象の女性は
そんな折、
護衛対象とゲームに興じる
護衛対象は
武器持ち込み禁止のセキュリティホテルに武装した人間が乗り込んできたことで
護衛対象の
本来なら依頼最優先となるところではあるが、敵が真奈美の位置情報をロストしたらしいということで一同はひとまず
闇
親が反
途切れることなく銃弾が飛来し、辰弥はロッカーの影に身を隠す。
「……キリがない……!」
少しずつだが確実に排除しているし相手もここに残っているのがターゲットではないと把握したのだろう、攻撃の手は確実に緩んではいる。それでも真奈美を守ろうとした辰弥は排除しておこうと考えたのか攻撃自体が止むことはない。
マガジン交換のための射撃の切れ目を利用しようと考えていた辰弥だったが、あまりにも攻撃が途切れず歯噛みする。
それでも、僅かな隙を突いて攻撃していたがこのままでは確実に追い詰められてしまう。
正直なところ、真奈美が安全な場所へ逃げ切ったのならそれでもよかったが日翔からはまだ連絡がない。
せめて連絡が来るまではここで敵を引き付ける、と辰弥は貧血で時折霞む自分の視界に耐えながらも応戦していた。
……と、そこへ日翔からの着信が入る。
数発発砲して牽制し、ロッカーの影に戻って辰弥は回線を開いた。
「離脱できた?」
回線を開いて真っ先に口を突いて出たのはその言葉だった。
ああ、と回線の向こうで日翔が頷く。
《ああ、こっちは何とか。お前も離脱しろ》
よかった、と辰弥は安堵の息を吐く。
しかし、離脱できたとは言え護衛対象が負傷していた場合の可能性を考慮し、質問を続ける。
「護衛対象は?」
辰弥のその質問にも、日翔は大丈夫だ、と答える。
だが。
《それは大丈夫だ、怪我一つない。だが――Rainが撃たれた》
「はぁ!?!?」
思わず辰弥が声を上げる。
その声を頼りに相手の射撃が集中する。
「ちょっと待って生きてるの!?!?」
《息はある――まだ、生きてる。だが早く治療しないとやばい》
日翔の言葉に、鏡介が思っていた以上の重傷を負っていることを知らされる。
本来なら早く病院へ連れて行けと指示へ出すところである。しかし。
今は真奈美の護衛が最優先、できればそれが落ち着いてからにしたいが。
「どこ撃たれたの?」
重傷であるのは分かっている。聞くだけは無駄かもしれないが、辰弥は鏡介の傷の状況を確認した。
《背中だが――位置的に、腎臓のあたりだと思う。もし腎臓がやられてたら致命傷だぞ》
日翔のその言葉の向こうから苦しげに呻く鏡介の声が聞こえる。
一刻を争う事態だと把握し、辰弥は唸った。
「……依頼、は、最優先……」
自分たちの命は軽いもの、依頼を、それも
それはたとえこちらに欠員が出たとしても遂行しなければいけないもので、真奈美を守り切った場合、鏡介が助かる可能性は限りなく低くなる。
真奈美を危険にさらした状態で鏡介を病院に連れて行けという指示を出すことは辰弥にはできなかった。
これが、傷を負ったのが自分だった場合は迷わず自分を置いて真奈美を守れと命令できただろう。
しかし、負傷したのは鏡介で、自分は真奈美を逃がすために現場に残って別行動を取っている。
最終的な判断は日翔に任せるしかないが、彼に全責任を押し付けるようで申し訳なさが先に立つ。
その辰弥の迷いが伝わったのか。
日翔が「俺はいいから」と言った鏡介に怒鳴りつけ、自分の判断を口にする。
《BB、お前は離脱だけを考えろ、こっちはこっちで対応する!》
その言葉を最後に、回線が閉じられる。
「……鏡介を、頼んだ……」
一度目を閉じて祈るように低い声で呟き、辰弥は目を見開いて正面から迫りくる男たちを見据えた。
日翔たちが追手を撒けていると信じれば今一番危険なのは自分である。
日翔としてもいきなり自分と鏡介を失うのは損失どころの話ではない。
ただ、それでも辰弥は離脱することに抵抗を覚えていた。
――もう、隠せないなら――。
ここで離脱できずに殺された体にすれば誰も何も知らなくて済む。
自分のことなど、誰も知らない方がいい。
そう、理性では考えていても身体は真逆の行動を起こしていた。
左腕を一振り、何もなかったはずの袖から一つの小型手榴弾を取り出す。
ピンを抜き、三秒数え、投擲。
手榴弾が床に落ちると同時に炸裂、近くにいた男たちを吹き飛ばす。
一瞬射撃の手が緩み、辰弥は立ち上がった。
出口に向かって駆けだす。
が、手榴弾の攻撃に怯まなかった誰かか、それとも奥から来た新手が撃った銃弾が辰弥の脇腹を穿った。
「――ぐっ!」
足がもつれ、バランスを崩す。
それでも転げるように外へ出て、辰弥は非常口のドアを閉めた。
このドアは防弾仕様、開けられない限り中からの攻撃に被弾することはない。
ドアノブと近くの配管をどこからともなく取り出したピアノ線で固定し、辰弥は壁にもたれかかるように座り込んだ。
周りを見るが、外の連中は全て真奈美の追跡に当たったらしく人影はない。
すぐ近くに日翔が対処しただろう死体が転がっているが暫くは大丈夫そうだと辰弥はほっと息を吐く。
脇腹に突き刺さった銃弾は貫通していない。このまま放置するのは傷の治癒にもかかわってくる。
どうする、と考えたが辰弥はすぐに判断を固めた。
銃を地面に置き、バタフライナイフを抜く。まるで手品のようにどこからか取り出した様は、本当に虚空から取り出したようにしか見えない。
他にいいものが思いつかず、ネクタイを噛み、彼は脇腹の傷にバタフライナイフを突き立てた。
「――っ!」
声にならない叫びが辰弥の口から漏れるが、それでもバタフライナイフで傷を抉る手は止めず、体内の銃弾を探り当てる。
――この程度の痛み!
死ぬほどの痛みは過去に何度も味わってきたはずだ、この程度でと自分を叱咤し、銃弾を抉り出す。
カラン、と血まみれのバタフライナイフが地面に落ちると同時に抉り出された銃弾も地面を跳ねる。
貧血で霞む視界の中、辰弥は銃弾を拾い上げた。
「……なに、これ……」
呆然と、辰弥が呟く。
辰弥の手の上で転がる銃弾は彼が今まで見たどのタイプでもなかった。
いや、そもそも素材が金属ですらない。
よくミステリで岩塩や動物の骨で作った銃弾が利用されるが、それとも違う。
らせん状に渦を巻き、中空になったそれは――。
――まるで、貝殻のようだ。
そう、辰弥は思った。
小型のタニシのような、巻貝のような銃弾。
まさか、と辰弥はすぐそばの死体を、いや、死体が握っている銃を見た。
見たことのない銃。
それは辰弥が知っているどのメーカーの銃でもなかった。
いや、銃の形をしているが銃ですらない。
表面は貝殻のような生体鉱物で守られており、内部で何かしらの器官がうごめいている。
気持ち悪さを覚えつつも、辰弥はその銃を手に取った。
形自体は本物の銃に酷似しているため扱い方はなんとなく分かる。
適当な方向に銃口を向け、
そこで、辰弥は初めてこの銃からの銃声がほとんど響いていないことに気づいた。
ホテル内で響いた銃声は全て防衛システムのタレットのもの。
金属探知機にも引っかからず、手荷物検査でもクリアしたということはもしかすると使用直前までは銃の形すらしていないのかもしれない。
生体兵器、という単語が辰弥の脳裏をよぎる。
こんなものが開発されていたのか、という思いと、真奈美を狙った相手が以前から「サイバボーン・テクノロジー」に対して様々な妨害を行っていた「ワタナベ」であるという確信が辰弥を揺り動かす。
元々は自動車産業で
最近は軍需産業にも事業範囲を広げており、その中でも
辰弥が想像していた
しかし、この銃を見る限り「生物の形」をしているのではなく「無機物を生体に」している。
生物兵器というより生体兵器と呼んだ方が正しいのかもしれない。
こんなおぞましいものを「ワタナベ」が開発しているとは。
いつまでもここで休憩しているわけにはいかない。日翔たちと合流しなければいけない。
壁を支えに、辰弥は立ち上がった。
ぼたり、と脇腹から滴る血が地面を濡らす。
「……合流、しないと……」
しかし失われた血はあまりにも多く、全身が「まだ休め」と悲鳴を上げている。
脇腹の傷はいい。こんなものはすぐに治る。
しかし、貧血は自分の造血機能だけでは間に合わない。
地面に転がる死体に視線を投げる。
この男は義体化していなかったのか、赤黒い血が地面を染めている。
――この血を飲めば。
辰弥の奥底で声が囁く。
ごくり、と辰弥の喉が鳴る。
「……バカ、言わないで」
内なる声の囁きを拒絶するかのように辰弥は呟き、ヨロヨロと歩き出した。
自分を落ち着けるように最初は壁を伝って歩き、近くに止まっていた車を以前鏡介からもらっていたハッキングツールでハッキングして乗り込み、発進させる。
現時点では追手はいない。
対象以外を狙っても意味がないと判断したのか。
ただ、それでもまっすぐ日翔たちと合流するのは危険である。
日翔のCCTのGPSを呼び出し、辰弥は車を走らせ都市部に入り込んだ。
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