Vanishing Point 第7章
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惑星「アカシア」
そこで暗殺者として裏社会で生きる「グリム・リーパー」の三人は
ある日、
依頼を受けては完遂していく三人。しかし
警戒はしつつも、雪啼と
そんな折に受けた依頼、現場にに現れた
突如乱入してきたカグラ・コントラクター特殊第四部隊隊長の
まずいところに喧嘩を売った、と不安になる三人。そんな折、これまで何度か辰弥たちが破壊工作を行ってきた「サイバボーン・テクノロジー」が
雨の日。
突然現れた男たちに「僕」の母親はどこかへと連れ去られていく。
今回の依頼は「サイバボーン・テクノロジー」の重役の護衛。しかしその護衛対象の女性は
そんな折、
護衛対象とゲームに興じる
護衛対象は
武器持ち込み禁止のセキュリティホテルに武装した人間が乗り込んできたことで
護衛対象の
本来なら依頼最優先となるところではあるが、敵が真奈美の位置情報をロストしたらしいということで一同はひとまず
闇
親が反
被弾しつつも安全な場所に逃れた彼は、摘出した銃弾が、そして敵が使っていた銃が生体兵器であることを知り、今回の依頼人「サイバボーン・テクノロジー」を目の敵にしている「ワタナベ」が全てを仕組んでいたということを知る。
スラム街で生まれ育った彼女は「サイバボーン・テクノロジー」のCEOに取り入ることに成功するが子供は連れていけないと言われ、置き去りにしてしまったということを。
「ワタナベ」は現在「
そこへどこで嗅ぎ付けたか
それを見送った三人は
数日後。
内臓が義体だったため何の損傷もなかったが、
「予定より長期間預けちゃって、ごめん」
鏡介の退院自体は翌日だったものの「ワタナベ」からの報復を恐れ、念のため数日ホテルを転々としていた三人だったが「約束通り貴社のプロジェクトは認めるし木更津 真奈美ももう狙わない」という連絡が来たという連絡を受け、漸く解放されたともいえる。
「お疲れ様。大変だったようね」
ほっとしたような茜の足元から雪啼がひょっこりと顔を出す。
「パパ!」
雪啼が嬉しそうに声を上げ、辰弥も抱き上げようと身をかがめる。
そんな彼に抱き着こうとした雪啼の手が、辰弥の眼前に迫る。
「うわっ!?!?」
思わずのけぞる辰弥。雪啼の手が空を切る。
今のは危なかった、避けていなければ目を抉られていたかもしれない、と内心胸をなでおろしながら辰弥は雪啼を抱き上げた。
「にへへ~、パパ、おかえり~」
そう、にやける雪啼の様子が何やらおかしい。
よく見ると仄かに赤面して、何となくろれつが回っていないように見える。
まさか、酔っぱらってる? と辰弥は茜を見た。
「……姉崎?」
辰弥の声が低い。
「ど、どうしたの?」
辰弥が何やら不機嫌になっていると気づき、茜がおどおどした様子を見せる。
「……雪啼に飲ませた?」
「何を」
「酒」
単刀直入な辰弥の物言いに、茜が「はぁ?」と声を上げた。
「何よいくら私が『イヴ』さんと毎晩酒盛りしてたからってせっちゃんに飲ませるわけないでしょ!」
「……ふぅん、八谷と酒盛りしてたんだ」
酔っぱらって、雪啼の世話が適当になってたんじゃないの? と鋭く指摘され、茜は「げ」という顔をするがすぐに真顔になる。
「大丈夫よ、せっちゃん寝てからだし二日酔いもしてないし!」
「どうだか。で、本当に飲ませてないの?」
どうしても信用できない辰弥に茜が「当たり前でしょ」と息巻く。
辰弥に抱きつく雪啼がふにゃ〜、と笑い、
「しゅにん〜好き〜」
そう呟いた直後に寝息を立て始める。
「……しゅにん?」
雪啼の口から初めて聞いた言葉に辰弥が怪訝そうな顔をする。
しかし、すぐに茜に向き直り追及を再開する。
「飲ませてないなら何飲ませたの」
「普通に麦茶よ。泡の出る奴じゃないわよ」
単に「麦茶」と言っただけでは「それビールじゃん!」とツッコまれると思ったのか、茜が補足を交えつつ説明する。
じゃあ、何がと思った辰弥だったが、これで雪啼を回収するという目的は達成したので帰ろうとする。
しかし、それを奥から出てきた渚によって止められる。
「鎖神くん? ちょっとメンテナンスしておきましょうか」
「げ」
渚の顔を見て、辰弥が露骨に嫌そうな顔をする。
「ああ、日翔くんは帰っていいわよ。水城君は負傷してたらしいからついでに診てあげる」
「俺は、別に」
巻き添えを食らった、と鏡介が逃げようとするがその腕を辰弥に掴まれ、「逃がさないよ」と宣言される。
「とりあえず、診てもらおうか」
身長は辰弥よりあるものの体力は彼よりも低い鏡介は観念して茜の家に足を踏み入れた。
部屋に入るとおやつの時間だったのかテーブルに果物の入った皿が置かれている。
「……キウイ食べてたの」
皿の上に置かれた黄緑色の果物に辰弥が呟く。
「そうよ、食物繊維もビタミンも多いからせっちゃんにと思って」
なるほど、と辰弥が頷く。
それから、まさかと呟く。
「……キウイ食べて酔っ払った……?」
直前に摂取したもので考えるとこれしか考えられない。
アレルギーならまだしも、酔っ払ったような状態になるとは。
まぁ、体質によってはそうなるのかなと自分に言い聞かせ、辰弥は渚に言われるまま茜の寝室に誘導された。
「ほら、脇腹見せて。撃たれたんでしょ」
スーツの綻びとか汚れで分かるの、と言われた辰弥が観念したように撃たれた箇所を見せる。
それを応急セットを用意しながら見ていた渚が驚いた顔をする。
「……傷、塞がってるわね。処置するまでもない」
あの時撃たれて、弾の摘出のために抉った傷は完全に塞がり、薄く皮が張った状態となっている。
常人ならここまでかかるのにもっと時間かかるわよと言いつつも彼女は辰弥を見た。
「……言えるの?」
分からない、と辰弥が率直に答える。
「まあ、そうよね。でも心の準備くらいはしておきなさいよ」
そう言って渚は辰弥の肩をポンと叩いた。
「水城君呼んで?」
「あのさ、鏡介結局怪我したところ義体化しちゃったんだけど……」
意味ありげな笑いを浮かべて鏡介を呼ぶ渚に、辰弥が申し訳なさそうに言う。
はぁ? と渚が声を上げた。
「ちょっと待って水城君確かに内臓は義体化してるの知ってたけど義体部分増やしたの!?!? なんでなんで勿体ないじゃない私の出番は!」
「すぐに治療しなきゃ死んでたの!」
子供のように駄々をこねる渚に辰弥が反論する。
それは分かってるけど、と言いつつも渚は不満げに部屋の入り口を見た。
「水城君呼んできて! どこがどうなったか見るまで帰らない!」
うわあ、オトナのオンナが大人げないこと言ってる、とやや引き気味の辰弥。
それでもドアを開け、茜と話していた鏡介を呼ぶ。
女性には免疫のない鏡介だが、普段から連絡役として接点のある茜や闇医者である渚には慣れているため普通に話せるらしい。
仕方なさそうに鏡介が部屋に入り、入れ替わりに辰弥が部屋を出る。
「姉崎、大変だったね」
「そうね、吸血殺人事件が怖いからせっちゃんは一歩も外に出してなかった分パパがちゃんと遊んであげて」
茜の言葉に辰弥がそうだね、と頷く。
「結局一週間ニュースとかもちゃんと追えなかったんだけど、なんか大きな事件とかはなかった?」
真奈美の護衛に費やした一週間、ニュースをきちんと追うこともできず世の中から隔絶させてしまったような錯覚を覚えている辰弥。
吸血殺人事件のことも気になり、茜にそう訊ねると彼女は意外な答えを口にした。
「近場での事件が多かったから警戒してたんだけど、実はなかったのよね……吸血殺人事件」
「……え?」
茜の言葉に思わず声が出る辰弥。
この一週間、いや、辰弥が留守にしていた期間、吸血殺人事件が発生していない。
どういうこと、と辰弥が呟く。
「それは私も知りたいわよ。だけど少なくともニュースにはなってないしアライアンスの情報網でもそんな話は一件も上がってないわ」
メッセンジャーだけでなく情報屋としても活動している茜が言っているのだから吸血殺人事件が発生していないのは事実だろう。
自分がいないときに限って、と呟く辰弥。
――まさか。
やはり、俺が無意識で行動しているのか、と辰弥は自問した。
吸血事件が起こっていないタイミングが良すぎる。
まるで自分が犯人のようだ、と考えてしまう。
それとも、真犯人は別にいて、辰弥に罪を被せようとしているのか。
しかし、こんな
いや、たった一人だけ、心当たりがある。
――まさか、本当に。
ソファに寝かされ、寝息を立てる五歳の少女。
辰弥が構えなかったタイミングで貧血を起こし、倒れた雪啼。
何度も辰弥を殺しかねない行動を取った彼女に疑惑の念が浮かぶ。
だが、まさかそんなことが。
あり得ない、と辰弥は呟いた。
いくら雪啼でも分別のつかない子供である。
そんな子供が意図的に殺人を犯し、あまつさえ血を奪うなど考えられない。
それとも、雪啼は辰弥が子供だと思い込んでいるだけでそうではないというのか。
――何者なんだ。
そんな思いが胸をよぎる。
雪啼が倒れたあの日、渚に言われた言葉を思い出す。
――せっちゃんは、貴方と同じかもしれない。
「……そんなわけ、あるか……」
「おい、辰弥帰るぞ」
辰弥が呟いたタイミングで渚から解放された鏡介が彼に声をかける。
一瞬、びくりと身を震わせたものの辰弥はすぐに頷く。
「帰ったら反省会だ。日翔が散々やらかしてくれたからな」
「……うん」
雪啼を抱き上げ、辰弥は茜を見た。
「ありがとう。このお礼は後日」
「いいのよ。また遊びに来させてよ」
茜の言葉に辰弥が小さく頷く。
なんとなく、そんな日はもう来ないような気がして。
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