Vanishing Point 第7章
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惑星「アカシア」
そこで暗殺者として裏社会で生きる「グリム・リーパー」の三人は
ある日、
依頼を受けては完遂していく三人。しかし
警戒はしつつも、雪啼と
そんな折に受けた依頼、現場にに現れた
突如乱入してきたカグラ・コントラクター特殊第四部隊隊長の
まずいところに喧嘩を売った、と不安になる三人。そんな折、これまで何度か辰弥たちが破壊工作を行ってきた「サイバボーン・テクノロジー」が
雨の日。
突然現れた男たちに「僕」の母親はどこかへと連れ去られていく。
今回の依頼は「サイバボーン・テクノロジー」の重役の護衛。しかしその護衛対象の女性は
そんな折、
護衛対象とゲームに興じる
護衛対象は
武器持ち込み禁止のセキュリティホテルに武装した人間が乗り込んできたことで
護衛対象の
本来なら依頼最優先となるところではあるが、敵が真奈美の位置情報をロストしたらしいということで一同はひとまず
闇
親が反
被弾しつつも安全な場所に逃れた彼は、摘出した銃弾が、そして敵が使っていた銃が生体兵器であることを知り、今回の依頼人「サイバボーン・テクノロジー」を目の敵にしている「ワタナベ」が全てを仕組んでいたということを知る。
スラム街で生まれ育った彼女は「サイバボーン・テクノロジー」のCEOに取り入ることに成功するが子供は連れていけないと言われ、置き去りにしてしまったということを。
「ワタナベ」は現在「
そこへどこで嗅ぎ付けたか
「……大変だったな」
日翔も肩の力を抜いた。そして、辰弥を見て、頭に手を伸ばす。
「それにしてもよく無事だったよ。流石にお前も助からないんじゃって冷や冷やしたぞ」
「そう簡単に死ぬような存在じゃないって」
いつものように頭を撫でられると思い、その手を振り払った辰弥がぶっきらぼうに言う。
「とにかく、全員生き残ってほっとしたよ。でも鏡介が……義体だったとは」
そこまで言ってから、彼は何か思いついたことがあるのかポン、と手を叩く。
「なるほど、俺の料理滅多に食べに来ないと思ってたけど内臓を義体化してるから普段は効率の良い義体用のエナジーバーとゼリー飲料だったってわけか……」
「痛いところ突いてくるなお前」
鏡介がそう言って辰弥を睨みつけるが意に介されず、ため息を吐く。
「ちなみにどれだけ義体化してるの?」
「……臓器移植で使えるもの全部だ」
「マジか」
鏡介の回答に日翔が声を上げる。
「なんでそんなことに」
日翔としては全く考えられないことだったのだろう、深入りしてはいけないと思いつつも尋ねてしまう。
「……護衛対象……母さんがスラム街の生まれって言ってたのは覚えているな? そんなスラム街で子供が一人取り残されてみろ、生きることなんてできるわけがないんだ」
「でも、君は生き残った」
内臓が義体化しているのはそれが原因? と辰弥が確認する。
ああ、と鏡介が頷いた。
「最初は腎臓を売るだけで暫く生きる金にはなる、と闇ブローカーに言われてな。生きるには金が必要だと思ってたから同意したんだ。そうしたらあいつら遠慮なく臓器移植に使える臓器全部抜き取って俺をゴミ捨て場に捨てやがってな」
ああ、臓器って言うのは内臓だけじゃないぞ、眼球も含めてだからなと補足して鏡介は続ける。
「まぁ流石にそのまま捨てるのは忍びなかったのか数日分の栄養点滴だけは付けてくれて死に損なったわけだ」
「……よく、生きてたね」
内臓を抜かれて捨てられた幼い頃の鏡介を想像したのだろう、辰弥が悲痛な面持ちで呟く。
「そんな、死にかけてた俺を助けてくれたのが俺にハッキングを教えてくれた師匠だ。師匠がゴミ捨て場から俺を拾って、すぐに
なるほど、と辰弥と日翔が同時に頷く。
「まあ、母さんが『サイバボーン』に行ったのを恨む気はない。しかし――師匠、まさか、な……」
先ほどの真奈美との会話を思い出し、鏡介は顎に手をやり考えた。
「師匠、母さんの弟だったのか……?」
「どういうこと」
真奈美の過去を聞いていない辰弥が首をかしげる。
「ああ、お前はあの時いなかったもんな。真奈美さん、自分の弟に鏡介を保護するよう頼んだらしいんだ」
日翔の説明になるほどと頷く辰弥。
「でもなんで疑問形なの。その師匠って人、名乗ってないの?」
至極真っ当な辰弥の質問。
鏡介の師匠が名乗っているならこの疑問は生まれないはずである。
そうだな、と鏡介が頷く。
「師匠、『ハッカーが正体を明かすのは危険だから』と言って名前も何も教えてくれなかった。ただ、『
ハッカーには通り名があってな、それで呼べってことだよと鏡介が解説する。
「へー、ハッカーには通り名、ふぅん……」
それは初めて聞いた、と日翔が意味ありげに笑う。
「じゃあ、お前の通り名は何なんだよ」
「は!?!? なんでお前に言わなきゃいけないんだよ!」
日翔のニヤニヤした質問に鏡介が何故か赤面しながら怒鳴る。
その頃には麻酔も切れて来たのか漸く上半身を起こし、そして接続したばかりの背部と生身部分の接触による痛みに顔をしかめる。
「いいじゃんかよー、教えろよ正義くん」
「……正義?」
日翔が口にした聞きなれない名前に辰弥が首をかしげる。
「日翔! 辰弥、その名前は忘れろ! 俺の名前は! 水城! 鏡介! だ!!!!」
「えー、いい名前じゃん正義って。ああ、辰弥、こいつ、本名はなが――」
「日翔ォォォォォォォォ!!!!」
痛みをものともせず、鏡介が日翔の口を塞ぎにかかる。
しかし元から体力差のある二人、鏡介は「怪我人は大人しく寝てろ」とばかりにあっさりベッドに転がされ、日翔は一仕事したとばかりに手を叩く。
「ぐぅぅぅ……」
鏡介が唸り、日翔を睨みつける。
「ほんと、怪我人は寝てて。で、通り名は何なの」
一応知っておいた方がよさそうだ、と辰弥が鏡介に訊く。
観念したように鏡介は口を開いた。
「……
辰弥と日翔が顔を見合わせる。
辰弥は「そう来たかー」という顔をするが、日翔は何故か顔を輝かせる。
「カッコいいじゃん! 黒騎士だろ? 俺、バカだけどそれくらいは分かるぞ!」
「……だから言いたくなかったんだよ……」
布団を頭まで被りながら鏡介が呟く。
「まあ、とにかくこれで大体のことは分かったよ。鏡介、お疲れ様」
その調子なら明日にはもう動けそうだよね、と辰弥に言われ、鏡介はああ、と頷いた。
「今日一日はここで休ませてもらおう、俺も疲れた」
そう言って辰弥が「今日一日泊めてもらえるように交渉してくる」と部屋を出ていく。
二人きりになり、日翔は布団をかぶったままの鏡介を見た。
何かとても大切な話があったはずなのに、忘れている気がする。
しかし、日翔もそろそろ疲労が限界だった。
一つ大きなあくびをして、部屋の隅のソファに身を沈める。
「……まあ、お前が助かってよかったよ」
そう、本音をぽつりと漏らす。
いくら鏡介が両親が嫌った義体を装着していると言えども、その両親は今はこの世におらず、最終的な判断は自分でするしかない。
最終的に自分は親の言葉より鏡介を優先したのだと、今更ながらに日翔は思う。
同時に、それでよかったのだ、と。
両親の言葉に背いたことにはほんのわずかに呵責を覚える。
しかし、それ以上に鏡介が大切な仲間だと思えたから日翔は彼を見捨てなかった。
日翔の視線の先で、布団がもぞもぞと動く。
「……手間をかけさせて、護衛対象を危険にさらして、悪かった」
ベッドの上で、鏡介が呟くように日翔に言う。
何言ってんだよ、と日翔が反論した。
「お前は真奈美さんを庇ったじゃねーか。庇ってなかったら真奈美さんは死んでた。それに結果として位置情報を隠せたんだしお前は何も悪くねーよ」
「……そう、かな」
不安そうな鏡介の声。
「それより、お前はよかったのか? なんで自分が息子だって言わなかったんだよ」
少々非難するような日翔の声。
日翔としては正直なところ、鏡介が息子だと名乗り出なかったことにほっとしていた。
あの展開なら鏡介が名乗り出ていれば確実に「一緒に行こう」という話になったはずである。
それなのに、鏡介は最後まで何も言わなかった。
純粋に、その理由が知りたい。
日翔は両親がとても大切な存在だった。
今でも両親の言葉は正しいと思っている。
今回はそれよりも鏡介を優先したが、それは親の言葉に背いたこととして申し訳ないことをした、という意識もある。
だから、鏡介が母親に自分が息子だと名乗り出ず、相手が何も知らないまま別れたことが理解できなかった。
理由がいるか? と鏡介が言う。
「そりゃあ、普通名乗るだろ。『一緒に暮らしたい』とまで言われてんだぜ?」
「……まあ、それはそうだな。そうだが――」
鏡介が少し迷ったように口を閉じる。
それから、
「……俺の居場所は、あの人のところじゃなくて、『グリム・リーパー』だと思ったからな」
そう、ぽつりと呟いた。
「鏡介……」
日翔が鏡介の名を呼ぶ。
「確かに、本名は永瀬 正義かもしれない。だがな、師匠が『お前は生まれ変わったんだ』と付けてくれた
「そっか……」
鏡介もまた、親より仲間を選んだのかと。
そう思ってから、日翔は「ん?」と声を上げた。
「お前、今、『グリム・リーパー』って」
「……あ」
再び布団がもぞもぞと動き、鏡介が布団に潜り込む。
「俺は! チーム名が! 『グリム・リーパー』とは! 認めない!!!!」
「もう認めてんだろ! いい加減認めろよ!」
「嫌だ! 認めたくない!!!!」
低レベルの口論が展開される。
そこへ交渉を終えた辰弥が戻ってきて、
「……君たち、何やってんの」
呆れたように言い放った。
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